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ポーランド戦は、ミリクを警戒せよ! 河治良幸×五百蔵容 対談

2018.06.02

短期集中連載:ハリルホジッチの遺産 第6回

4月9日、日本代表監督を解任されたヴァイッド・ハリルホジッチは日本サッカーに何を残したのか? W杯開幕前にあらためて考えてみたい。引き続き河治良幸氏と五百蔵容氏が、本大会ではもはや見られなくなった『ハリルホジッチ・プラン』を想像しつつ、コロンビア、セネガル、ポーランドへの対策を話し合う。今回は第3戦のポーランドについて。西野ジャパンのヒントは、ハリルホジッチの遺産の中に隠されている。


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レバンドフスキを「浮かせる」ミリク


――最後は、第3戦のポーランドになります。


五百蔵
「ポーランドは、3バックで来そうですね。3バックを最初に試した2017年最後の親善試合では、シャドーの選手をハーフスペースに入れ、ボールを外側に誘導しながらシャドー・ディフェンシブハーフ・ウイングバックで作るサイドの三角形で、ミドルゾーンで計画的にボールを奪ってカウンターに行く、というパターンが多かった。

 その時にディフェンシブハーフが動かざるを得ないのと、シャドーの選手がサイドに押し出された選手に対して内側を切りに行くので、ディフェンシブハーフがいたポジションと前の方のスペースが空くんですね。

 ポーランドはコロンビアと同じく、センターバックのインターセプトでバイタルエリアを消す守備をやっていて、3バックではあまりハイプレスをやってなかったんです。『この形で精度をあげてカウンターサッカーをやるのかな』と思ったら、2017年に入ってからの親善試合では3バックでもハイプレスをやるケースも増えていた。これを見ると、3バックで来ると思います」


河治
「攻撃陣はジエリンスキを出すとするとレバンドフスキの1トップだけど、ミリクを入れた場合にポーランドのスタイルでは2トップの方が良いですよね。

 ミリクという選手の説明をすると、ポテンシャルはレバンドフスキに近い。決定力以外の部分は匹敵するか、それ以上のところもある選手。EURO2016ですごい存在感があったんです。けど、彼がしばらくケガをしていたので、ポーランドは欧州予選の終盤からその後の親善試合にかけて、その前提で戦ってきたんですよね。

 ミリクが最近復帰して、まだ万全とは言えないですけど。本戦になったらスタメンで出てくる気もしています。ジエリンスキとの併用も可能っちゃ可能です。[4-2-3-1]にしてウイングをジエリンスキ、トップにミリク。ただ、左サイドのグロシツキという選手もクロスやミドルシュートが正確で、すごく良い選手ですから、どのように起用していくか。

 ポーランドは、戦い方はほとんど変わらないです。ただ、メンバーが結構いるので、レバンドフスキ以外は相手との組み合わせで変えてくる可能性はある。その中で、ミリクという選手はスペシャル。彼がいると、相手はレバンドフスキに集中できなくなる。圧倒的にミリクにボールが入って来るんですよね。EUROで見ていた時に、フィニッシュ以外はレバンドフスキがほとんど目立たなくなるぐらい、ミリクがプレーしてレバンドフスキの負担を軽減していた」


――でも、実際にピッチの中にはレバンドフスキがいるという。


河治
「だから、最高に怖いんですよ。ミリクが入ると彼がターゲットマンになって、レバンドフスキが浮くんです。ポーランドはベスト8以降を考えて、どこかでレバンドフスキを休ませなきゃいけない。日本戦でスタメンにすることも考えられるけど、ミリクっていう選手は実力ほどには注目されてない怖さがある。個人的にも彼への警戒を、微力ながら世間的に広めておきたいと思います」

ポーランドは3バックか4バックか?


――レバンドフスキだけでなく、ミリクはじめとする他の選手にも警戒が必要な状況というのはわかりました。西野新監督の日本は、どのように対応すると思われますか?


