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ムバッペら巣立っていく逸材が最初にモナコを“選んだ”理由

2019.10.29

モナコのブノワ・バディアシル

育成大国フランスにおいても近年、生え抜きを含む若き才能をとりわけ多くビッグクラブに輩出、高額取引を成功させているのがモナコだ。その好循環を生む「環境」とは?

 今年8月、モナコの育成所からまた一人、ティーンエイジャーがメガクラブへと巣立った。2003年1月生まれの16歳、アンニバル・メジブリ。マンチェスター・ユナイテッドが獲得したMFは、9歳の頃から欧州中の強豪が目をつけていたという注目株だ。

 2016-17シーズンにリーグ優勝を遂げたモナコは、その翌年の夏にかけてキリアン・ムバッペを含む多くの主力を売却し、推定5億6000万ユーロ(約672億円)を手にした。2011年12月に現オーナーであるロシアの実業家ディミトリ・リボロフレフが実権を握ってから同2018年夏まで、その間の移籍金収支は2億ユーロ(約240億円)以上の黒字だ。一人で1億8000万ユーロを計上したムバッペを筆頭に、今夏パリSGがドルトムントから獲得したCBアブドゥ・ディアロや現マルセイユのFWバレール・ジェルマンなど、アカデミーで育てた選手が実質的にクラブに利益をもたらしている。

 約10人の専属リクルーターを抱え、常時3人をパリ近郊エリアに、残りはフランスのみならず世界の各大陸に据え付け、絶えず原石の発掘に力を注いでいる。ただ、それは昨今、他のビッグクラブもおおむね同じ。モナコの特筆すべき点は、多くのクラブが接触する状況において、その選手と家族の首を縦に振らせるところだ。冒頭のメジブリもかつてのムバッペも、アカデミーを決める時点で多数の選択肢があった中でモナコを選んでいる。

 その理由として大きいのは、「環境」だ。独立した公国であるモナコには、一定以上の税収がある人物や特別な理由がなければ定住できない。その分、一部の観光地を除き街は非常に静かで落ち着いていて、サッカーに集中できる理想的な環境にある。育成所はモナコの絶景を見下ろす高台の街にあり、今年1月には最新設備を備えたアカデミーが新装オープンした。2017年5月にはベルギーのクラブ、セルクル・ブルージュを買収し、若手に実戦経験を積ませる場を用意。アカデミー生らがプレーするCFA(4~5部に相当するアマチュアリーグ)とリーグ1では力の差が大き過ぎるため、プロ入り後によりスムーズに即戦力となれるよう考えられた措置である。

 また、家族への対応も手厚いと評判だ。金銭面だけでなく、住居の提供といった部分に関しても選手と家族の意思を尊重した柔軟さがあるという。ムバッペには寮ではなく、いつでも家族が遊びに来られるよう街なかにアパートが用意されていた。もちろん指導内容にも定評があり、由緒あるU-18以下のカップ戦、クープ・ガンバルデッラでは過去10年で2度の優勝を飾っている。そうしてここから次々にビッグクラブへと巣立てば、その実績も選手、クラブ双方にとって評価対象となり、さらにポテンシャルのある原石が集まる、という好循環を生み出している。


Photo: Getty Images

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Profile

小川 由紀子

1992年より欧州在住。96年から英国でサッカー取材を始め、F1、自転車、バスケなど他競技にも手を染める。99年以来パリに住まうが実は南米贔屓で、リーグ1のラテンアメリカ化を密かに歓迎しつつ、ブラジル音楽とカポエイラのレッスンにまい進中。