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ポジショナルプレーに別の呼び方? 林陵平が明かす“探求”の成果

2018.10.11

「フットボリスタ・ラボ」林陵平選手トークイベントレポート 後編


去る9月上旬、「フットボリスタ・ラボ」で開催したイベントに、現役Jリーガーの林陵平選手が登場。本誌に掲載したインタビューで本人いわく「JリーグNo.1の海外サッカーマニア」に違わぬマニアっぷりを披露してくれた林選手が、ポジショナルプレーにはじまり今季の欧州サッカー注目クラブ&選手、そして参加者の疑問・質問にたっぷりと答えてくれた。今回は、そんなイベントの模様を3回に分けてレポート。後編では、林選手がラボメンバーからの質問に回答。プレーに関することから海外サッカー視聴スケジュール、さらには戦術用語に関するとっておきの話まで明かしてくれました。

文 フットボリスタ・ラボ


中編はこちら

● ● ●

(ユース時代の戦術練習は)
今考えてみると少なかった。そこは日本の改善しなきゃいけない部分


浅野
「じゃあここからは、林選手への質問コーナーに移ります。質問のある方、いらっしゃいますか? いきなり、思った以上に手が挙がりましたね(笑)」


――先ほど、ロティーナ監督がポジショナルプレーを仕込むのがとてもうまいとおっしゃっていました。林選手が実際に指導を受けられている中でどういった面がうまいと思われたのかと、あとはGKという特殊なポジションの指導に関して、具体的にどういうことをされているのか、可能な範囲でお聞きしたいです。


林 
「話したい部分はすごくたくさんあるんですけど、チームに関わる具体的な話はできないんです、すみません。ただ、2つ目のGKに関しては、フィールドプレーヤーと同じ考え方を持ってないといけない、というのはあります。ポジショナルプレーだとビルドアップに参加するので、GKがどの位置を見るかなどは言われていると思います。とはいえ、僕はGKじゃないんで詳しくはわかりません。ただ、やっぱり細かいですよ。ポジショナルプレーというか自分たちがやるべきことについてのプレー原則っていうのは細かく原則化されているので選手は考えないといけません。そういう部分がたくさんあります」


――プレーに関することをお聞きします。相手にリトリートされて[4-4]とか[5-4]でがっつりスペースを消された時、CFの選手はどういうことを考えてプレーしているんでしょうか? ボールに関わりにくい状況で、ボールが来ない間はどういうことを頭の中でめぐらせているのか気になっていて、お伺いしたいです。


林 
「選手っていうのはボールに触りたいものなんですけど、だからといってボールの方に寄ってしまったら、逆に相手の罠にはまってしまうかもしれません。なので、そこではポジションを守るっていうのを考えて、仲間を信じて自分のポジションをキープします。やっぱり[4-4]とか[5-4]で引かれた時に外から攻めるっていうのは結構あると思うんで。サイドのポジション取りで自分がどういう位置を取っておくかってことに重点を置いたり、あるいは引かれたとしても、裏のスペースって多少あると思うんで、そこでどう(ボールを)引き出すのかっていう部分を考えてますよね、FWとしては」


――中央では、状況によるのではないのでしょうか?


林 
「そうですね。くさびに入るっていう部分を3人目の動きとして、チームで共有していれば大事になってくると思いますね」


――貴重なお話ありがとうございました。お話があった戦術理解度について、ヴェルディユースでやってこられた林選手にお伺いします。ユースでの練習というのは僕らからは見えてこないのですが、基本的なゾーンディフェンスやプレスのかけ方など戦術練習が少ない、あまり仕込まれてないと感じる部分はありますか?


