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ファビオ・カンナバーロが語る中国サッカーの進化と野望

2017.11.17

Interview with
FABIO CANNAVARO
ファビオ・カンナバーロ

国家を挙げた“足球改革”に取り組む中国に招かれたビッグネームの一人。監督として国内リーグ3季を経験したカンナバーロは、かの地のサッカーをどう見ているのか。広州恒大の監督再就任が発表される前の10月中旬に、現場で目の当たりにした急成長ぶりや代表の可能性を、日本の印象も交えて語ってくれた。

3年で実感したレベルアップ

急成長中のリーグを欧州も認め始めている

── まずは中国へ渡った経緯からお聞きしたいと思います。2014年11月、自身初となる監督挑戦の舞台に選んだのが超級リーグ(1部)の強豪、広州恒大でした。欧州を離れることに迷いはありませんでしたか?

 「簡単なことではなかったけれど、難しかったというわけでもなかったよ。かねてから監督をやりたいという思いはあってその機は熟していたし、しっかりとしたクラブから重要なチャンスを提示してもらえたわけだからね。サッカーのおかげで、レアル・マドリーにいた頃から自分がまだ知らない世界のことも受け止められる術を身につけ、コスモポリタン的な思考を持つようになっていた。バロンドールを受賞したことが自分を世界的な選手へと導いてくれて、いろんな国を旅することができたし、それで欧州以外の選手やサッカー関係者と意見を直接交換する機会を得られたんだ。かなり前からアジアのサッカーのパワーが膨張してきているのを知っていて、しかもマルチェロ・リッピ(現中国代表監督)からはこの地での経験は凄くやる気をそそるものだと聞かされていた。となれば、声をかけられたらトライしない手はないよね!」

── 当時、中国サッカーに抱いていたイメージは?

 「前から情報は収集していて、広州の全スタッフのことを熟知し、彼らとすでに話もしていたが、具体的にはっきりとしたイメージはまったく持っていなかった。どんなに机に向かってセオリーを研究したところで、ピッチ上での実体験にはかなわないからね。という前置きをした上で答えると、中国のサッカーは戦術的に未熟なのではないかと予想していた。つまり、俗に言う“ヨーロッパのプロ選手レベル”になり得る大いなる伸びしろがあるという意味でね。だからピッチ上での組織作りに力を入れなければならないと思っていて、そこが中国での僕の仕事の出発点になった」

── その後、監督を退任しましたが、アルナスルの指揮を経て昨年6月、再び中国へ戻って来た理由は?

 「サウジアラビアでの経験は、それまで僕が外国で体験してきたそれと同様にとても魅力的なものになったけれど、ちょっとガッカリした側面もあったんだ。いくつか欠陥があって、あの時はサウジのリーグ戦の最良の時代ではなかった、と言えばいいのかな。だから、すでに環境を知っていて、しかも気に入っていた中国から声をかけられた時、戻ることを即決した。前回の経験によって仕事をするための貴重な知識を得ていたので、すでに良いレベルにあり、さらなる成長を続けていた中国サッカーの世界で再挑戦することに迷いはなかったんだ。天津権健は大きな野望を持つクラブだということをわかっていたし、実際にそうだったよ」

── 近年、中国サッカー界にはビッグネームが多数加入しています。3年前と比較し、競技レベルは上がっていますか?

 「競技レベルだけでなくあらゆる面で向上しているよ。技術面の進歩は目に見えてはっきりしていて、超級リーグを生中継するようになった欧州もその力を認め始めている。中国サッカーという商品が海外で売れる理由には、もちろんアジア外から集った著名な選手や監督がそこにいるから、という点もある。でも、試合として楽しめて、中国人選手もちゃんとしたレベルでなければ、外国のテレビ局はそこにお金を使わないよ」

── リーグやクラブのオーガナイズはどうでしょう?

 「3年の間にかなり進歩したと気づかされてはいるが、まだ多少、改善しなければならないところは残っているね。中でも最も顕著な問題は、広大な国土をどう克服するかにある。リーグをオーガナイズする面でも、若手を発掘するスカウト面でも、スムーズに行う仕組みを作る上でややこしくしている」

── リッピやファビオ・カペッロ(江蘇蘇寧)も中国で監督を務めていますが、連絡を取ったりは?

 「連絡はするが、直接会うのは多くないなあ。中国はでっかいので会って話ができるのは稀だね。リッピとは頻繁に連絡を取り合っているよ。個人的な理由以外でもね。なぜって彼は中国代表の監督で、僕はトップクラブの監督だから、アイディアを照らし合わせたり、意見を交換し合うのはごく当たり前のことでしょ」

ミラン、ローマ、ユベントス、レアル・マドリーの監督を歴任し、イングランドやロシア代表も指揮したファビオ・カペッロ。今年6月から江蘇蘇寧を率いている

── ロジャー・シュミット(北京国安)やアンドレ・ビラス・ボアス(上海上港)など、欧州でも注目の監督も中国に来ました。何が彼らを惹きつけるのでしょうか?