河治
「可能性があるのは[5-2-3]ですね。攻撃時はSBがサイドハーフ的に上がる[3-4-3]、守備の時は[5-4-1]にする方法。ただ、この場合ウイングに圧倒的な走力が必要になる。左は原口としても、右の選手は絶好調の浅野でないなら想像がつかない。本田や香川は2シャドーならできるけど、5バックのウイングは厳しい。[3-4-2-1]をやり切るのは難しい相手です。

 [5-4-1]の場合、ウイングの守備能力が問われる試合でもあります。対面にリブスという選手がいるので、彼の攻め上がりをしっかり止めて行くこと。ポーランドのバリエーションって、サイドバックの攻撃参加しかないんです。3バックにしてくれれば、サイドの選手の役割がわかりやすくなる。僕的には、3バックにしてくれた方がありがたい。ビルドアップの質が4バックより下がるので、日本のプレッシャーに対してオドオドしてくれると思う」


五百蔵
「3バックだと、左右のセンターバックに問題がありますよね、ポーランドは。セネガルの3バックはビルドアップの能力も高くて、直接ミドルゾーンに縦パスがつけられる。マネが0トップにいる場合、ウィングバック、ウイング、マネとターゲットが3つできるので怖いです。でも、ポーランドのセンターバックにはそこまでの精度はない」


河治
「セネガルの3バックは日本人選手で例えるなら塩谷司ってことですよね。3バックをやってもサイドバックとセンターバックの中間的な役割ができる。でも、ポーランドはセンターバックらしいセンターバック。サイドバックに預けるパス出しはできるけど、自分たちが起点にはなりづらい」


五百蔵
「1列飛ばした縦パスとかは、ほとんどないですね。僕は3バックで来るだろうと思っていますが、それは守備の安定性を取ると思うから。本戦は安定性を取ると思うんです。ミリクとレバンドフスキを交互に使うこともできるし、ミリクをジョーカーにも使える。1-0で勝てば良いので、戦略的には実入りが大きい」


河治
「ただ、点を取らないといけない時にポーランドの場合はセンターバックを1枚削ってミリクに変えるしかない。縦の2トップにオーガナイズするしかないんですね」


五百蔵
「『砕かれたハリルホジッチ・プラン』では、ハリルホジッチの代表で臨むとしたら、ポーランド戦はすべてのエリアをコントロールするようなチャレンジをしないと勝てない。特に3戦目なので、こちらが望む結果を得るにはそれぐらいやらないと厳しい、そういう方向で論じました。

 自陣だったらレバンドフスキだとかミリク、ワイドから入って来る選手をどう抑えるか。相手が3バックなら、ブロッキングの逆手をどう取るか。サイドに誘導させられたら、そこを外すと狙えるスペースをどう使うか。どこかを抑えたらメカニズムを不全にできる、というようなものがなくて、それら全部をできないといけない。できれば、勝ち点1以上は狙えます」

最終ラインを束ねるのはこのグリク。ポーランドの典型的なCBで、高さと強さが特徴の反面、ボール出しのスキルはそこまで高くない

西野監督は、レギュラーとサブを固定する?


河治
「右サイドのアタッカーの人選は、コンディション次第。原口も、それまでの2試合でボロボロになっていたら使えません。でも乾なら、イェンジェイチクに攻撃面で勝ってしまうことで相手を攻め上がりにくくさせることはできる。しかも、乾はバランスを取れる。原口みたいには走り倒せないけど、相対的に勝てるイメージはありますね」


五百蔵
「ポーランドと日本の勝ち点にもよりますよね。ポーランドが勝ち点1でいい状況なら、3バックで安定させてハイプレスは仕掛けてこないかも」


河治
「逆に、ポーランドに勝ち点3が必要なら、4バックでミリクとレバンドフスキを出して点を取りに来る」


五百蔵
「日本も、セネガル戦で消耗しきったうえで勝たないといけない状況だったら、原口を3戦目にも使わないといけないかもしれない。そういうシミュレーションも面白い、多様性のある試合だと思います。ただ、そうなったときにハリルホジッチでも西野さんでも、日本代表の弱点の1つは、使える駒と得られる選択の幅が狭いこと。これは、ハリルホジッチも最終的には、想像していたよりも狭くなったと考えていたのではと思います」


河治
「ハリルホジッチは30人ぐらいを想定していたけど、彼はベンチに同じタイプの選手は置かない。ブラジルだったら11人+サブ4人の主軸があって、残りの選手はこれから競争で決めます。でも、ハリルホジッチは絶対的な主軸とそれ以外という風にはしない。4年前のアルジェリアでも4試合やってフィールドで出場なく終わったのは1人でした。