林 
「そうですね、今考えてみると、そういうのは少なかったです。少なかったですし、実際プロになってもここまで細かくポジショナルプレーについてわかりやすく教えてもらったのは初めてです、正直。おそらく、日本では教えられる人が少ないんじゃないかと思いますし、そこは日本の改善しなきゃいけない部分だと思うんです。日本人でああいう教え方ができる人は、本当にひと握りだと思います。そのぐらい(ロティーナ監督の)教え方はうまいですし、選手が何をしなきゃいけないかをわからせるのが上手だなって感じますね。ユースの時もそうですし、プロになってからもそういうふうに戦術的な部分で細かく教えられる人って今のJリーグには少ないと思うので、その部分は今日参加していただいているみなさんみたいにサッカーがすごく好きで、サッカーのことを知っている方がライセンスを取って教えてあげられるようになってほしいなと思っています」

東京ヴェルディのロティーナ監督(写真はソシエダ時代)


――今日はありがとうございます。私は慶應大学の体育会ソッカー部出身で今は慶應の女子チームの監督をやっていまして、曲がりなりにもポジショナルプレーを仕込んでいるところです。チームは今年関東1部に上がり、ポジショナルプレーをやっているチームはあまりないため、良いスタートを切れました。ただ相手によってはガンガン前から来られてしまった時、ポゼッションを大事にしたいんですがどうしても蹴らざるを得ない状況が多くなってきてしまって。そういう時に、どういった対策が考えられるでしょうか? 今は前線が同数だったら前に蹴ろうという話をして、そこからのDFラインのアップなどいろいろと仕込んでいるのですが。


林 
「すごく言いたいですけど、具体的な話はイコールヴェルディのことになってしまうので……言えるとしたら、そういった時のプランまで考えていますよ。例えば自分たちのゴールキックで始める時、相手は僕らが繋ぐってわかってるから絶対に前から来ることもわかりますよね。なので、それをわかったうえでどうするべきかっていうところまで考えています。逆に(相手が)前から来たら、敵陣では数的同数なわけじゃないですか。そこの部分をうまく使えって言われます。(相手が)前から来てるんだったら、その裏にいる味方の選手に当ててチャンスを作っちゃえばいいじゃんっていう考え方もありますからね。全部が全部繋げってわけじゃなくて、その状況を見ながらプレーしなさいっていうことを言われています」


――(相手が前からプレスを仕掛けてくると、試合の)テンポがかなり上がりますが、その時間帯をしのげばいいっていう考え方なんでしょうか?


林 
「それは点差などにもよります。けど、一貫してブレないですよね、やり方は。チームってもちろん良い時も悪い時もあると思うんですけど、やっぱり自分たちのやり方っていうのを信じて、それを続けることによって成長していく部分がたくさんあると思うので。そこは重視しているんじゃないかなと思います」


僕にとっては、サッカーを見るのが休みみたいなもの


――安西(幸輝/現鹿島アントラーズ)選手や畠中(槙之輔/現横浜F・マリノス)選手が抜けた今季のヴェルディで、質的優位の面でキーマンになっているのが奈良輪(雄太)選手や渡辺(皓太)選手、藤本(寛也)選手ではないかと私は見ているのですが、林選手から見てその3選手のすごいなという点をお聞きしたいです。


林 
「奈良輪はとにかく勤勉に働ける選手で、頭がいい選手でもあるのでチームに一人いると助かる、ポジションは違いますけどカンテみたいな存在です。SBでも右も左もできますし、チームのために戦える選手っていうのが何人かいないといけないと思うんですけど、そういう選手なのでチームにとって重要だと思います。

 藤本と渡辺に関しては、プレシーズンに初めて一緒にやった時から『2人ともいい選手だな』って感じました。僕が海外サッカーを見る時も一緒なんですけど、ボールタッチの仕方とか、動きの質とかを見てすごく面白い選手だなと。実際、渡辺は(U-21)代表で活躍しましたし、藤本は左足も持っている。2人ともうまく成長していけばA代表を狙えるレベルになっていくと思います」


――オフについて聞かせてください。試合中継などを見ていると、解説者の方が両チームの直近5試合を見たうえで戦い方を解説されたりしていますが、選手はオフの間に試合の中継を見て『ここが弱点だな』『この選手は気をつけなきゃいけないな』と勉強したり、チームメイトと共有したりするのでしょうか?


