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チリ戦分析:個々の奮闘とグループとしての日本の欠陥

2019.06.20

平野将弘の日本代表テクニカルレポート

若手中心の陣容で20年ぶりのコパ・アメリカに挑んでいる日本代表。初戦は王者チリ相手に0-4の完敗を喫した。欧州の現場を知る指導者の目にこの一戦はどう映ったのか。イングランドのカーディフでコーチを務める平野将弘氏が分析する。

 格上のチリ相手に奮闘した――試合のバックグラウンドや様々な要素を考慮したうえでの、私の率直な感想だ。

 結果だけ見れば0-4。試合内容も負けに値したことは認めざるを得ない。ただし、客観的に見てみるとそこまで落胆するほどでもない。多くの選手が東京五輪世代で構成されたスカッドで臨んでいることを考えればなおさらである。

 ただ、格上相手に個々が奮闘していたのとは裏腹に、チームやグループとして日本が長年抱えている大きな戦術的欠陥が散見されたのも事実である。これらを見極め、分析や練習し、実行して再評価するのは彼ら次第であり、彼らの仕事だ。

 そうしたチームの状況も踏まえて、今回の記事では①ボール保持時、②ボール非保持時、③トランジションの3局面にフォーカスして日本のパフォーマンスを分析する。

①ボール保持時

 私は森保ジャパンを「基本的にはショートパスを繋ぎながらボールを保持して点を奪おうとする」チームだと見ている。実際、この試合のロングパス使用率を見てみると、チリの15%に対して日本は10%。相手よりもショートパスを使う割合が高かった。ボール保持自体は45%で相手に譲ったが、それでも日本がショートパス主体に攻撃を組み立てようとしていたことがわかる。ただ、エルサルバドル戦(同7%)と比較するとロングパスが増えていた。この試合ではビルドアップの際に出口やサポートがなく、苦し紛れに前に蹴って相手に取り返されてしまう場面があったことが数値となって表れたのだろう。そうならないための解決策を見つけるか、あるいは蹴らざるを得なかった際の決まりごとを作ることが大切だ。

 このほかのスタッツで試合を象徴していたのがパス成功率だ。日本の数値を見てみると前半は78%だったのに対し、後半は86%まで上昇している。ただ、これは日本のパフォーマンスが改善したというよりは、リードを広げていったチリのプレスの位置と強度が変化したことによるものだろう。逆に言えばフルメンバーではないとはいえ、自陣に籠って守備をするのではなく前線からボールを追ってくる相手とこの真剣勝負の舞台で試合ができたことは、まだまだ安定感がない後方からのビルドアップをレベルアップさせる絶好の機会となったはずだ。

 この試合での日本のビルドアップの基本形は、セントラルMFの1人をCB間に下げてもう1人は中央に残すとともに、両SBが前に留まった方のセントラルMFと同じ高さを保つ、というもの。

日本のビルドアップ時の配置の一例。開いたCBの間に片方のセントラルMF(このシーンでは中山雄太)が下がり、SBはもう片方のセントラルMF(柴崎岳)と同じ高さを取る

 そして興味深かったのが、残る前線4人のポジショニングである。両サイドMFの前田大然と中島翔哉は、外に開くこともあったがかなり中に寄った位置を取ることが多く、その間に久保建英。一番前に上田綺世という形だった。

試合を通して中にポジションを取ることが多かった日本の両サイドMF。図は2分49秒のもの

 分析に入る前に、両サイドMFが中に寄ることで生まれる主な利点を整理しておきたい。SBを1列上げるためのスペースを作れること、彼ら自身がよりゴールに近い位置でボールを受けられること、そしてお互いの距離が近くなるため、ボールを奪われた際にすぐに取り返しやすいこと、あたりが挙げられるだろうか。これらを踏まえたうえで、実際の試合で起こったことを振り返ってみよう。

 まずSBに関しては、高い位置へ上がりサイドMFがいたスペースを使って攻撃参加することはほとんどなかった。三好康児と安部裕葵が投入された後に比較的前へとポジショニングできるようになったが、それは相手がプレスの強度を落とし、より低い位置で守備を始めたから。つまり、利点の1つを生かせなかったということだ。

 また、前田のストロングポイントである、前のスペースに飛び出すスピードを消してしまう配置だった感は否めない。彼はより外側へとポジションを取って、サイドのスペースを突く役割の方が適切だっただろう。この試合では中でボールを受けてそのまま中のレーンをドリブルで突っ走り、相手にぶつかるという現象が頻発していた。一方、左の中島に関してはよりフリーロールを与えられていて、足下でボールを受けては得意の仕掛けるドリブルを見せた。また、中島が本来いるべきポジションには、気を利かせた久保がしばしば埋めており、彼のインテリジェンスや戦術理解度の高さが見られた。

 ボール保持時の陣形に関しては、前述の通りSBがなかなか攻撃参加できなかったこともあり後方の7人(大迫敬介、原輝綺、植田直通、冨安健洋、杉岡大暉、柴崎、中山)と前方の4人(前田、中島、久保、上田)ではっきりと分断されてしまっていた。特に、前の選手の距離が異様に近くお団子状態になっていた。基本的なことだが、攻撃では幅と深さを考えなければならない。

