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「サッリ・マニア」のコーチが解く、チェルシー新監督のゲームモデル

2018.10.04

「マウリツィオ・サッリのナポリは、私が試合をした中でもベストチームの1つだ。もしかしたら、最高のチームかもしれない」――ペップ・グアルディオラ

チームに自らのフットボールを根づかせるのに必要な期間は何カ月なのだろうか。サッリはロンドンに到着し、1週間でチームを自らの色に染めてしまったかのようだった。今回は、ナポリとマウリツィオ・サッリについて1冊の電子書籍を書き上げた「サッリ・マニア」の元レアル・マドリー ユースコーチのペドロ・メンドンサが、チェルシーの今季初戦パース・グローリーFCとの試合を題材に紐解いたサッリ・チェルシーのゲームモデル分析をお届けする。


 ナポリと同様に、フォーメーションは[4-3-3]。昨シーズンは安定して出番を与えられなかったダビド・ルイスをCBとして配置し、中盤の底には新加入のジョルジーニョ。若手にも出番を与えながら、セスク・ファブレガスとバークリーがセントラルMFの位置に並ぶ。前線にはペドロとアルバロ・モラタに加え、U-17イングランド代表では攻撃の核として活躍したカラム・ハドソン・オドイ(17歳)を抜擢した。


1. ビルドアップのフェーズ


原則①:ゲームを転換する、基準点としてのGK

 サッリの「ゲームモデル」において、最後尾に位置するGKは足下でボールを扱う技術と判断力が求められる。GKはビルドアップで味方をサポートし、両足で同じようにボールを扱えることが理想だ。最後尾からのサポートは、密度の高いプレッシャーを浴びているエリアを回避し、逆サイドの密度の低いエリアへとボールを送り込むことを可能とする。下図では、GKがボールを持った時にCB2枚が左右にパスコースを生み出し、中盤の選手が間のスペースでパスコースを作っている。


原則②:CBによるゲームの構築

(1枚がボールを保持し、もう1枚が中央をカバーする)
 ボールを持っていないCBの動きは、いくつかの点において重要である。1つは、味方がボールロストした場合にスペースをカバーリングすること。もう1つは、安全な位置にパスコースを作り出すことでボールホルダーを助けることである。この場面でも、ダビド・ルイスが持ち上がる瞬間に相方のCBはカバーリングポジションを取り、リスクを軽減しようとしている。


原則③:ボールのあるエリアで数的優位を生み出すこと

 後方で数的優位を作り出すことは、サッリの哲学「ポジショナルプレー」の基礎となる。少なくともボール保持者が3つのパスコースから選択可能な状況が理想であり、ボール保持者に対して「ダイヤモンドの形」を作り出すことが基本となる。それを実現するには、チームメイトがボール保持者と離れ過ぎてはいけない。左右のパスコースを作ることで相手の守備を両側に釣り出し、縦パスを成功させる。同時に、適切な距離感で作られたダイヤモンドはボールを失った際に「即時奪回に繋がるプレッシング」を可能にする。

2. 構築のフェーズ


原則①:相手を引き寄せ、フリーマンを生み出すことを目的とした前進

 ボールを持ち運ぶドリブルで相手を引き寄せ、生まれたフリーマンにボールを渡すことで、相手のファーストプレスとなるラインを突破できる。D.ルイスがボールを持ち上がり、2列目のラインを中盤が牽制することで相手の1列目だけを引き出し、そこを回避する。


原則②:相手のライン間に、ボールを送り込む

 ストライカーやウインガーがオフ・ザ・ボールの動きによって、相手のDFラインから離れることに成功すれば、ライン間で前を向ける。このスペースでボールを受ければ、自分が前を向けない局面でもセントラルMFに落とすことで「3人目の動き」に繋げることもできる。ジョルジーニョが2列目のライン、D.ルイスが1列目のラインを引き出すことで「ライン間」に選手が入り込むスペースが生じている。


原則③:スモールフィールドでの崩し

 選手は距離感を保ちながら、三角形やダイヤモンドを作り出すことによってライン間を使った連係プレーを可能とする。DFラインでゆっくりとボールを回し、相手がプレッシャーをかけてこなければ起点を押し上げておいて、一気にライン間への縦パスで仕掛ける。リズムを変え、仕掛けのスイッチを入れるのがジョルジーニョに求められる重要な役割となる。


原則④:守備的なバランス

 ボールを失ったタイミングで、カウンターを避けるシステムも重要となる。SBはCBに比較的近い位置を取り、片方のSBが攻撃参加する局面ではSBのうち1枚が中央に絞ることでリスクを軽減。中央では2枚のセントラルMFの守備的なタスクと、ボール保有時のシンプルなプレーが鍵となる。カンテがチームに合流すれば、守備面のリスクマネージメントは相当にレベルアップするはずだ。


原則⑤:深さの保持

 相手の背後のスペースを使うことを目指し、深さを保つことは重要となる。CFが裏への動き出しで深さを保つだけでなく、SBがカットインしたウイングの背後を追い越す動きによって幅と深さを補填することも求められる。

3. フィニッシュのフェーズ


原則①:味方へのバックパスと裏への動き出し

 FWが前進することが難しい局面では、視野を保てている選手に預ける。その動きに合わせて、アタッカーは裏に動き出すことで縦パスを受ける形を狙う。ボールと人のベクトルが真逆になる動きは、相手DFとしては捉えるのが難しい。


原則②:ストライカーをボックスの入り口で「ポストプレーヤー」にする

 周囲をワンツーで使えるストライカーであれば、ウイングやセントラルMFの走り込みを活用する。ボックスから下がりながら、CFが相手のCBを引き出すことでスペースを生み出す。CFを囮(おとり)に、直接走り込む選手に浮き球を合わせるパターンもある。


原則③:タッチライン際からのオーバーラップ

 中央からの攻めで、サイドのスペースが手薄になればSBやウイングが外からのクロスを狙う。ウイングが外に張って、内側のレーンをSBが上がってくるパターンもある。


原則④:ボックス内での「ダイアゴナルなポジショニング」の形成

 ペナルティエリア内で、サイド深くまで侵入した選手に引っ張られて下がっていく相手DF陣が生んだスペースを使うには、マイナスの折り返しを受ける「ダイアゴナル」なポジショニングが必要になる。遅れて2枚の選手が入っていくような形になれば、相手DFは捉えるのが難しい。DFはボールから目線を外せないので、死角になるスペースやDFの間に入り込むことがたやすくなるからである。マンチェスター・シティにも長身ストライカーはいないが、同様の形から得点を奪うことは少なくない。

 ナポリ時代、サッリは自らの哲学を反映するチームを構築することで多くの選手を成長させてきた。緻密に準備されたトレーニングメソッドにより徹底的に哲学を浸透させる彼のスタイルによって、ナポリと比較しても潤沢なリソースを誇るチェルシーがどのように進化するかは興味深い。永遠に記憶に残るような偉大なチームが生み出されたとしても、驚きはない。

Photo: Getty Images
Translation: Kouhei Yuuki

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チェルシーマウリツィオ・サッリ

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Pedro Mendonça