林 
「まず、オフに試合を見る選手はそんなにいません。(常日頃から)サッカーをやっているんだから、休みの時はサッカー以外のことを考えさせてくれって選手の方が多いですね、どちらかと言うと。僕みたいなヤツは稀で、僕にとってはサッカーを見るのが休みみたいなものなので、逆に僕はサッカーを見て本当にリフレッシュしている部分はあるんですけど。実際、みなさんが思っている以上にサッカー選手はサッカーを見てないし、あんまり選手を知らないよっていうのは伝えておきたいです」


――今日のお話を聞いて、あらためて林選手は相当海外サッカーに詳しいなと思ったのですが、とはいえ毎週末ご自身の試合もあって、試合がある日はリカバリーする時間とかも必要な中で、いったいどんなスケジュールで過ごされているんでしょうか? 週末の海外サッカー視聴スケジュールを教えてほしいです。


浅野
「それはぜひ聞きたいですね」


林 
「夜はちゃんと寝てます。僕は基本的に23時前には寝たいタイプで、24時を越えたら寝たうちに入らないと思っているので。今は録画してとかじゃなく見たい時に見れますからね。今であれば練習が18時スタートなので、朝起きてから試合を見て、昼飯を食べてまた試合を見る、みたいな感じです。子供が(家に)いる時は取り合いになっちゃうんですけど、幼稚園に行っている時はもうずっとサッカーを見ていることもあります。全部が全部の試合が中継されているわけではないですけど、でも視聴できるハイライトは絶対に全部見ます。その中でちょっとのシーンでも気になった選手がいればネットで調べたり、選手を知るためにけっこうそういう細かい作業をしています」


浅野
「海外サッカー雑誌の編集者としては鑑のようです(笑)」


林 
「なので試合を見て、ハイライトを見て、スタメンを調べてああスタメンはこういう感じだったんだ、ベンチメンバーはこういう感じで交代はこの選手とあの選手が代わったんだってところまで見て、それで知らない選手がいれば選手名鑑を見て。その繰り返しです。僕はそれが楽しいんです」


――ロティーナさん独特の言葉みたいなものはあるのでしょうか?


林 
「本当は言いたいこと、たくさんあるんですよ。僕は実際、ロティーナさんが話していることをメモってます。もうすごくいいことを言うんです。どちらかと言うとモチベーションを上げる言葉とかがうまくて。内容はちょっと言えないんですけど、でも本当にすごくいい言葉ばかり。戦術的なことよりは自分たちのチームの姿勢とかメンタル面とか、そういう話をよくしますね。その話し方がすごくうまい。言葉でチームをまとめる力がある、すごいモチベーターだと思います。ヴェルディはコーチのイバンがトレーニングを主に見る、どちらかと言うと海外スタイルなんです。でも、試合前に監督がかける言葉はすごく勉強になるし、もういろいろメモってます」


――レアル・マドリーに復帰したマリアーノの評価を聞かせてください。


林 
「レアルからリヨンに行く前にプレシーズンで見て、『あ、これはけっこうやるな』って思っていたんです。実際、リヨンに行って活躍している姿を見て僕の目は間違っていなかったなと感じました。一見ぎこちないように見えるけど、けっこうドリブルとかも巧い。どちらかと言うとモラタに似ているプレースタイルで、でも点の取り方も知ってるし、たぶん自信を持ってレアルに帰って来ただろうし。すごく楽しみなんですけど、ただ背番号7を背負ってしまったので、そのプレッシャーに耐えられるかなという部分は心配しています」

昨季リヨンでリーグ戦18ゴール4アシストの活躍をみせ、今夏レアル・マドリーに買い戻されたマリアーノ。ここまで公式戦5試合1ゴール(すべて途中出場)と出番が限られているが、チームの状態が下降線をたどっている今、起爆剤となるかもしれない


――アンチェロッティやモウリーニョは時代遅れになりつつあるのでしょうか?


浅野
「残酷な質問がきましたね(笑)」


林 
「そんなことはないと思いますよ。別にポジショナルプレーだけがサッカーじゃないし、最先端ってわけでもありません。またモウリーニョみたいなサッカーが最先端になる可能性もあるので別に遅れを取っているわけじゃないですけど、どちらかと言うとモウリーニョはボールを保持するっていうよりはチームが勝つためには何をしなきゃいけないかっていう考えなので、やってる選手は面白いかって言われたら面白くはないと思いますけどね。そのやり方で実際に結果を出してきている監督なので否定できない部分ではありますし。ただ実際に今のマンチェスターUを見ると、今季は厳しいかなとは感じます」


