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何のため、誰のためにあるのか。曖昧な日本のトレセンの意義

2019.02.13

「ドイツ」と「日本」の育成~育成を主戦場に活動する二人が日本の現状を考える〜

日本の指導者たちは子どものために日々努力を重ねている。が、その努力は正しい方を向いているのだろうか? また、本当に子どもの成長へと繋がっているのだろうか? 日本サッカーはまだ発展段階にある。ならば昨今、どのカテゴリーでも結果を残しているドイツをはじめとする世界の育成にヒントを得てはどうだろうか。そうすれば「今自分が行っている指導を振り返る」キッカケになるはずだ。そこで指導者として、ジャーナリストとして、それぞれドイツと日本の育成現場にたずさわる二人が毎回あるテーマをもとに本音トークを繰り広げる。

今回のテーマ「日本にとってのトレセンって何?」

▼そもそもトレセンは必要なのか?

中野「最近、知り合いの若手指導者が『日本のトレセンに関する疑問』をTwitterにアップしていました。肯定的な意見、批判的な意見がいろいろと飛び交う中、『そもそもトレセンは何のためにあるべきものなのか』、『日本の現場でトレセンはどのような立ち位置にいるのか』、『日本に合った形・やり方とはどういうものだろうか』ということを一度しっかりと考えるべきではないかと思いました」


木之下
「ひと昔前は『才能ある選手にレベルの高い指導を』といった意向もあったのでしょうが、最近は優秀な指導者が増えてきて、『トレセンに行かなくても所属クラブで質の高いトレーニングができる』環境が少しずつ各所で整いつつあります。だからこそトレセンも含めて育成環境は一度見直すべきことがあるのかな、と。ドイツでは、トレセンの立ち位置、機能はどのようなものなんですか?」


中野
「ドイツにおけるトレセンはタレント育成改革の中でしっかりと再整理されました。366カ所の『シュツットプンクト』と呼ばれるセンターがあり、30人ほどの専任コーディネーターがいます。彼らが中心となり、スタッフを選出し、プランを落とし込んでいきます。それぞれシュツットプンクトは周囲にある70あまりのアマチュアクラブを担当し、その中から選手をピックアップしていきます。

 基本的にプロクラブの育成機関に所属している選手は選出されません。

 目的は『プロクラブの育成機関に今選出されるほどではないが、今後成長することができる可能性を持った選手をサポートし、レベルを引き上げる手助けをする』となっています。所属クラブでは体験できないレベルの高いトレーニングを提供し、選手がそこで成長し、さらに上のステージに行くための一助となるためにシュツットプンクトはあるわけです。だから、トレーニングの内容もグループ戦術や個々の技術・戦術理解、ゲームインテリジェンスにフォーカスしたものが多いです」


木之下
「なるほど。日本だと、Jクラブの選手も選ばれたりしていて、ドイツではプロクラブからは選ばず、地域クラブに『いい指導の機会を与える』という点では違いがあるように思います。先日、日本の指導者がトレセンの選考基準をツイートしていて話題になりましたが、ドイツではどういった選考基準があるのですか?」


中野
「まず、5つのカテゴリーに大きく分けられます。

A:テクニック
B:ボールを持った時の創造性
C:戦術理解
D:フィットネス
E:その他


 そして、それぞれに細かくチェックポイントを設け、担当指導者が選手を把握するための指針にしてもらっています。例えば、戦術理解のカテゴリーだと、オフ・ザ・ボールの動き(体の向き/ポジショニング/スペースに走り込むコースとタイミングとスピード)、攻守の切り替え時の動き出し、その他の項目だと、コミュニケーション能力(ポジティブなボディランゲージ)、リスクチャレンジする姿勢など。これらチェックポイントはすべての項目を網羅していなければならないとか、多くのチェックがされていればいいというわけではなく、特に優れた特徴や能力を持った選手を探し出すための一助としても有効に活用します。

 他のチェック項目にまだ難点があっても、例えばオフ・ザ・ボールのポジショニングが優れていて、器用な体の使い方ができて、ミスをしてもすぐに取り返そうと動き出せる選手がいれば、すばらしい選手になる可能性を秘めていると見ることができます」


木之下
「A〜Eの分け方もそうですが、例えばオフ・ザ・ボールに関することも『体の向き/ポジショニング/スペースに走り込むコースとタイミングとスピード』というふうにすごく細かいです。何より日本だと、どれだけチェック項目が埋まっているかで判断しそうです。でも、選手の特徴や能力を読み解くことに活用している点については、ドイツがしっかりと個に目を向けているのがわかります。日本では、採点側のサッカーに対する理解や解釈の部分を深める必要があるのかなと思います。

