SPECIAL

開幕に向け、ドイツの監督はプレシーズンに何を指導する?

2017.11.24

指導者・中野吉之伴の挑戦 第一回

ドイツで15年以上サッカー指導者として、またジャーナリストとして活動する中野吉之伴。彼が指導しているのは、フライブルクから電車で20分ほど離れたアウゲンとバイラータールという町の混合チーム「SGアウゲン・バイラータール」だ。今季は、そこでU-15監督を務めている。この「指導者・中野吉之伴の挑戦」は自身を通じて、子どもたちの成長をリアルに描くドキュメンタリー企画だ。日本のサッカー関係者に、ドイツで繰り広げられている「指導者と選手の格闘」をぜひ届けたい。

指導者・文 中野吉之伴

▼今季はU-15の監督を務めることになった

 ドイツのシーズンは、地域やカテゴリーによって多少異なるが、9月から翌年7月までが一般的だ。8月は丸々夏休みというのが常識。各チームの監督は時期を考慮し、年間スケジュールを立てる。それは下記を目安に考える。

7月/プレ準備(夏休み前の顔合わせ時期)
8月下旬~9月中旬/夏準備(シーズンに向けての準備)
9月中旬~12月上旬/リーグ前半戦
12月中旬~1月/冬休み
2月~3月上旬/冬準備(後半戦に向けての準備)
3月上旬~6月中旬/リーグ後半戦

 さて、新チームの始動はクラブによりけりだ。7月まで旧チームのまま過ごして夏休み明けからの始動もあれば、リーグ戦が終わる6月頃には新チームに移行し、夏休みまでの時間を翌シーズンに向けて利用するチームもある。SGアウゲン・バイラータールは後者だ。ちなみに、ドイツの育成年代は2学年1カテゴリーに分けられる。

U-19=Aユース
U-17=Bユース
U-15=Cユース
U-13=Dユース
U-11=Eユース
U-9=Fユース
U-7=Gユース

 そして、カテゴリーごとにリーグ戦が整備される。2学年1チームとして登録するクラブがあれば、育成に力を注いでいるクラブなら、各学年ごとにチームを持っていたりもする。例えば、U-15をU-15リーグ3部、U-14をU-15リーグ5部に登録し、選手に合った経験を積ませる。あまり明確に学年別に分けず、Cユース全体を実力別にファーストチーム、セカンドチームと分けて登録する形もある。SGアウゲン・バイラータールはCユース全体を実力別に分けているパターンだ。
可能なら学年ごとにチームを持ち、U-19までの一貫した育成をしたいところだが、クラブの立地条件や所属リーグのレベルから、すべての年代に十分な登録人数と選手の質を集めるのは困難なのが現状だ。うちのトップチームは6部リーグに所属していて、地域ではトップレベルと言える。しかし、向上心が高く、もっと高いレベルでやりたいという子どもたちは、多少通うのに時間がかかってもフライブルク市内やバーゼルにある強豪クラブへ移籍していくことが多い。そうしたクラブの立ち位置を考えると、その時どきの子どもたちの数とレベルに応じて登録チーム数を変えることが現実的なやり方になる。少しずつ育成の在り方を整理し、理想としてはより適応力の高いクラブになるのを目指して。

 今季は、6月下旬に子どもたちと初顔合わせだった。担当するのは、U-15(Cユース)監督だ。アシスタントコーチやセカンドチームの監督とも、これがファーストコンタクトとなった。まず、彼らとは自分たちの役割、目指すサッカー、チーム分けのコンセプトなどをじっくり話し合った。Dユース(U-13)から上がってきた子についは、昨シーズンの監督から「どんなプレーヤーか」というアドバイスをもらう。とは言いつつも、新規加入の選手たちのことはわからないことが多い。どんな子がいて、どんな性格していて、どんなプレーを見せて、どんな特徴があるのか。

 そこで、私は夏休みに入るまでの時間を利用し、チームビルディングをテーマにしたトレーニングを数多く取り入れた。アップにロンドをしたり、素走りではなく、グリッド内を走りながら選手同士でハイタッチ、右手→左手→両手でタッチ、右足→左足→右足でタッチというようにボディコンタクトを増やした。体のいろいろな部分を使いながらゲーム形式や鬼ごっこ形式の練習をし、自然にコミニュケーションが図れる環境を大事にした。

 私は、「名前を呼んでからパスをもらう」のも大切にしている。自身が名前を覚えるのが苦手だ、というのもある。それだけにスタート時期は意識して、名前を呼びながらコミュニケーションを取る環境に自分自身も身を置く頻度を増やしている。そうそう、子供には「キチ」と呼ばれることが多い。