――先ほどお話が出た藤本選手、あの若さですごいなと思うのですがチームメイトとしてどう感じているか、もう少し詳しく聞かせてほしいです。


林 
「あの若さであそこまでのプレーをするっていうのはすごいと思いますし、まだフィジカルの部分とかで成長する余地がたくさんあると思います。左足であそこまでプレーできるので、成長したら面白い選手になるなというのは感じています。どちらかと言うと10番タイプなのでインサイドMFがあいつのポジションだと思うんですが、今はワイドをやっています。ただ、そのおかげで選手としての幅が出てきていると思うんです。インサイドMFが一番合っているというのは監督も言っていたことなので、その部分でも楽しみな選手だと思います」


――スペインのバスクで富樫(剛一)さんにお会いしたことがあるのですが、彼は今ヴェルディでどういう立ち位置でいらっしゃるんでしょうか?


林 
「彼はソシエダに行っていたんです。今は強化担当ですね。スペイン語は喋れるようになって帰って来たみたいです(笑)」


――ノンキャリアや年下の監督に指揮された経験はおありですか? または、そのような監督の指示を聞ける条件は何でしょうか? 選手目線でお願いします。


林 
「今32歳なので、さすがに年下はありません。でもどうなんだろうな……実績があるとかないとか関係なく、その監督がやりたいサッカーとか考えていることに対してちょっと違うなと思った場合、話が頭に入りにくいなってことは人間なので、僕に限らずどの選手でもあると思います。全部が全部、監督と合うってわけじゃないですからね。今マンUでモウリーニョとやってて『なんだよこいつ』って思っている選手もいると思いますよ。でもやっぱり監督が一番なので、監督のやりたいサッカーに自分がアジャストしていかないといけない部分はあると思います」

プレミア第8節時点で4勝1分3敗の8位とチームは振るわず、さらにポグバとの不仲説がクローズアップされるなど不穏な空気に覆われているマンチェスターUの監督ジョゼ・モウリーニョ


――食事のことでお聞きたいのですが、個人で気をつけるところもあれば、指導者から気をつけてほしいと言われる時もあると思います。ロティーナ監督の下で変わったことや、あるいは自分で意識していることがあれば教えてください。


林 
「僕自身がもともと昔から食事に対してはこだわっていて、すごく細かくやっているんです。自分で栄養学の本を読んだり、そういう部分で勉強しています。監督も食事に関してはすごく大事にしているというか、ヴェルディでも昼食があるんですけど肉は塩コショウのみとか、やっぱりこだわっている部分は見えますね。

 あんまり脂っこいものは摂るなとか食事の部分もそうですけど、海外の人って休息を大事にしていますよね。日本はやればやるだけいいだろうっていう考え方ですけど、海外の方はやるところはやって、休むところは休もうよっていう考え方。それは日本ももっと取り入れていかないといけない部分なのかなって思います。あくまで試合に向けての練習であって、練習で追い込んで試合で力を発揮できなかったら意味ないだろう、試合に向けてどれだけコンディションを良くしていくかっていう考え方なので。日本とは真逆なんですよね。その部分は僕自身も勉強になったし、試合で100%を出すために、どういう練習をしていくかっていうのはすごく考えられていますね」


――食事に関してもう一つ、これは実際にある選手が話していたことなのですが、その選手がいるチームでは独身寮にいる間は食事を出してもらっていて自分で管理できるんだけど、そこから出てしまうと結婚するまではコンビニ飯とか、食事に対する意識が欠けがちと聞いたのですが、実際のところどうなのでしょうか?