 ただ、急には変えられないので、現実的にどうするのかが大事だと感じます。例えば、個人的には選手を集めるのではなく、B級ライセンス保持者以上の指導者が各クラブを回って指導者養成を兼ねた活動に切り替えるのも一つの方法のような気もします。つまり、タレントをトレセンに預けるのではなく、所属クラブでそこの指導者と一緒になって育成する。

 現状のトレセンの在り方だと、選手の活動量の問題、トレセンに選ばれることによる選手と保護者の勘違いなど、負の要素があまりに多いです。もちろんJFAから都道府県協会への補助金をつけるなどを行い、B級以上の指導者養成と派遣されるトレセン指導者に対する金銭的な問題など解決しなければいけないこともありますが、地域のトレセン基準をいろんな指導者から聞いたり資料を見たりする限りはTwitterで拡散されたものと変わりがない印象です。

 中野さんだったら、どうしますか?」


中野
「結局のところ誰も『トレセンって何のためにあって、誰が何をするんだ?』というのが思っている以上に曖昧なままなんじゃないかなと思うんです。ある地域のトレセンで指導した経験のある知り合い指導者に聞いたことがありますが、現地に集合してから担当インストラクターの方に『では、今回はそれぞれ20分ずつ受け持ってトレーニングしてください』とだけしか言われなかったとか。でも、それだとその日重点的にすべきテーマとか、その学年の目的みたいなものとかを考慮することもできませんよね? じゃあ、『インストラクターがもっとがんばれよ』っていう声もありますけど、インストラクターはインストラクターで手いっぱいなのが現状だと思います。

 やることが多過ぎる。あと『トレセン指導者はB級ライセンス以上保持するように』という通達がJFAから降りてきていますが、だからといってB級ライセンスを取るためのサポートがあるわけではない。トレセン指導者をやっても手当てがつくわけでもない。

 トレセンの指導者のみなさんは兼任でやっているわけですよね?

 結局、自分のチームがあるので、並行して、あるいは追加で何かするのは時間的にも、負荷的にも無理が生じてしまいます。どれだけフェアにやろうとしたって周囲の人の受け止め方次第で、変な印象を持たれたりもしてしまう。大変なことだと思いますよ、現場は。誰かががんばらないと歯車が回り続けない状況っていうのは、結局うまく噛み合っていないわけなんです。だから、現状日本の現場でトレセンを無理なく回すことができないなら、『そもそもやらなきゃいい』と私は思っています。 みんなが疲弊してまでトレセンってなくちゃいけないものかと、考えてみる必要があるんじゃないかなと。トレセンの意義がフワフワしちゃって伝わらずに、『選抜性』という点だけがどんどん強まっています。最近では、トレセンに入るためのスクールなんかも出てきて、『あれ? そもそもみんな子どもたちがもっとサッカーうまくなるためにやろうとしてたんだよね?』という部分が完全に置き去りになってしまっています」

▼指導現場と切り離さない仕組みを考える

木之下「トレセンもある意味JFAが『タレント発掘』とうたい、その時々でうまいとされるタレントを『単に把握しておきたいだけ』のものに成り下がってしまっているのではないかと思うこともあります。それを地域の指導者にさせているから負担に変わってしまっています。

 大切なのは、地域との関わり合い方ではないかと感じています。

 選抜性という上が下を吸い上げるような方式をとるから、地域のクラブや指導者に負担がかかって生活までをも圧迫している。むしろ上から下に降りてきて自分たちの持っている指導のノウハウを還元していけば、今とは違うトレセンの在り方ができるかもしれません。神奈川の大豆戸FCの末本代表がこう言っていました。

 『B級やA級というライセンスを取得した、すばらしい知識を持つ指導者が公園でサッカーして遊んでいる子どもたちにさりげなく、遊びの邪魔をしないようにプレーを教えたらもっと日本のサッカー環境は良くなりますよね』

 格差社会が強まる昨今、サッカーもお金がなければできないスポーツになりつつあるからこそ本気で見直すべき時が目の前に迫っている。搾取ばかりを考えるのではなく、関わり合い方として等価交換になっているのか、互いに必要以上の無理がないのかは仕組み化を図る上では重要な考慮点です。

