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人権侵害国へサッカーを持って行くべきか?スペインスーパーカップを巡って

2020.01.08

サウジアラビア開催への猛反発

1億2000万ユーロの金に目がくらみ、フォーマットを変更するとともに開催地をサウジアラビアへと変更したことで、一時“宙ぶらりん”状態となったスペインスーパーカップ。人権が十分に尊重されず女性への差別が残っている国だからと政府が疑問視し、国営放送も民放も中継を諦める事態となったのだ。

最終的には有料放送での中継が決定したものの、各方面から非難の声が噴出していた背景を伝える。

 昨年11月11日、スペインサッカー連盟(RFEF)がスーパーカップのフォーマット変更とサウジアラビア開催を正式発表した。同カップ戦は伝統的にリーグ王者とコパ・デルレイ王者の間で8月にホーム&アウェイで争われてきたが、その存在意義が揺らいでいたのは確かである。例えば、昨季はバルセロナ対セビージャの対戦だったが、そもそもリーグ戦とカップ戦の覇者バルセロナにコパ・デルレイ決勝で0-5と大敗したセビージャをぶつけて何を決めようというのか?という疑問があった。しかもバルセロナが大金を稼げる親善試合の契約を結んでいたせいで日程が取れず、中立地モロッコで一発勝負という訳のわからないことになっていた。

 そこでRFEFがひねり出したのが、リーグ戦の2位、3位の2チームを加えた4チームでのトーナメント戦という新フォーマット。これで2020年の分については1月8日の準決勝第1試合でコパ・デルレイ王者バレンシアとレアル・マドリーが対戦、9日の第2試合でリーグ王者バルセロナとアトレティコ・マドリーが対戦し、勝者が12日に決勝を戦う。

 この変更が海外開催を前提としていたのは明らかだ。一発勝負なら中立地しかないし、4チーム参加にしたことで2強枠はほぼ確保。20年から3年間の開催権を競り落としたサウジアラビア側も、2強の参加が決め手だったと認めている。連盟の懐には1年で4000万ユーロ、3年で計1億2000ユーロ(約144億円)が入り、半分が4チームで分配、残りはアマチュアと女子サッカー振興に使われるという。

「平等のスーパーカップ」という理屈

 が、サウジアラビア開催には批判の声が相次いだ。

 アムネスティ・インターナショナルは公式WEBサイトで「サウジアラビアには人権侵害の歴史がある。女性は差別に苦しみ、表現の自由は制限され、イエメンの戦争に参戦し、死刑と拷問が広く採用されている」という同団体スペイン局長のコメントを含む、公開書簡をRFEFに突きつけ開催地変更を求めた。

 女性差別について付け加えると、同国で初めて女性がサッカースタジアムに入ったのは2018年1月のこと。が、男女混合ではなく女子席での観戦だった。今回のスーパーカップでは、スペインの女性は自由な服装で男女混合の席で観戦できることが、RFEFからもサウジアラビア側からも発表されている。近年同国の民主化が進んでいるのは確かで、15年12月に女性に初めて選挙権・被選挙権が与えられ、18年6月からは女性の車の運転も認められている。だが、サウジアラビアの女性がスペインの女性同様にスタジアム内を自由に動いて男女混合席で見られるかどうかは、蓋を開けてみないとわからない。

 こうした声に対して、ルイス・ルビアレスRFEF会長はこう反論した。「世界には不平等がある」「男性に生まれることと女性に生まれることが同じではない国もある」と認めた上で「我われが平等の洪水で満たすことで変化に貢献することができる」とし「これは男女平等のスーパーカップである」と結論付けた。むしろ差別があるからこそその国へ出かけて行き、サッカーの力を借りて解消のために貢献しよう、という理屈である。

 確かに、奔放なスペインの女性があちらのスタジアムで自由に振る舞うことは一種のカルチャーショックにはなろう。だが、正月休みの後で旅費と滞在費で1000ユーロ以上(約12万円)の出費が見込まれるとなると「平等の洪水」とはならないだろうし、何より連盟がサウジアラビアを選んだのは大金のせいであって、人道的な理由は後付けに過ぎない。

イタリアは2018年からスーパーカップをサウジアラビアで行っており、今季はスペインより一足早く12月22日に開催された(写真は観客席のファンの様子)。一方で、20年ダカール・ラリーはサウジアラビアで行われるが、そのスペインの放映権は国営放送が握っている。ルビアレスRFEF会長も指摘するこの矛盾にTVEはどう答えるのか? 政治とサッカー(というビジネス)はまたも境界線を越え、我われに難問を突きつけている

中継拒否という強烈なダメージ

 続いて拒否を表明したのは国営放送『TVE』だった。「女性のスポーツをサポートしている我われが、女性のスポーツ参加を制限している国を支持するわけにはいかない」がその理由だ。それに影響される形で民放の2大メディアグループとリーガを有料チャンネルで放送する局が辞退を表明。RFEFはスペインでの放映権を競売に掛けるつもりで入札の締め切りを11月28日としていたが、入札がないままお流れとなった。

 これは大きなダメージである。

 政府や人権団体による批判は前述の「男女平等のスーパーカップ論」で押し切れば良い。“我われはサウジアラビアの女性を助けに行く”と言えばモラル的には傷付かなくて済む。だが、こちらには高額の放映権料損出という実害が伴う。加えて、スペインでのテレビ中継がなくなればサッカーファンにもソッポを向かれ、“我われのカップ戦を勝手に海外に売りに出した”とRFEFだけが悪者になりかねない。公的な団体の長ながら商売人として振る舞ったせいで、RFEF会長は窮地に追い込まれたのであった。


(※編注)本稿掲載後の12月5日、スペイン国内でリーガやCLを放映している『テレフォニカ』傘下の有料放送局『モビスター』が放映権を取得。 スペイン国内でも中継されることとなった


Photos: Getty Images

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。