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部活×データ分析。とあるサッカー部の実例

2019.08.21

粉河高校サッカー部で実践しているゲームモデル型のチーム作りをまとめた書籍『プレー経験ゼロでもできる実践的ゲームモデルの作り方』を7月27日に発売した脇真一郎先生。「ゲームモデルの達成度を測る上で欠かせないのがデータ分析」というのが彼の持論で、公立高校でありながら監督と生徒たちが一体となって動画分析共有ソフトを使った試合分析を行うというユニークな取り組みをしている。その実態を教えてもらおう。

 「サッカー×データ」というと、ボール支配率やシュート数、走行距離やプレーゾーンなどのデータを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、これはあくまでもプロの世界の話。我われのような部活動やアマチュアチームの多くは詳細なデータを手に入れることは難しいです。その前提の上で、我われ粉河高校サッカー部が、どのようにデータを扱い、チームや選手に還元しているのかを紹介しましょう。

「ゲームモデル×データ」の利用法

 粉河高校サッカー部では動画分析共有ソフト(SPLYZA)を活用し、「デジタルデータ」を用いての振り返りや分析を行っております。基本的な流れは、以下になります。

試合等をタブレットで撮影
動画分析共有ソフトにアップしてチーム全体で共有
ミーティングやそれぞれの振り返り等に活用

 動画分析共有ソフトの機能として動画への「タグづけ」があります。タグが自動的に集計され、グラフとして可視化させることもできます。例えば「ボール保持」「ボール非保持」というタグづけを行えば、「ボール支配率」を数値として示すことも可能です。このような機能を活用し、自分たちがその試合でできたこと、できなかったことをデータとして「可視化」すれば、次の取り組みがスムーズになります。

 また、試合に対する評価や振り返りを行うには「基準」が必要です。単純に「ボール支配率」を数字で示したとしても、それがチームの戦い方を評価する上でどのような意味を持つのかが定まっていないと意味を失ってしまいます。ですので、我われはその「評価基準」という意味も含めて「ゲームモデル」を作成し、実践してきました。

 例えば、ゲームモデルにおいて「攻撃」「攻撃⇒守備」「守備」「守備⇒ 攻撃」という4局面に分類して整理を行っているとすれば、同様に「タグづけ」を設定することができます。要はゲームモデルに紐づけてデータを取り扱っているわけです。では、実際のデータをご覧ください(DATA1参照)。

 初期の頃はシンプルにシュート等のわかりやすいプレーを抽出していましたが、徐々に「ビルドアップ」への評価や「サイドチェンジ」といった具体的なプレーが登場しています。このように、ゲームモデルの洗練が進むと、それに付随してプレー原則やコンセプトも整理され、より「タグづけ」の内容も具体化していきました。

 試合を評価する指標としては「前半」と「後半」のデータも役立ちました。例えば、ある試合では相手の強烈なプレッシングをいかにして回避しながら有効な前進を行えるかがポイントでした。我われとしてはゾーン1(自陣の1/3)を越えてゾーン2(中間の1/3)には必ず前進し、そこからの駆け引きでチャンスメイクを狙っていました。しかし前半はまだ拮抗していましたが、後半はほぼ相手のプレスに屈しました。そうした状況が「プレーゾーン」の集計結果に如実に反映され、それがアーカイブされていくわけです。本校では試合中に動画分析共有ソフトを使ったリアルタイム分析までは行っていませんが、それでも十分な成果は得られています。

 このようにして、自分たちの「狙い」をデータを活用して「評価」する取り組みを積み重ねてきました。選手たちも単に自分たちのプレーを振り返るだけでなく、具体的な数値としての評価を知ることで、より強い実感を持って成果や課題と向き合うことができていると感じます。さらに、部員たちで「タグづけ」を行ったり、どのようなタグによって試合を振り返るのかという試行錯誤を経て、選手たちのサッカーに対する視点は明らかに進化していると実感しています。このように動画分析共有ソフトを使ってデータのアーカイブや共有がスムーズに行えるようになりましたが、もう1つの実践報告として「アナログデータ」についても触れておきます。

スコアシートの可能性

 サッカーにはソフトを使用するデジタルデータと、自らの手で取れるアナログデータがあると考えています。アマチュアレベルの部活動でも、試合の「スコア」を記録しているチームは多いはずです。私自身も高校の大会で「記録係」を務めたことがありますが、選手の背番号や氏名、ポジション、ファウルや被ファウルの数や時間帯、シュートの本数や時間帯、得点の流れなど、まばたきすら許されないような量のデータをリアルタイムで追随&記録し続けなければいけませんでした。その大会では学生が2人で作業を分担し、私が補助としてその記録内容をチェックし続けるという形式でしたが、ひたすら大変でした。公式記録として残すことが目的ですので、可能な限り客観的なデータ、言うなれば「状況証拠」をきちんと記録する必要があるので、そのように手広くデータを収集していたのだと解釈しています。

 私自身、実は数年前までは特に考えもなくネット等で手に入るようなスコアシートを使って、自チームのマネージャーに記録を取ってもらっていました。そのデータの活用と言っても、実際のところシュート本数程度しか見ていなかったです。そこでゲームモデルを作成した私は、どうにかしてこのスコアシートのデータを活用できないものかと試行錯誤し始めました。現在の世代となり、デジタルデータを活用して日々の積み重ねをする中で、ふと選手たちから意見が出されました。

 「自分たちは得点力が低過ぎると思う」

 確かに新チームとして発足以降のスコアを振り返ると、集計するまでもなく得点数が少ないことは歴然でした。なるほど、選手たちの得点への意識をまずは変えるためにデータを活用してみようと思い立ちました。

 その結果、完成したスコアシートがDATA2とDATA3です。かつては「オフサイド」や「ファウル/被ファウル」も記録していましたが、現在のメインはシュートと得点に絞りました。さらにシュートを枠内と枠外に分け、ただ単に打てばいいのではないという意識づけも意図しました。

 まだまだ道半ばの状況ですが、やはり「目に見える」データには力があるようです。選手それぞれの感覚として「最近得点を取れていないな」とは感じていても、それが具体的にどの程度であるのかはデータが示してくれます。選手たちとわかりやすいデータを共有することで、モチベーションを刺激することに成功しました。特に、自分が得点をしてチームを勝たせる意識の強い選手たちは、凄まじいこだわりを見せてくれました。デジタルデータもアナログデータも工夫次第で大きな効果を発揮します。「部活×データ分析」の挑戦はこれからも続けていくつもりです。

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Profile

脇 真一郎

1974年10月31日、和歌山県生まれ。同志社大学卒。和歌山県立海南高等学校でサッカーと出会って以降、顧問として指導に携わる。同県立粉河高等学校に異動後、主顧問として指導を続け7シーズン目となる。2018年5月に『フットボリスタ・ラボ』1期生として活動を開始して以降、“ゲームモデル作成推進隊長”として『footballista』での記事執筆やSNSを通じて様々な発信を行っている。Twitterアカウント:@kumaWacky