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名古屋グランパス好調の要因は守備戦術にあった~風間八宏の挑戦

2019.03.29

1.5→1.7→0.8

 「風間監督のサッカーには守備戦術がない」

 Jリーグの監督となって7年あまり、いつしか風間監督のサッカーはこう言われるようになった。就任後の名古屋グランパスの成績を見てみよう。

シーズンリーグ総失点平均得点平均失点結果
2017J265(22チーム中17位)2.021.53位(プレーオフで昇格)
2018J159(18チーム中17位)1.531.715位(得失点差で残留)

 

 このように、この2シーズンの失点数は非常に多い。2017シーズンの65失点というのは、2012年にJ2が22チーム42試合制になって以降で、J1昇格に成功したチームの失点数としてはダントツのワースト記録(2位は55失点)。昨季の59失点も、2009年以降の10年でJ1残留を果たしたチームのうち、これ以上失点したチームはわずか3チームしかいないという極めて多いものだった。そして、前任地である川崎フロンターレが、後を託した鬼木監督の下で守備を整備したことにより2年連続リーグ優勝に輝いたことも相まって、「守備戦術がない」という評価を定着させたのだろう。

 そんな中で迎えた2019シーズン、グランパスは3勝1敗と好スタートを切った。数字の中で目立つのは4試合でリーグ最多の9、1試合平均では2.3を数える得点数。攻撃力に関しては、昨年の良い状態を維持もしくは向上させていると考えても良いのではないか。

 しかし、それ以上に目を引くのが、4試合でわずか3、1試合平均0.8という失点数だ。

 守備戦術がないと言われてきた風間サッカー。この数字は偶然なのだろうか、それとも何かがピッチ上に存在しているのだろうか。

変わっていないこと、変わったこと

 過去2年間、風間監督が選手に体現させようとしてきたのは、大まかに言うと「ボールを握り、主体的に相手守備を崩しに行く攻撃的姿勢」「ボールを奪われた時は即時奪回を目指す攻撃的守備」の2点を軸に、極力相手陣内で試合時間を過ごそうと試みるサッカーだった。そのためか、練習の多くの時間は攻撃面の研鑽に割かれ、守備のみにフォーカスするメニューはほとんどなかったと言われている。結果として、攻撃面での理想が果たされなかった時の守備はあまりにも脆かった。ピッチ上の現象を見る限り、「即時奪回に失敗したら、とりあえず自陣に戻ってブロックを組み、あとは個人に任せる」という形以外守り方が確認できなかった。そのため、組織で崩されると抗うことができず、数多く失点。浮き沈みの激しいシーズンを過ごす原因となっていた。

 では、2019シーズンを迎えてこのアプローチに変化があったのか、といえば、そこは何ら変わっていない。しかし、「ボールを握ること」については、新加入のジョアン・シミッチにより安定感が格段に向上。また「即時奪回」についても、同じく新戦力の米本拓司の高い即時奪回能力により大きく進歩を遂げている。多くの時間を相手陣内で過ごすためのボール保持と即時奪回能力は、健在どころかパワーアップしているのだ。

 もちろん、いくらボール保持の安定性と即時奪回能力が高まったとしても、ボール非保持の時間が消えてなくなるわけではない。そして、昨年までのグランパスはその時間に数多く失点し、敗戦を重ねてきた。

 ただ、開幕からの4試合ではこの2人の加入による能力の向上だけでなく、守り方そのものが昨年と大きく違うことが明確に見えてきた。

 具体的には、相手チームが自陣からビルドアップする際の振る舞いだ。これまでは即時奪回以外にはほとんど手が入っているように見えなかった「ボール非保持」のシチュエーションでの守備のうち、後方からのビルドアップに対してはかなり明確な方針、指示の下で守備を行っているように映ったのである。

2019シーズン グランパスの守備の基本形

 今年の守り方の特徴は、両サイドMFがかなり高い位置を取ることだ。このポジション取りの目的は、簡単に言えば「相手陣形の後方に位置するビルドアップ参加選手に張り付き、楽をさせない」ことにある。特にボールホルダーに対しては速やかに「抜かれず、縦にパスを出されず、大きく蹴り出そうとしたら圧力をかけられる」位置へいち早く移動することが求められる。