 そういう投資を考えると、また違ったトレセンがあるのではないかと最近よく思います。中野さんの言う通り、日本のトレセンはJFA、都道府県協会、地域の市町村協会、地域クラブとその指導者と所属選手たちとの間の歯車が噛み合っていません。だから、地域の現場に不満が渦巻いているし、現場が疲弊している。

 上からの指令で『子どものため』を言われると『そうかな』と感じていますが、その感覚は単なる麻痺でしかないから、もっと『サッカーって子どもたちにとって本来どういう存在なのか』という根本的にしてシンプルな発想から見直すと見えてくることがあるかもしれません。すでに各々が世界各地の情報を得て指導の勉強をし、結果を残している昨今、そもそもトレセンが必要なのかはもう日本全体で考えるべき時ですね」


中野
「時間がある、所属チームをもっていない、勉強意欲がある。この要素を満たしているのって、日本だと大学生だと思うんです。サッカー部でなくてサークルでサッカーを続けている人の中にも『サッカー大好きで、勉強熱心な子たち』がたくさんいます。だったら、彼らにやってもらえばいいとも思います。正直、高校生でもいい。

 経験を持つインストラクターには協会からの専任としてちゃんと給与を出して採用し、彼らを指導していく。『1年間の活動を経て、ライセンス交付』というのがあってもいいと思いますし、普通のライセンス講習会以上の学びの場になるはずです。

 トレセンの現場に立って、地元のサッカー界の様子を目の当たりにして、対策をみんなで考える。そんなワークショップを重ねていけば、間違いなくたくさんのプラスの効果が生まれるはずです。

 日本はつながりが生まれにくい。やりたい、変えたい、変わりたいという人が本当は多いはずなのに、そうした人同士がつながる機会が少ないというのが私の実感としてあります。だったら、その場を作ってあげればいい」


木之下
「おもしろいアイディアです。ドイツやスペインでは大学生、また高校生の時から現場で指導を学びますよね。そういう場所があれば、指導者不足に悩む地域クラブにとってもプラスに働きます。地域のクラブの代表、保護者からも『いい指導者がいないんですよね』という声をよく聞くし、例えばクラブの卒業生を指導者として育成しているところは、地域に必要とされるいいクラブが多いです。

 その輪をもっと大きい意味で捉えると、トレセンの在り方のヒントになりそうです。一クラブから一人ずつ、トレセンインストラクターの指導を受けていったら随分指導レベルが上がるし、クラブにとってもトレセンにとっても現場の負担が改善されそうです。学生たちもインターンのような意味合いで実社会に触れることもできる」


中野
「そうですね。やはり現場を切り離さないでつないでいくことを大前提として考えなければならないと思います。必要なものが何なのか、その人材をどこから集めるのか、どういった可能性があるのか、無理のないサイクルを作ることができるのか。このあたりを整理していくことが求められてくると思います」


木之下
「このトレセンというテーマは、なんだか2人だけで話すのがもったいないですね。私たちの語りをキッカケに全国のサッカーに関わる人たちに意見を求めてみましょう。

 『トレセンってどう思いますか?』

 そうすれば、もっと驚くようなアイディアが出るかもしれません。今回の記事のツイートに、ぜひみなさんの意見をお寄せください。ということで、第六回を〆させていただきます」


【プロフィール】

中野 吉之伴
1977年、秋田県生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成年代指導のノウハウを学ぶためにドイツへ渡る。現地で2009年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-16監督、翌年にはU-16・U-18総監督を務める。 2013-17シーズンはドイツU-19の3部リーグ所属FCアウゲンで選手の育成に励む。3月より息子が所属するホッホドルフのコーチ、5月から古巣フライブルガーFCのU-16監督を務め、人生で初の2チームの育成に同時に関わる。2015年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行う。 2017年10月より主筆者としてWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。

木之下 潤
1976年生まれ、福岡県出身。大学時代は地域の子どもたちのサッカー指導に携わる。福岡大学工学部卒業後、角川マガジンズ(現KADOKAWA)といった出版社等を経てフリーランスとして独立。現在は「ジュニアサッカー」と「教育」をテーマに取材活動をし、様々な媒体で執筆。「年代別トレーニングの教科書」、「グアルディオラ総論」など多数のサッカー書籍の制作も行う。育成年代向けWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の管理運営をしながら、3月より「チームコーディネーター」という肩書きで町クラブの指導者育成を始める。

Photos: Kichinosuke Nakano

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