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サンパオリ・アルゼンチンの工夫。メッシの守備負担を軽減

2018.03.23

チーム戦術新解釈 攻⇄守4局面解説#4

5月14日に締め切られるロシアW杯予備登録メンバー(35人)提出前最後の代表戦となり、選手にとってもチームにとっても重要な意味を持つこの3月のインターナショナルマッチウィーク。着々と準備を進めている強豪国がどんな戦い方を志向しているのか、「攻撃」と「守備」だけでなく「攻から守への切り替え」「守から攻への切り替え」も含めた4局面にフォーカスして分析。各国の仕上がりをチェックする際の参考にしてほしい。

ARGENTINA
アルゼンチン

予選:7勝7分4敗
1.1得点0.9失点(1試合平均)
監督:ホルヘ・サンパオリ
58歳|アルゼンチン
17年6月就任

 就任から南米予選の残り4戦(1勝3分)を戦い抜く上でホルへ・サンパオリが選択した基本フォーメーションは[3-4-2-1]だったが、本大会での躍進に向け[3-3-3-1]を試みている。かつて“師匠”ビエルサもトライしたこのシステムの強みは、ボールサイドに高い位置からプレッシャーをかけ、相手ディフェンスと鏡になりにくい形で流動的にボールを回しやすいこと。そして何よりメッシの守備的な負担を限定し、攻撃面でゴールに繋がる仕事に集中させられるメリットがある。この組織を準備の限られる代表チームで機能させるのは決して容易ではないものの、チャレンジこそがサンパオリの存在意義だろう。

知将ホルヘ・サンパオリ監督

 守備時はメッシとアグエロが2トップで並ぶような陣形になり、相手のビルドアップを牽制。左右のウイングは高い位置のプレスから、左サイドを攻め込まれた時の右サイドのカバーといった、かなりハードな上下動を求められる。その分、中盤の3枚と3バックはできるだけボールサイドでコンパクトな関係を維持して、重層的なプレスをかけていく。3バックと3MFが右サイドに大きく寄せれば、左ウイングが左SBに近いような位置まで下がることもある。もちろんカウンターの対応で左右のMFがサイドスペースを埋めるケースもあるが、ウイングは戦術的な生命線となるため、サイドMFやウイングバックもこなせるタイプの選手が重用されそうだ。

 攻撃はトップ下のメッシを第一の起点として意識しながら、左右サイドも有効活用する。守備から攻撃に切り替われば3バックはワイドに開き、左右ウイングも高めの位置で組み立ての幅を作る。左右のMFは高めのポジションを取ってメッシをサポートするが、ウイングが中に流れればMFの1人がサイドに開いて同サイドのCBからボールを受けサイドで起点になることもある。サイドからフィニッシュに持ち込むケースでは、メッシとアグエロ、逆サイドのウイングに加え、中盤から1人はゴール前に飛び出す。引いた位置の守備を強いられる状況では、1トップのアグエロがサイドのスペースに流れて縦パスを引き出し、中央で動き出すメッシに合わせるなどのシンプルなカウンターも効果的なオプションだ。


■チーム戦術新解釈 攻⇄守4局面解説
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Photos: Getty Images

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Profile

河治 良幸

『エル・ゴラッソ』創刊に携わり日本代表を担当。Jリーグから欧州に代表戦まで、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。セガ『WCCF』選手カードを手がけ、後継の『FOOTISTA』ではJリーグ選手を担当。『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(小社刊)など著書多数。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才能”」に監修として参加。タグマにてサッカー専用サイト【KAWAJIうぉっち】を運営中。

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