 昨年までは3、4人で行っている相手のビルドアップに対し、FWの2人が走り回ってビルドアップの阻害を試みていた。だが、ワイドに開いた選手にまではなかなか圧力をかけられず、ボールを運ばれてしまっていた。それが今シーズンはこのポジショニングによって、圧力が薄いところを使って相手が楽に運んで押し込まれる、というシーンが目に見えて減っている。

 この守り方の最大の目的は、まず相手のビルドアップ参加選手に一定以上の圧力をかけ続けて、前に進めるドリブルやショートパスによる前進を諦めさせること。そして、ボールが収まりにくい大きなボールを蹴らせることで競り合いの状況を増やし、結果として生まれるセカンドボールを回収することにある。事実、即時奪回のシチュエーションを除けば、相手選手を挟み込んでボールを奪うという形は、今年もさほど多くはない。相手に圧力をかける中でショートパスを引っかけて奪うという形も存在するが、あくまで圧力をかけてボールを蹴らせ、こぼれ球を生み出すことの方が狙いとしては大きいのではないだろうか。実際、ボールを奪い返すシチュエーションはセカンドボールの回収、苦し紛れのパスやボールコントロールを引っかける、蹴ったボールがミスになる、という形が大半を占めている。

 この目的を効率良く実現するために、ボールホルダーがショートパスを送り込めそうな場所に位置する相手選手に対しては、ボールが入ったら速やかに圧力をかけられるポジションを取ることが求められている。そして、ボールホルダーから遠いゾーンを受け持つ選手は、大きく蹴り出されたボールへの対応やこぼれ球を拾う準備を行う。ただし、前線の4人はともかく、その後ろを守るセントラルMFの2人やSBの2人がカバーすべきエリアは恐ろしく広大になる。そのスペースを少しでも減らすには、必然的に高い最終ラインを維持してセントラルMFとの距離を縮める必要がある。最終ラインがかなり高い位置を維持しているのは、前4人と最終ラインとの距離を極力圧縮して、セントラルMFとSBの負担を軽減することを狙っているものと考えられる。

なぜこのやり方を選択したのか

 なぜグランパスは、風間監督はこの戦術を採用しているのか。それを説明するうえでキーワードとなるのが「ハーフコート」という言葉だ。風間監督はこれまでも各種インタビューの中で「ボールを握り続ければ失点することはない」という言葉を何度となく口にしてきた。また、試合後の記者会見を紐解いてみても、「ハーフコートで多くプレーできていたこと」を評価するニュアンスの発言をすることもが多い。つまり「相手がボールを握っている時も、相手陣内でプレーするように仕向ける」ことを評価しているということだ。

 これを念頭に置くと、相手のビルドアップ参加選手に前の4人をぶつけ、相手陣内にステイさせようとする今回の守り方の意図はしっくりくる。昨年までは即時奪回ができなければ退却して人を並べるしかなかったが、今年は相手陣内でプレーを続けるためのレパートリーの一つとして、今回の守備戦術を採用したということだろう。これは間違いなく、風間監督のチーム作りの哲学に沿ったものである。

 では、どうして今年からなのか。やろうとすれば昨年からできたのではないか、とも思えるのだが、上でも書いた通り、これはセカンドボールを確率良く拾えて初めて成り立つ戦術だ。特に、後ろの6人に運動量や判断力、スピードやアジリティという要素が備わっていないと成り立たない。対人にもセカンドボール奪取にも強く運動量もアジリティも高い米本、高い判断力と運動量で正しいポジショニングができるシミッチというセントラルMFの2人。そして、同様に対人に強いうえに上下に広いエリアをスピードでカバーできる吉田と宮原。昨季半ばに加入した丸山と中谷も十分なスピードと対人の強さを持っている。これだけの選手を並べて初めて、ようやくこの戦術は機能する。

 そう考えると、昨年のメンバーではできなかったが、今年のメンバーだからこそできるようになった、ということなのだろう。

弱点と課題①ポジショニングと崩された時のカバーリング

 ここまではグランパスが、そのチーム哲学に沿った守備戦術を手に入れつつあることを語ってきた。しかし、守備戦術に万能なものはなく、また導入したての戦術ということもありまだまだ粗が見受けられるのも事実。中でも、ここ2試合の失点シーンにはそういった部分がわかりやすく出ていた。