 大迫と酒井宏、吉田、長友、GK川島。ここはそんなに変わらない。彼らがコンディションでダメだとなった時は互換できる選手を呼ばないといけない。けど、それ以外の選手は相手チームによってチョイスが変わるから、主力もサブもないんです。

 西野さんの場合、対戦相手のスカウティングはもちろんするとしても、基本は合宿からレギュラーとサブが見えるような状態になっちゃうと思うんです」


五百蔵
「たぶん、そうなりますね」


河治
「チームを作る時間もないので。残り3試合の親善試合(編注:対談実施時点)は、主力とサブを見極める使い方になる。ハリルホジッチは、競争が済んだ状況で入れるじゃないですか。23人に絞る時点でコロンビア戦で使う、セネガル戦で使う、ポーランド戦で使う選手を分けて、勝ち点計算まで見極めて選んだはずなんです。

 西野さんは、おそらくそうならない。監督のチーム作りなので絶対ダメとは言えないけど、固定的な感じにならざるを得ない。どちらかというと、ディスアドバンテージの可能性が高いですね」


五百蔵
「間違いないですね。ハリルさんも、アルジェリアでやったようなベースのフォーメーションを使いながら選手の入れ替えによっていろんな形で変えていけるほどの幅はもたらせられなかったと思います。そこまで駒がそろってないと思いますね。

5月30日の親善試合ガーナ戦で選手に指示を送る西野監督

結果が出たら、西野さんの功績なのか?


河治
「今になって痛いのは、E-1での西大伍のケガ。互換性で一番計算が立つのが西だった。もちろん清武弘嗣の負傷も痛いんだけど」


五百蔵
「西をあそこで組み込んで、その後の親善試合でも連れていって慣れさせておくのが妥当でした。今は、酒井宏一択しかないですから」


河治
「極論、E-1で杉本健勇の見極めはできたなと思っていて。あの時にケガしたメンバーが西、清武、杉本、大会中に大島。戦力の見極めをする場だとしたら、この4人がいなくなったのは痛い」


五百蔵
「清武と西がケガをしないで、そのあとも帯同できたら戦略的な幅は相当広がったと思います」


河治
「健勇のところだけは川又が良くやってくれたので、ポジティブな結果だった。けど、健勇を見極めきれずに追試みたいになっちゃったので。もし健勇がE-1で結果を出してなかったら、3月の遠征は連れて行かなかったかも」


五百蔵
「ハリルがやろうとしていることを技術委員会が仮に理解していたなら、駒の多様性も含め『本戦でやろうとしている用兵が非常に難しくなった、どうする』という判断はあったかもしれない。技術委員会が機能していたならね。でも、それはないことがわかった」


河治
「なぜないかというと、西野さんになったことでより選択肢が狭まったからですよね。広げてくれるわけじゃない」


――「既存の選手の良さを出せる」というレベル感の話なんですよね。


河治
「単に、チームの中で居心地が良くなるだけ。西野さんがやろうとしていることって、ハリルもやったと思うんです。休養を与えるとか、メンバーが決まればやったはず。ガーナ戦に向けた国内合宿に入る前の休養はあまり取らせなかったかもしれないし、決まるまでは徹底的にふるいにかけるけど、いざメンバーが決まれば対戦相手に応じた戦術も決まるので」


――この状況では、西野さんができることは限られています。ハリルのインフラにある種タダ乗りする部分もある。この状況で西野さんが結果を出したとして、それは100%西野さんの功績なのか? って話にもなります。


河治
「結果が出たなら、7、8割ハリルの功績だと思いますよ」


五百蔵
「それは、僕らが表現していかないといけないですよね」


河治
「黙っていたら、大手テレビ局とかで『西野さんへの交代が是』というふうになっちゃうので。西野さんが2カ月頑張ったとしても、ハリルの3年間を取っ払っちゃいけない。それは当の西野さんが言っていますから。多くの部分は継承できると。そこに風通しとか、組み合わせのアレンジを加えたいスタンスですね」

ハリル解任で失われた「失いどころ」


――それにしても、日本代表の報道では「日本がどういうサッカーをやるか」ばかりで、相手がどんなチームなのか、どういう戦略でグループリーグ3試合を乗り切るのかという議論はほとんどされてないですね。