前後の分断を象徴する10分31秒の配置図。前線の4選手で速攻を仕掛ける場面が目立った
開始1分2秒のシーン。5人が中レーンに並んでしまっていた

 試合を見ていて、選手交代のあった66分までの時間で個人的に1番しっくりときた遅攻は9分50秒からのシーンだ。ボールを前へ運んだ植田の縦パスが高い位置まで上がっていた右SBの原へ渡り、クロスを演出した。あとで振り返ってみると、このシーンでは両SBが外のレーンで幅と深さを取れていた。このような攻撃の構築を日本代表は物怖じせず常に目指すべきだし、五輪世代中心の若い選手たちでも、チリ相手に披露できる能力があることがわかったのは収穫である。

②ボール非保持時

 長らく日本代表、そして日本人が抱えている守備面での根本的な問題がこの試合でも露になった。最も顕著なのが、ボール非保持時にボールがあるサイドとは逆のサイドMFが高い位置にいてMFラインまで下がらず、位置すべき場所にいないこと。この試合の日本代表のシステムを、私なら[1-4-2-2-1-1]または[1-4-2-2-2]と表す。驚くことに、格上の相手が深い位置でボールを支配しているにもかかわらず、両サイドMFはMFラインまで戻る意識が希薄だった。良くても2人のうちの1人だけがMFラインでの守備へ参加し、もう1人は高い位置に残っていたのである。格上相手に前線に3枚を残す。これはかなり衝撃的な戦い方だった。

 特に中島の守備時の位置取りには一貫性がなく、しばしばカウンターの機会を伺い前線に残っていた。それにより日本の左サイドにはスペースが生まれ、チリの右サイドは効果的なサイドチェンジやSBの攻撃参加を駆使して上手にそのスペースを活用していた。この試合で杉岡がなかなか高い位置へ攻撃参加できなかったのは、少なからず守備に多くのエネルギーを費やさなくてはならなかった事実が影響していたであろうことを指摘しておきたい。チリの2点目のシーンを見返すと、フエンサリダがアルトゥーロ・ビダルにパスをした時には映像の画面内に映っていた中島は、イスラがオーバーラップしても彼について下がることはなく、イスラがボールを受けた時には画面の外へ消えていた。

フエンサリダ(左)に杉岡が苦しめられた背景には、組織守備の問題があったと平野コーチは指摘する

 個人的には、森保監督は4人からなるMFラインでブロックを形成したかったに違いないし、そうだったと願いたい。ただ、実際にはボール非保持時のMFラインは4人の時もあれば3人の時も、2人の時さえあった。もし事前に監督が4人のMFラインを形成してほしいと考えていたなら、試合中にそれを守れていない選手に対して指示を出して修正すべきだったし、日本の左サイドが数的不利によってチリに搾取されたことを察知したならば、試合中に選手を動かして改善してほしかったというのが正直なところではある。

 この守備時のポジショニング問題に関しては、小さい頃から培っている原理原則の部分で選手たちの悪い癖になっているのだろう。徹底したコーチングや定期的なビデオセッションで指摘していかないと、改善することは難しいと感じる。

 その他には、守備の強度に関してはやはり低かったと言わざるを得ない。また、逆境の時に鼓舞できるリーダータイプの選手がピッチ上に誰もいなかった。過去の日本代表で言えば田中マルクス闘莉王のような選手が、このチームに必要だと感じた。

③トランジション

 ポジティブトランジション時に、質的優位性の観点から個の能力の高さを見せつけたのが久保だった。十分なサポートがなくとも、相手を1人2人とかわしチャンスを作ったり、自ら決定機を演出。日本がボールを奪った際のカウンターアタックで、彼が第1パスの出口(受け手)となり重要な役割を果たしていた。

アレクシス・サンチェスと競り合う久保

 また、唯一の大学生プレーヤーである上田が彼の最大の強みである、ゴール前でのポジショニングの良さを発揮したのもこの局面だった。トランジションから得た決定機は3つあり、柴崎からのものが2つと安部からが1つ。相手の組織が整っていない時のゴール前でのスペース搾取の狡猾さが目立った。

 逆に、もっと見たかったのが前田の裏抜け。後半に左サイドでスピードを駆使して相手を抜き去ったシーンは、そのスピードの使い方によっては世界でも通用することの表れだった。

 一方のネガティブトランジションでは、先述したように前線4人が近い距離を保ち攻撃していたにもかかわらず、カウンタープレスでボールを取り戻すシーンはあまり見られず。前に人数を割いているのに、2人のセントラルMFが同時に1人の相手に対してプレスに行き裏を取られたりすることもあり、約束事をもう一度整理するべきだと感じた。

 次戦は強敵ウルグアイ。おそらくグループステージで最も力がある相手に違いない。そんな相手に対して森保監督がどのような采配をしてくるのか、またこの初戦から何をどう修正したのかに注目したい。


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Photos: Getty Images

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チリ代表戦術日本代表

Profile

平野 将弘

1996年5月12日生まれ。UEFA Bライセンスを保持し、現在はJFL所属FC大阪のヘッドコーチを務める。15歳からイングランドでサッカー留学、18歳の時にFAライセンスとJFA C級取得。2019年にUniversity of South Walesのサッカーコーチング学部を主席で卒業している。元カーディフシティ