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無理をするな、Jクラブのツイッター運用はダサくていい

2019.03.18


 フットボールを愛するみなさんこんばんは、ジェイ(@RMJ_muga)と申します。

 タイトルがちょっとアレな感じですが、別にダサいと決めつけている訳でも開き直っている訳でもありませんのであの! 石を、石を投げないでください!

 「日本の事情的に、カッコよさばかりを追求するのはしんどいよね!」ということを少しばかりお話させていただければという次第でございますので。

実はものすごく狭い、スポーツとサッカーの市場

 さて、基本的には気の向くままエモーショナル?に書かせていただくわけですが、最初にちょっとだけ数字を挙げておきますね。

【2018年スポーツマーケティング基礎調査】

 こちらの統計によると「スポーツ参加市場規模」は約2.5兆円で、サッカー日本代表とJリーグのファンも増えているとのこと。喜ばしい数字です。

 しかし一方でこちらの資料を見てみますと……。

【レジャー白書2018】

 日本の余暇市場全体はなんと約70兆円。それぞれ別の統計ではありますが、単純に比較してみるとスポーツが占める割合はわずかに約3.5%です。そこからサッカー観戦のみの数字となると、本当に微々たる割合になるでしょう。

日本にはライバル娯楽が多すぎる

 そんなわけで、マーケティング的な観点から見るとサッカークラブのライバルは優勝や昇格残留を争う他クラブとはなりません。もちろん隣町のにくいあんちきしょう、ダービーマッチの対戦相手なんかはライバルに違いありませんが、その前に戦うべき相手がいます。それが「時間消費」です。

 世界でも稀に見るエンターテインメント大国・日本では、他スポーツと同時に数多の時間消費活動(各種テーマパークやカラオケ、アイドルの追っかけ、餅撒き、ガンプラ作成、Tiktokの動画作成などなど)が立ちはだかってきます。

 サッカークラブは競争に勝ち抜くため、それら――2時間1800円の映画や、月額1800円のNetflix謎ドラマ――を上回る価値を創出して示し続けなければなりません。

 そして伝統的に、スポーツをビジネスとして扱い辛い土地柄…。そもそもサッカーを選んでもらい、お金を使ってもらうことへのハードルが恐ろしく高い。例えリーグ内ではどれだけビッグクラブであろうと、恰好をつけている余裕はないのです。

※3億6千万の男。

「サッカーはマイノリティである」ことを自覚しよう

 さらに、私たちが思っている以上に「サッカー」とそれに類するものは知られていません。サッカーをよく知らない層との間に横たわる溝は、既存ファンが想像する以上に深いものがあります。

 適切かどうかわかりませんが身近な例を挙げますと、過去にレノファ山口のホームゲームにて「選手紹介の際に歓声と拍手が起きた対戦相手の選手」が3人いました。それが岩政大樹さん(元日本代表/山口県周防大島町出身)、三浦知良選手(ご存じキング)、小野伸二選手(元日本代表)です。

  他にも元日本代表選手や有名選手が多数来山しましたが、拍手が起こったのは後にも先にも(レノファゆかりの選手を除いて)この3人だけです。さすがに田中マルクス闘莉王選手クラスには拍手が出るかなと思ったのですが、ありませんでした。V・ファーレン長崎の高杉亮太選手も山口県出身なのですが、岩政さんとの知名度の差によるものか2年連続で拍手はわずかでした。頑張れ山口県民。

 このように、スタジアムに来場している人たちですら興味関心と知識には大きなバラつきがあるわけで、ましてや来ていない層となると一体全体です。長い歴史の末、当然のようにサッカーが根付きまくっている欧州とはそもそもの出発点が違います。

 特にJリーグの新興クラブでは、「サッカーはよくわからないんだけど、地元チームや選手が好きなので応援しています!」という新規・常連層が多数を占めているのではないでしょうか。こういった環境でサッカーそのものの価値ばかりをアピールしても、なかなか効果を上げることは難しいでしょう。

 「サッカーは世界中で愛されていて最も人気のあるスポーツ」という思考は、いったん取っ払ってしまう必要があるのではないかと思うのです。アビスパの選手が束になっても田村ゆかりさんのフォロワー数には遠く及ばないし、日本人サッカー選手で杉田智和さんを上回っているのは唯一、世界のシンジカガワ選手だけなのですから。

「カッコよくない発信」を否定すべきではない

 ただまあ、できることならそりゃあCOOLにキメたい。

【たとえば欧州であれば……】

※本文は「あと2日…」という一言に、赤丸と青丸の両クラブカラーを添えただけ。添付画像のデザインもいたってシンプル。

 こんなカッコいいツイート告知ができるわけですね。

 しかしながらこれが成立するのは、対戦する両者がビッグクラブであること、その2クラブのダービーマッチであることや、両者のクラブカラー、エデン・アザールというスーパースターなどの「周知」があってこそです。

 Jクラブの試合でこういったクールテイスト告知をしても、大多数の人にとっては「何のことかよくわからん」で終わってしまう可能性が高いのではないでしょうか。

 必然的に「まずはとにかく知ってもらいたい 」「楽しい雰囲気を発信して興味を引きたい」というのが切実な施策となるわけです。気取ったブランディングができる立場ではないのですから、スーパーのチラシみたいのでもなんでも、とにかく知らしめる。「何か面白そうなことをやってるぞ」感を前面に押し出していく方向性を間違いとは言い切れないでしょう。

※下部組織のカブ

 もちろん、欧州的クールのエッセンスも取り込めるものはどんどん取り込んでいくべきだと思います。特にデザイン面について、「普段使いできるようなグッズ」はまだまだ不足しているのが現状ですから、奈良クラブや東京ヴェルディが追従したような「ユヴェントス的手法」を積極的に模倣していくのは大いにアリでしょう。

リソース格差を補い個性を出すための「公式外アカウント」

 そんなこんなで、Jクラブのアカウント運用は本当に難しい。競技性を追求しても大した人数は振り向いてくれないし、ちょっと奇をてらうとイロモノ扱いされてしまいます。

 ところで、この原稿を書いている最中にタイムリーな記事が発信されていたわけですが、

※な、なんや欧州もおもろいことやっとるやんけ……(ただやはり、何気にクオリティが高い)

 記事中では「アカウントに個性を持たせる」戦略が紹介されていますが、これもまた歴史と市場規模に基づくリソースがあってこそ。『デジタル&ソーシャルメディア最高責任者』などという役職はJクラブに存在するのだろうか……?