林 
「みなさんが思っている以上に、意識が低い選手はいますよ」


浅野
「林選手は栄養学についても自分で勉強されているんですか?」


林 
「そうですね。明治大学の時からです。大学で試合に出れないとプロにはなれないと考えていたんですが、Aチームの試合に出れなくて。何か変えないといけないなと思って、まず食事とか筋トレについて勉強し出しました。そしたらプレーが変わってきたんです。そういう成功体験があるので、それ以来自分で意識しています」


(スペインでは)
ポジショナルプレーのことを
“ロケーションプレー”とも言う


――メンタルケアの部分についてお聞きしたいです。先ほど、モチベーターとして(ロティーナ)監督が素晴らしいとおっしゃっていましたが、例えばネガティブなことがあった時に監督が1対1で話してくれたりするのでしょうか? また、モチベーション上げるビデオを使ったり、専門のコーチがいたりするのでしょうか? そういったチームとしての取り組みと、試合に出られなかった時期とか、ゴールが決められないっていうネガティブな状況に陥った時に林選手自身で取り組まれていることの両方についてお聞かせ願えればと思います。


林 
「チームとしてやることはないですね。メンタルトレーナーを呼ぶっていうのは、日本でもやっているチームはあるのかもしれないですけど僕は聞いたことがありません。海外では進んでいると思うんですけど。それから、監督が選手を呼んでケアするかどうかは監督によりけりです。そういうのを気にしてけっこう呼び出したりする人もいれば、そこはプロの世界だから自分でわかれよって人もいるし、それはもういろいろです。

 個人では、僕はそういうメンタル面に興味があって、シーズンの最初にメンタルトレーナーのところに自分で行って、お金を払ってでも話を聞いて目標を立てたり、夢について考えたりということをやっています。どんな仕事でも自分で目標を持つことは大事だと思いますし、だからそこはもうサッカーとか関係なく、サラリーマンの方だろうと大事な部分ではあると思いますけどね」


――プレーに関するお話を2つほど聞かせてください。一つ目は、林選手のデビュー当時のゴールシーンを見るとファーサイドでクロスを待ち受けることが多かったように思いますが、山形や柏時代にはニアで合わせるパターンになっていました。これは意識的に変えたのでしょうか?


林 
「よく見てますね(笑)。ありがとうございます。そうですね、ファーサイドよりニアサイドの方が点を取れるなっていうのはプロ生活の中で感じてきています。ファーサイドってどうしても前に敵のCBが2人ぐらいいるので、そこを越えてくるっていうのは簡単じゃないところがあって。ニアは一番先に触れるポジションなので、CBがボールと相手を見る時に、自分を見れなくなった瞬間にニアに入ると視界から消えることができます。そのタイミングで駆け引きして巧く(ニアに)入れれば、あとはいいボールがくれば点を取れるポジションではあります。なので、そこは意識的にやってます。でも、これを見られたらみんなに読まれちゃうんで気をつけます(笑)」


浅野
「どこまで出していいのかわからないですね、これ。『林はニアを切っとけばいいや』みたいになっちゃうかもしれませんよ(笑)」


林 
「まあ大丈夫かな、(対戦する選手は)読まないと思うんで(笑)」


――もう一つ、先ほどメンタルについてはお話がありましたが、フィジカルな部分のセルフケアはどういうことを行っていますか?


林 
「体のケアは自分の知り合いのトレーナーのところで筋トレなどトレーニングする時もありますし、チームトレーナーがいるので、そこでマッサージをしてもらっています」


――先ほどのクロスに合わせるところに関連した疑問で、クロスの軌道に林選手が合わせていくのか、クロスを上げる選手が林選手に合わせるのか、感覚的にどちらが近いでしょうか?


林 
「自分が動いた時に出せ!だと遅いんですよね。ボールが来る間に自分の方が前に出ちゃって、ボールは後ろを通っちゃいますから。どちらかと言うと、『ここに入れて』っていうのをある程度味方に話しておくんです。自分はこういう動きをするから、ここにボールを入れてくれって事前に伝えておいて、そのタイミングで阿吽の呼吸みたいな感じですよね。どうしても今のサッカーではスペースがなくなってきて、簡単にゴールを奪えなくなってきている時代なので。その阿吽の呼吸が合った時っていうのはスペースが生まれます。僕が今年決めた点で言えば、京都との試合(第19節/◯3-1)の1点目。ニアでクロスに合わせてヘディングで決めたシュートなんですけど、あの時は田村(直也)くんに試合前、『あそこまでボールを運べたら、俺はあそこに動くからそこにボールをくれ』って話していて、それでああいう形になりました。そういう伏線もあります。こういう細かい話も、選手の中でしています。