キチ「えっと……。ごめん、名前なんだっけ?」
選手1「ティムだよ!」
キチ「そうだ。ティム、ティム、ティム。よし、覚えた。じゃあ君は……、お名前は?」
選手2「トムだよ!」
キチ「あー、そうだった。トム、トム」
選手3「じゃあ、私は?」
キチ「……。ごめん、忘れた」
選手3「私もティム」

 ティム、トム、ティム……頭は終始パニックだ。しかも、一人のティムはヨナサンと顔が似ていたりする。冗談抜きで、毎シーズン区別がつくまで1カ月はかかってしまう。ヨーロッパだと似たような名前が多いので、名前そのものは覚えられても、誰が誰だったかまでが本当に大変なのだ。夏休みに入る前には、何とかひと通り選手の名前を覚えられた。

 そんなアプローチをしながら、同時に基本となる戦術的な動きを噛み砕いて伝えていく。パス練習もただやるのではなく、ボールをもらう前の動き出し、タイミング、スピード、方向を理論的に説明する。

「なぜ必要なのか」
「どんなメリットがあるのか」
「実際に、ゲームだとどのように利用ができるのか」……etc.

 いきなり多くを伝えても、キャパシティオーバーになったら意味がない。子どもたちがスッと納得できるように様々な負荷をコントロールする。納得した状態でプレーをすると、勢いが出る。理解し切れていないと、ブレーキがかかる。わかったふりのプレーはハンドブレーキの状態だ。これが一番良くない。ブレーキの状態は自分で「いま、できていない」と認識できる。だから、わかった時に再度ギアを入れられる。でも、ハンドブレーキの状態は何となくできているから、「できているのかできていないのか。何ができていて、何ができていないのか」がわかっていないことが多い。すると、70~80%のパフォーマンスのままで止まる恐れがある。

 今季は選手とも良好に交流し、いい感じで夏休みに入れた。そして、「8月24日、本格的にシーズンインに向けてチームは始動した」と言いたいところだが、休暇でみんながいろんなところにバカンスへ行くので、トレーニングには10人前後しか集まらない。これも、ドイツではしょうがないこと。練習に参加できない子のことをあれこれ言うより、練習に参加している子どもたちと向き合う方が健全だ。それに夏休みに思う存分遊んでくるのは、大きなプラスしかない。ミニゲームや技術系のトレーニングを多く取り入れ、練習に来た子どもたちが「来たことをメリットに感じられる」ようなトレーニングをした。

9月3日、初めてのテストマッチ。実は、7月下旬にテストマッチは1度行っていた。私は国際コーチ会議に出席したため、不在。アシスタントコーチに任せたのだが、22つ下のリーグに所属する相手にまさかの大敗だった。この試合のショックで、エースは他の強豪クラブへの移籍を決断してしまった。そんなことがあっただけに、この試合はただのテストマッチでは済ませられない。何らかの手ごたえをつかむことが重要だった。相手は2つ上のリーグに所属するクラブ。
だが、子どもたちは前回のテストマッチで大敗した影響も、本来格上のはずの相手と対戦することへの不安もまったく感じさせなかった。こちらが準備した試合プランを彼らなりにしっかり消化し、さらにピッチで修正しながら、試合の中で成長してくれた。最終的に終了間際の失点で負けはしたが、強豪相手に2-3と大善戦だった。その甲斐もあり、シーズン前に大事なベースを築くことに成功した。完敗した時用のプランも準備していたが、これはうれしい誤算だった。子どもというのは、いつもこちらの予想の2歩も3歩も先を行くものなのだ。

 その後、プレシーズンにワンデー・トーナメントに2度参加した。1つは決勝まで残ったが、惜しくもPK戦で敗れて準優勝だった。もう1つの大会は、最初からあえて「指示を何も出さない」というふうに決め、選手たちにもあらかじめそう伝えておいた。試合ごとに「自分たちなりに分析をして、修正をして、やっていこう」と。

 わかったと言いつつ、受け手の真剣度次第で伝わり方は変わる。真面目にとらえた子もいれば、まだ遊び気分のままの子もいる。アップの雰囲気は、なんだかのんびり。案の定、一発目の試合では先制しながらの逆転負け。その後、みんなで反省をして、調子を上げたが、グループリーグ最終戦で負けてしまい、この日はそこで帰ることになった。