五百蔵
「そこが、ハリルホジッチの低評価にも繋がっていると思うんです。あの人は、ピッチ上での戦術の前に『どこで戦うか、なぜそこで戦うのか』を考えていた。『相手のやり方がここで戦うことを生命線とするなら、我われはここで戦って相手の自由を奪う、ゲームを支配する』という考え方」

 そこが、まったく理解されてない。日本で言語化されていないと思うんですけど、ハリルホジッチは相手の監督の考え方を『敵はどこのエリアで優位を得ようとしているか』という戦略的な側面で読み取ろうとする。そこを、相手の試合をいくつも見て分析して、その戦略と結びついているディテールを見い出して、デュエルのポイントを抽出する。そこで相手を自由にさせないことで勝機に繋げていく。タクティクスとデュエルが緊密に結びついていました。『デュエル』の理解も含め、そういった面での評価がほとんど進まなかった。相手を見た戦略的議論が全体としては乏しいのは、そこを言語化して広めていくことをやり切れなかったぼくらの問題も大きいかもしれません。


河治
「西野さんになって1番大きいのは、ボールの『失いどころ』がよくわからなくなったこと。ハリルの時は、そこがあったんです。それは、原口元気です」

 大迫が落として、原口が前を向いて勝負に行くので、そこまではシンプルにする、中途半端なところでは失わないという整理ができていた。原口にいかに仕掛けさせるか。仕掛けさせるということは、奪われても良いということ。

 あとは、大迫が潰されてセカンドボールを拾えなかった時のケア。それ以外はほとんどミスです。フィードと言ってもDFの裏に蹴ってカットされるなら良いんだけど、その前でカットされるのはやっちゃいけない」

ポーランド戦で起用できるか否かもポイントになりそうだという原口


――マリ戦、ウクライナ戦では、それがいくつかありましたね。


河治
「ウクライナ戦なら長谷部や植田のミスパスですね。ただハリルホジッチの場合はボールの失いどころがはっきりしているから、守備をどうセットするかを共有できている。それが、西野さんになってわからなくなったんです。それを後ろのリスク管理でどうカバーするかという比重が高くなりました。

 『相手を崩すための距離感』って言い出すと、どんどんそこに引っ張られてリズムが良くない時のマリノスみたいになっちゃう。攻撃のための距離感になり、本来あるべきセット、ボールを失った時の備えがなくなっちゃうわけです。

 日本のボールの失い方を一番突いてくるのは、コロンビアでしょうね。セネガルの場合はそこで徹底的にやられるというより、イーブンでフィジカルの展開にさせられる展開が増えるでしょう。サッカーってボールを失うものなので、失う場所をわかっていればカウンターを食わない。そこが、日本の最大の問題です。

 西野さんになったことで、それが意外性を生み出す可能性もあるけど、ボールの失い方という部分で悪い方向に出るリスクも高まりました。ハリルホジッチはそれがわかっていて就任会見の時から言っています。『全員攻撃が、全員守備になる』と。攻守一体なんだ、というのは就任した時から言っていたので。

 相手の裏を突いていくことばかりクローズアップされましたけど、守備の準備って言っていたことは語られてないんですよね。すごく大事なことで、日本は攻め方として裏を狙って行くことをやっていかないと、狙いどころがボールサイドに寄ってしまう。結果、守備のリスクも増えて行くんです。そういう意味でも、攻守一体であることは強く意識されてほしいです」


短期集中連載:ハリルホジッチの遺産

第1回:ヴァハよ、元気か?息をしてるか? その後のハリルホジッチ(文/長束恭行)
第2回:日本代表にゾーンDFは必要か? 河治良幸×五百蔵容 対談(1)
第3回:ハリル解任の真の悲劇はW杯以後。日本代表は「解任基準」を失った(文/結城康平)
第4回:コロンビア戦には大島僚太が必要。河治良幸×五百蔵容 対談(2)
第5回:セネガルの「3バック変更」が怖い。河治良幸×五百蔵容 対談(3)
第6回:対ポーランド、要注意人物はミリク。河治良幸×五百蔵容 対談(4)


Photos: Getty Images

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ヴァイッド・ハリルホジッチポーランド代表日本代表

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澤山 大輔