 僕はFWなので、味方に自分のことをどう意識してもらうかというのが重要です。これは今栃木にいる大黒(将志)さんと一緒にプレーしていた時にすごく学んだ部分なんですけど、大黒さんは味方の選手にすごく要求するんですよ。僕はそれを見て育ったというか学んだのでけっこう要求しておきます、『自分はこう動くからここにボールくれ』って。そういう細かい部分は大事だと思います」


浅野
「僕からも一ついいですか。逆に『ここに動け』って要求してくる中盤の選手もいるんじゃないですか?」


林 
「んー、それはないですね。お互い話し合って『この時はこう動くよ』とか、逆に中盤の選手が『俺が前を向いたらこう動いてくれない?』みたいな話もあるし、そこはすり合わせていく感じです」


浅野
「なるほど。ありがとうございました。名残惜しいんですけど、時間がきてしまいました」


林 
「最後に一つ、いいですか。これは全然、しゃべっても大丈夫なので話すんですけど、自分で調べてみても出てこなくて、すごいなって思った言葉の話です。今回、ポジショナルプレーについて話しましたけど、スペイン人のイバンコーチが『ポジショナルプレーっていう言い方じゃなくて、“ロケーションプレー”とも言うんだよ』って教えてくれたんです。ポジショナルプレーでどれだけ位置的優位を築いて位置が良かったとしても、自分の体の向きが良くなければボールは前に進まないよって話で、これはグアルディオラも言っていることです。つまり、ロケーションっていうのは自分が見えている景色。なので、例えばSBがCBからボールをもらう時に、CBの方だけを見てたら(前方への)視野が確保できていないので結局下げることになっちゃいますよね。そうじゃなくて自分のロケーションを、前も見れているし、後ろにもボールを返せるような体の向きをしっかりと作る。ポジションも大事だけど、自分の体の向きも大事だよって意味でロケーションプレーとも言うみたいです」


浅野
「それはスペイン界隈で使われている言葉なんでしょうか?」


林 
「みたいですね。日本には届いてないです」


浅野
「それは興味深いですね。貴重なお話ありがとうございました。今回はここに来られている方以外にも、オンラインでたくさんのフットボリスタ・ラボメンバーが参加してしてくれました」


林 
「ラボの方、みんなすごいと思います。サッカー好きな方が多くて、僕もすごくうれしいです。サッカーが好きな人が、他にサッカーが好きな人を見つけたら好きになっちゃうのって“あるある”じゃないですか。芸能人でもサッカー好きな人がいたらなぜか親近感が湧いちゃうみたいな。その感じなんです」


浅野
「ぜひまたフットボリスタ・ラボのイベントに出ていただけるとうれしいです。今後ともよろしくお願いいたします。今日はありがとうございました」



Ryohei HAYASHI
林 陵平(東京ヴェルディ)

1986.9.8(32歳) 186cm / 80kg FW JAPAN

東京都八王子市生まれ。東京ヴェルディの下部組織でジュニアからユースまで過ごした。05年に明治大へ進学して頭角を現し、大学3年の07年関東大学サッカーリーグで43年ぶりの優勝に貢献した。その年の天皇杯では4回戦まで勝ち進み、京都サンガから1得点、清水エスパルスから2得点を挙げる快挙を達成した。大学卒業後、09年に古巣の東京ヴェルディに加入したが、翌年に柏へ移籍する。12年7月からはレンタル、翌13年シーズンより完全移籍でモンテディオ山形に加入。17年に水戸へ活躍の場を移し、チーム最多の14得点を記録した。プロ10年目となる節目の今季、東京ヴェルディへ復帰を果たした。
Twitter:@Ryohei_h11 Instagram:@ryohei_hayashi


Photos: Getty Images, Bongarts/Getty Images

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フットボリスタ・ラボ

フットボリスタ主催のコミュニティ。目的は2つ。1つは編集部、プロの書き手、読者が垣根なく議論できる「サロン空間を作ること」、もう1つはそこで生まれた知見で「新しい発想のコンテンツを作ること」。日常的な意見交換はもちろん、ゲストを招いてのラボメン限定リアルイベント開催などを通して海外と日本、ネット空間と現場、サッカー界と他分野の専門家――断絶している2つを繋ぐ架け橋を目指す。

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