 こんなはずじゃなかった。そう思うのは、いつも終わってから。そうならないように準備をすることが大切だ。何のためにアップをするのか。試合開始直前に、急に気合いを入れてもスイッチは簡単に入らない。だからといって、ガチガチに気合いを入れすぎたら、できるプレーもできない。自分がいい状態で試合に入れるようにリズムを調整していく。それがアップの目的だ。でも、ここで失敗できたことが大きい。自分で気づき、どうすれば次回もっとうまくいくのかを考える。選手みんなにしっかりとした自意識が見てとれたのは素晴らしい収穫だった。

 9月23日、ついにリーグが開幕した。待ち合わせ時間にグラウンドに向かうと、子どもたちはみんなそろっていた。表情がいい。公式戦が始まる楽しみと喜びと、ちょっとの緊張感と。実は、ちょっとしたトラブルもあった。開幕1週間前、突然アシスタントコーチがEユース(U-11)の監督になったのだ。連絡が何もなかったので、はじめは何を言っているのかわからなかった。よく聞くと、Dユース(U-13)の監督がEユースの監督を兼任していたが、とても手が回らなくなったのでうちのアシスタントコーチに頼んだのだという。まあ、状況は理解できる。助けたい気持ちがないわけではない。

 でも、手順は踏んでもらわらないと私のチームが困る。彼がいることを前提にスケジュールを決めていたのだから。ユース責任者が知らないところで動いていたそうなので、そこから話し合いが行われるというドタバタ。結局、私が仕事でトレーニングに出られない時は、彼が代行するが、試合日はEユースを優先することで落ち着いた。

 というわけで、試合日は私1人ですべてをまかなわなければならなくなった。ホーム側は、オーガナイズの面でやらなければならないことがたくさんある。ドイツでは数年前から試合に関するデータは、すべてオンラインで管理されている。試合前のメンバー表もそうだ。そのため、全クラブがパソコンの所有が義務付けられ、ホームがスタメン登録されたメンバー表をプリントアウトし、審判に渡す。

 こうした役割を、昨シーズンまではすべてアシスタントコーチがやってくれていたので、慣れていない私はあちこち走り回る。パソコンがあるべき場所になくて探し、やっと見つけて立ち上げようとしたら旧型なのでなかなか立ち上がらず、その間にボールを出して、グラウンドへの扉の鍵を開け、戻ってプリントアウトしようとしたら、今度はプリンターが起動せず。ようやく終わったと思ったら、こちらの選手の選手証の一部に不備があると主審に言われ、その修正に追われるという。

 結局、アップの時間まったくチームに同行できなかった。ただ幸運にも、普段からアップは選手たちが自分たちでやるようにしていたし、この前の大会の反省から、みんな集中してやってくれていたようだった。ベンチに来た時、彼らからは充実した気合いがみなぎっていた。

 序盤から主導権を握ることに成功し、前半のうちに2ゴールを決めた。相手の守備が浮足立っているのを見て、すかさず中盤の選手1人をFWの位置に上げて一気に3点目を狙おうとしたが、2ゴールを入れたことで選手に変なゆとりができてしまい、逆に中盤のスペースを使われてしまった。相手に反撃のチャンスを与えてしまい、前半終了間際に小さなミスから1点返された。ハーフタイムに互いの意図を確認し合い、問題点を話し合って修正。後半は、またリズムをつかむことに成功し、その後いいタイミングで3ゴール目を決めると、その後はうまくゲームをコントロールして勝利を挙げられた。

 やはり、練習試合と公式戦は違う。特に開幕戦は緊張感やプレッシャーがある。普段なら見られない細かいミスが出るし、視野が狭まり、プレーが流れていかない。それでも時折見せる好プレーの連続からはチームとしてのポテンシャルを感じさせてくれた。シーズンはまだ始まったばかり。どんな選手が、どんな成長を見せてくれるのか。シーズン終了時に、どんな原稿を書き上げられるのかが楽しみである。

■シリーズ「指導者・中野吉之伴の挑戦」
第一回開幕に向け、ドイツの監督はプレシーズンに何を指導する?
第二回狂った歯車を好転させるために指導者はどう手立てを打つのか
第三回負けが続き思い通りにならずともそこから学べることは多々ある!
第四回敗戦もゴールを狙い1点を奪った。その成功が子どもに明日を与える
第五回子供の成長に「休み」は不可欠。まさかの事態、でも譲れないもの

Photos: kichinosuke nakano
※今企画について、選手名は個人情報保護のため、すべて仮名です

TAG

ドイツ指導者育成

Profile

中野 吉之伴

1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。