 上図はJ1第3節ガンバ大阪戦の35分9秒前後のシーン。5三浦弦太のパスを受けた22オ・ジェソクの前進を29和泉竜司が止めた(上図①)ことで、22オ・ジェソクはすぐ真横でフォローした15今野泰幸を経て5三浦へボールを戻す(上図②)。この時、図でもわかる通り、32赤﨑秀平は5三浦にボールが戻れば圧力を十分かけられる場所へポジション取りをしていた。しかしこの戻しのボールに対して29和泉はそのままの流れで5三浦に食いつく形になってしまった(上図③)。

 ここで29和泉が5三浦にバックパスをさせるように守れれば良かったが、反転して一瞬剥がすことに成功した5三浦は22和泉が空けたスペースにいる22オ・ジェソクへ再度ボールを送り込むことに成功(上図①)。和泉も再度追いかけるものの、相手の前進を防ぐポジションへの移動は間に合わない。こうなると困るのは23吉田豊。前後に広大なこのスペースを一人で守るという意識とボールホルダーに圧力をかけなければいけないという本能から、わずかに前のスペースに引きずられたポジションに移動してしまった(上図②)。これを見逃さなかったのがいわゆるハーフスペースのレーンにポジションを取っていた8小野瀬康介(上図③)。

 全力スプリントで23吉田の背後のスペースを突くと、22オ・ジェソクからのスルーパスを受け取って裏に抜け出すことに成功(上図①)。グランパスの守備陣が全員ゴールに向かって走る状況に追い込まれた中で、小野瀬のグラウンダーのクロスが絶妙な強さとタイミングでGKとDFの間に送られてオウンゴールを誘発することとなった(上図②)。

 このシーンで現れた課題は2点ある。1つ目は、前4人が相手のビルドアップ参加選手の前方に生じるスペースを潰し続けられないと、この守り方は成立しないということ。今回は和泉が戻しのパスに対して、味方のポジショニングを見ずにつっかけてしまったことが問題となった。このケースについては守る味方の認知と意識の問題であり、和泉がプレスを自重して赤﨑に任せるという受け渡しの形が徹底できれば、再発は防げると考えられる。

 ただ、これ以外のパターンでも同様の状況は起こり得る。特に想定されるのは、味方の攻撃が終わった後のネガティブトランジションの状況。名古屋がボール保持して崩しにかかる場合、サイドMFはかなり自由なポジション取りを行い、ともすれば逆のサイドにポジションを取っている場合すらある。この状態から本来のポジションに速やかに戻るのは困難で、ここ4試合でも前線に張り付いたサイドMFが戻り切れず、ボールを大きく自陣ゴール側に進められてしまうという状況を少なからず目にしている。

 そして、もう1つの課題は、ボールホルダーに対する守備が崩れた時、どのように対処するかという約束事がまだ明確ではないこと。剥がされてボールを持った相手に、誰がカバーをしにいくのか。そしてその動きに伴ってできた別の穴を誰が埋めるのか。今回の例で言えば23吉田は最終ラインを守り、22オ・ジェソクへのカバーは8シミッチが行い、そこでできたスペースを米本が、米本がいたスペースを他の誰かが埋める、という形でカバーリングができれば、守れる可能性は増したかもしれない。

 他競技を例にとると、バスケットボールにおいてはチームディフェンスで、相手に崩された時のカバーリング時の合言葉として「ヘルプ、フィル、リカバー」というものが存在する。ヘルプは崩れた場所そのものをカバーする時に使う言葉、フィルはカバーした選手が守っていた場所を埋める時の言葉。そしてリカバーは、カバーの連鎖でずれてしまった陣形を立て直すことを指す言葉だ。サッカーでこのような現象を定義する言葉があるかどうかはわからないのだが、少なくとも実際の試合を見ている限り、水際での守備が強いチームは、こういう細かい部分がしっかりしているように見受けられる。前から積極的に行く守備を採用している以上、このようなカバーリングの必要性とは常に背中合わせのチームであることは間違いない。こういったカバーの連鎖対策のクオリティ向上には取り組んでほしいところだ。

