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デュエル。日本サッカー界は、この概念とどう向き合っていくべきなのか。

2018.03.22

W杯出場国コラム:日本

1対1(ツバイカンプフ)からモダンな組織サッカーへの意識改革を進めるドイツとは対照的に、日本ではハリルホジッチ監督の下でデュエル(1対1のボールの奪い合い)の重要性が叫ばれている。「ない」を「ある」にする挑戦の先に何が待っているのか?

「デュエル」の特別視は危険

 昨年10月のニュージーランド、ハイチとの強化試合へ向けての代表メンバー発表の席で、ハリルホジッチ監督は「デュエルが重要」というかねてからの持論を展開した。CLのパリSG対バイエルンのスタッツを引用し、この試合に快勝したPSGがボールポゼッション、パス数、シュート数で軒並み劣っていたにもかかわらず、唯一デュエルで上回っていたことを強調していた。ただ、あのプレゼンでは誤解を招くかもしれない。ハリルホジッチ監督は「ボールポゼッションだけなら何の意味もない」と話している。これは正論であり、ポゼッション率が高ければ自然に点が入るわけではないし、試合に勝てるとは限らない。同様にデュエルも勝敗に直結しない。都合のいい1試合を引用してデュエル勝率が勝敗に直結する印象を与えているが、もっとサンプルを広げた場合、デュエル勝率の高さは必ずしも勝敗に直結していないはずだ。

 デュエルはサッカーを構成する一つの要素に過ぎない。とはいえ、今の日本代表にとってデュエルが重要なのは間違いない。ハリルホッジッチ監督は中盤にデュエルに強いタイプを並べる傾向にある。攻撃ではスペースがあるうちに早く縦に仕掛けていく、さらに守備時にはブロックに加わるので、3トップの両翼にはスピードと運動量のある選手を配置している。要は堅守速攻型なので、ボールを奪うデュエルの強さ、速攻での1対1での突破力、さらに1トップがDFを背負ってキープする能力が不可欠なのだ。デュエルが戦い方のベースになっていて、それに勝つことが勝利に繋がりやすいと言える。

 Jリーグはヨーロッパのリーグと比べると、デュエルそのものが少ないし強度もない。ハリルホジッチ監督はその点も気になっているに違いない。夏場に試合を行うので、インテンシティの低い試合も多い。デュエル強化は日本サッカーの課題の1つであることは確かだ。

「点」ではなく「線」で考えるべき

 ただし、デュエルの強化は必要なプロセスだが、その先にあるビジョンがなければ迷走する危険性がある。

 W杯の舞台において、日本はデュエルが強い部類には入らない。ロシア大会は予選で敗れて出場できないが、チリはデュエルが戦い方の柱になっているチームで、それが彼らの長所でもある。日本の場合は空中戦やボールの奪い合いにおけるデュエルはむしろ弱点。攻撃面でのドリブル突破は期待できそうだが、それ以外のデュエルに関しては32カ国中でも下位だと思う。

 日本が強豪国に近いクオリティを出せるのはポゼッション(ボール保持)時である。今回の予選ではチャンスメイクと決定力に問題があり、予選途中で堅守速攻型に切り替えた経緯があった。ただ、将来的にはチャンスメイクと決定力向上に取り組んだ方が、デュエルを長所に転ずるより見込みがあるだろう。

 ザッケローニ監督時の日本代表は「日本化」をある程度形にしていた。強豪相手でもポゼッションでは互角に戦えて、少し効率は悪いものの点も取れていた。問題は被カウンターに弱かったことだ。この弱点があるために全体の整合性に欠けていた。普通に考えれば、そこまでやれていたのだから被カウンターをどうするかという話になるはずだが、そうはならなかった。なまじ日本化(自分たちのサッカー)が形になっていたので、それで負けた時に日本化全部を否定してしまったのだろう。

 ハリルホジッチ監督の堅守速攻型は現状で勝てそうなスタイルとして採用しているけれども(実際に南アフリカW杯やロンドン五輪ではこのスタイルで結果を出してもいる)、本気で強豪国に勝つ、あるいは日本が強豪国になるという目標を立てるなら、堅守速攻型では限界がある。それこそデュエルの部分がネックになるからだ。「被カウンター対策」と「崩して点を取る能力」を上げ、同時に強豪相手でもポゼッションで7割以上取る。最終的にはそこがゴールになると思う。


Photos: Getty Images

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ヴァイッド・ハリルホジッチデュエル日本代表

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。