 実際のところは広報担当が1人しかいない、というJクラブは多いと思われます。その限られたスタッフが、練習風景の写真や動画を撮りながらメディア対応をこなしつつ、ファンサービス対応の管理もする。そんな激務の合間に必死のツイートをしているわけです。アカウントに個性を持たせようにもなかなか余裕がないでしょう。余裕がないと、発信量も増やせず内容も無機質になってくる。クラブの個性や顔がどんどん見えなくなってしまいます。

 しかし各クラブとも、ただ手をこまねいている訳ではないのです。足りないリソースや知名度を補うべく、新たな取り組みが模索されています。

 最近、公式とは別の「クラブ関係者による発信」というものが増えてきていると思いませんか?

 代表的な例はやはり、

 ジャパネットたかた、髙田社長でしょうか。

 髙田社長のツイート数はあまり多くなく、むしろ現場で触れ合って情報収集する主義を取っていますが、外からきた大物アカウントという意味ではJリーグの先駆けかもしれません。さらに、

かーねるさん(ガイナーレ鳥取)

えとみほさん(栃木SC)

中島啓太さん(FC今治)

中川政七社長(奈良クラブ)

 などなど、近年は異業種からJクラブに就任する、という流れが加速しつつあります。この方々に共通するのは優秀な経営者やビジネスパーソンであると同時に、サッカー界外のフォロワーを多く抱えているという点。

 みなさん多忙を極めてはいらっしゃるのですが、影響力と発信力のある方がサッカーを語ってくれることにより、単純に新たな注目が集まります。そして興味を持ってくれた経営者やクリエイターなどがさらに集まり、新しいものが生まれてくるかもしれません。クラブの「視覚化」にも繋がってくるでしょう。

 また一方で、サッカーという競技そのものについての発信も強化されていく流れができつつあります。

 フットボリスタではすっかりおなじみの牛ど……奈良クラブGMの林舞輝氏。フォロワー2万人超え(しかし95%以上が男性)の彼を始めとして「指導者自身が発信する」ということがスタンダードになりつつあります。公式アカウントで語るのが難しいサッカーそのものについては、指導者アカウントがその役割を担っていくようになるのではないでしょうか。

 ポジショナルプレーについての見事な記事を書いた彼や、

「芸術としてのサッカー論」を提唱する彼や、

 「科学としてのサッカー論」を語る彼などの新世代コーチが、将来Jクラブで活躍する際にどのような発信を行ってくれるのか非常に楽しみですね。

休日の娯楽に、サッカーを選んでもらうために

 ちょっと話がそれた気がしなくもなくもないですが、そろそろまとめに入りましょう。

 ここまでの話を整理しますと……

◇日本には娯楽のライバルが多すぎる
◇サッカーもまだまだ根付いていない
海外ビッグクラブと同じスタイル・規模はどうやってもできない
ただ参考にしたり、エッセンスを取り入れることはできる
現状は苦しいが、絶望的でもない。新たな取り組みにも期待できる

 そしてタイトルの話に戻るわけですが、ダサくていいというよりも、カッコいい/クール的なものが本当にパイを増やしてくれるのか?最大公約数を取れるのか?という疑問が私の中にあるわけです。

 もちろん本当にダサダサなものはいかんと思うのですが、クールゆえに受け付けられない、ということも世の中にはあると思うんですよね。世の中ちょっと隙がある、ちょいダサくらいの方が良いのでは。

 極端な例ですが、例えば村上春樹氏の小説を読んでそのキャラクターに感情移入できるか?というと、私は無理です。「ちょっとチーズでもつまもうと恵比寿のバーに行った」とか言われても世界が違いすぎて全然カッコいいと思えない。それに新山口駅から恵比寿まで、新幹線と山手線を乗り継いで4時間41分もかかります。おシャレなシャツはちょっと着こなせない、ベタベタな法被を着て応援するほうが良い、という人もいるわけです。

 さらに古い話になりますが、その昔、ハードボイルド探偵ドラマをつくろう!となった際に、あの松田優作にして「ハンフリー・ボガードのようなハードボイルドは日本ではカッコいいと受け入れられないのでは……? しかし自分がカッコいいと思う男、エリオット・グールドでは華が足りなさすぎる……」と悩んだ末に『探偵物語』の工藤ちゃん、ハートボイルドに行きついたわけです。歴史と、そもそもの土壌の違い。カッコよくキメなくてもいい、冗談でも本気で演じれば本物になる。

 ということで、JクラブのSNS運用については無理にカッコよさを追求せずに

(一見)ダサくても良い
②ただし粋であること=美意識と個性があること
③そして「優しさ」があること

 この要件を満たしてハートボイルド路線でいくべし!ということでどうでしょう。。。(投げっぱなしで終わる)

※強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない

Photo: Takahiro Fujii
Edit:Daisuke Sawayama

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Profile

ジェイ

1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。