弱点と課題②ハイラインのリスクマネジメント

 守り方の説明のところでも取り上げたが、現在のグランパスの守り方は、ポリシーというだけでなく、運動量の多いセントラルMFやSBの負担軽減の考えからラインを高く上げることが必要不可欠となっている。その結果生じる背後の広大なスペースを守る方法として、現在主に使われているのが丸山の指揮によるラインコントロールとオフサイドの奪取だが、この4試合、特にFC東京戦を見る限り、その精度には改善の余地が残るように見える。

 先日のJ1第4節FC東京戦の失点シーンを見てみよう。グランパスの右サイドの攻撃からボールを奪った25小川諒也はすぐに前方にいる10東慶悟へパス。パスを受けて巧く反転した10東は中谷進之介と丸山祐市の間のスペースへスルーパスを送り込む。スピードに乗って裏で受けた永井謙佑は、素晴らしいコース取りのドリブルからゴールへ流し込んだ。このシーンを10東がスルーパスを蹴る瞬間で止めてみると、20中谷が17丸山、23吉田の作る最終ラインから明確に後ろにはみ出してギャップを作ってしまっているのがわかる。

 このギャップができる理由は、彼がCBとして請け負っている役割と大きな関連がある。その役割とは、裏抜けに対してオフサイドが取れなかった時に、後方にダッシュしてカバーリングを行うことだ。この後方へのスピードが優れているという要素こそが、現在中谷がレギュラーポジションを確保している理由と言える。よりボールの扱いに優れる千葉和彦がリーグ戦でレギュラーポジションを明け渡している理由も、ひとえにこのスピードの有無に起因する。そして、このタスクを請け負っている分、他の最終ラインの面々と比べてどうしても後ろに重心が残ってしまう。この4試合で時折見られた、中谷だけほんの少しラインがそろわない現象は、ここに原因があると考えている。

 この現象への処方箋はもちろん中谷の勇気と認知と判断であり、丸山との意識合わせになる。しかしその一方で、今丸山がやっているような「基本的にすべて罠にかけに行く」守り方が本当に効果的なのかを検証する必要もある。この守り方は手段の一つであり、決して目的ではない。相手ボールホルダーが圧力を受けずにボールを蹴ることができる状態にあったとするなら、オフサイドトラップはなおさらギャンブルの色を強くするように思う。一か八かが必要なタイミングもないわけではない。だが、一か八かに頼らずに済むためにも、頼る際にはその賭けの勝率を増やすためにも、できうる範囲で駆け引きのカードを増やしておくことが、今後に向けて必要なのではないだろうか。

風間八宏の挑戦

 ここまで述べてきた通り、ここ4試合を見る限りでは、風間監督率いる名古屋グランパスが、これまでやってこなかった「守備戦術」を敷いてきたことは明らかだ。それは洗練された欧州の最先端の戦術からすれば随分粗削りなものではあるかもしれない。だがこれは、グランパスが行いたいサッカーに向けて、チームが呼び集めてきた選手の特徴を最大限に生かし、チームの哲学と組み合わせて風間監督が作り上げた、紛れもない「守備戦術」だ。そして、この守備戦術の効果が出てきていることは、昨年34試合中、なんと20試合で起こった「前半のうちに相手チームに与えてしまった先制点」が、今年の4試合でまだ1試合もないことを見ても間違いない。

 2017年、2018年と、その方向性を打ち出しつつもすべてを叶えることはできなかった2年間を経て、リーグカップにおいても同様のやり方を実施できるほどの充実した戦力を抱えることができた2019年。

 この「守備戦術」は監督・風間八宏の最大の挑戦の第一歩、なのかもしれない。

Photos: Getty Images, Takahiro Fujii

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名古屋グランパス風間八宏

Profile

Kohei Aoi

愛知の片田舎出身・在住。バスケットボールをメインフィールドに、サッカーや野球、他の球技を眺め続けて幾十年の本業サラリーマン。Bリーグのブログではブースターのみならず、選手・フロントからも高い評価を受けている。正しい構造と意図されたカオスが好き。Twitter:@Nacky_FENGCD