 「他の人がどう考えているかを僕は語り得ないが、彼らの多くは僕と同じ価値観でアジアに来ているのではないかと思っている。つまり、契約金だけではなく、急成長中のリーグ戦で自分がどれだけやれるのかを測ってみたいということだよ。自分が身につけてきたことをどれだけ人に教えられるのかっていうチャレンジ心は、ここに来る決定的な理由だったからね。僕自身も選手との触れ合いの中で日々学んでいる。もちろん欧州に残ってこの仕事をしていても同じだったとは思うけれど、まったく違う大陸でこういう経験が積めるのは、よりモチベーションが上がるものなんだ」

中国人選手の長所と短所

フィジカル面は世界と比べて見劣りしない

── 実際に指導してみて、中国人選手の印象は?

 「テクニック面でも戦術面でも成長の余地がまだある、という印象だよ。フィジカル的には、かなりの選手が世界的なクラスとほぼほぼ同等と言える。また、探し出されるべき逸材の多さ、という意味では、中国はとてつもない潜在的可能性を秘めているね。だけど、まだここにはサッカーの伝統というものがない。成長中なのは確かだけれど、文化としての出発の後れは明らかで、今もそのツケを払っている」

── 中国代表は2002年大会以来、ワールドカップに出場できていません。何が足りないと思いますか?

 「たった今、言ったことが足りていないんだと思う。つまり、欧州や南米に比べて数十年スタートで後れを取ってしまったところだよ。さらに、他のアジア諸国に比べても数年遅かった。サッカーの世界では、短時間では先陣者たちとの溝を埋められないものなんだ。それまでの中国で優先されていたスポーツはサッカーではなかった。しかし現在は、政府が国家を挙げてサッカーを後押ししており、本当に急成長を見せている。代表監督にリッピを迎えたことで、予選でも結果を出せるようになってきた。だけど、アジア他国に対抗するにはスタート地点があまりにも後方で、このハンディキャップはまだ埋められていない。今の中国の目標は、次のEAFF E-1サッカー選手権で“いいところを見せる”というあたりではないのかな」

── 中国人選手の長所と短所は?

 「フィジカルと勤勉さが長所に挙げられる。アスレティック面では欧州やアメリカ大陸の選手だけでなく、アフリカの選手と比べても見劣りしない。練習中の集中力は素晴らしく、統率が取れ、注意深く、戦術の飲み込みもいい。短所は、練習中に見せる集中力を試合では90分間持続できない時があることだね。このメンタル面はサッカーで成功するには根幹的なことなので、今後さらに鍛えねばならない点と言える。サッカーは一瞬の勝負だけで決着がつくスポーツではない。勝つためには、集中力と組織力が大きく物を言う」

── 12月のEAFF E-1サッカー選手権で、“ぜひ見てほしい”という中国代表選手を教えてください。

 「ここで挙げなかった選手は別に見なくていいというわけではまったくないし、一部の名前を出すことが正しいとは思わない。見てほしい選手は何人もいるし、第一、代表に誰を選ぶのかを決めるのはリッピだ。ただ、中国人サッカー選手のすべての長所を体現している、まさにシンボルと言える一人の名前なら挙げられる。それはチェン・チー(鄭智/広州恒大)。オールラウンダーで、ほぼすべての中盤のポジションをこなすだけでなくDFとしても有能だ。パワーとテクニックと経験を凝縮した熟練で、イングランドとスコットランドで長年プレーしていた。37歳だが、その年齢をまったく感じさせない。注目に値する選手だよ」

チャールトン・アスレティック、セルティックでのプレー経験を持つチェン・チー(鄭智)

── 中国、中東のクラブで指揮を執られてきましたが、日本のJリーグに興味はありませんか?

 「もちろんあるよ。今までは自分に監督をやるチャンスを与えてくれたチームを率いていて、どの国、どのリーグといった隔ては持っていない。僕はオープンマイドだからね。日本のリーグ戦は高いレベルにあり、それをアジアのカップ戦でも示している。ただ、僕の頭は常に自分が監督をしているチームに集中している。そうすることが僕自身の“規則”でもあるんだ」

── 日本のクラブ、代表も近年はイタリアサッカーの影響を受けていますが、守備の文化がないと言われています。ずる賢さがない、正直過ぎるなどもそうです。中国も同様かもしれませんが、これについてどう思いますか?

 「思うに、人はちょっと“レッテル”を貼りたがりがちだよね。僕から見ると、日本のクラブは守備の組織力が優れているように思うんだけどなあ。ずる賢さについては経験のなせるところでもあって、ある程度のハイレベルな大会などに戦い慣れした選手やチームと相対していくことで、よりこなれていくものなんじゃないかな。でも、もしそれが少し足りないからといって、日本人選手の欠点だとは僕は思わない。それに多くの選手は欧州でしっかり戦っているよね」

── イタリア代表監督のオファーがあれば現契約は解除できると聞きましたが、今後の目標は?

 「今現在は他のことに集中しているけれど、僕のイタリア代表への愛は誰もが知るところだよ。アズーリのユニフォームは僕にとって最上なんだ。でも、今はベントゥーラ監督のチームを物凄く応援している大ファンの一人に過ぎない。ワールドカップの本大会には(プレーオフを突破して)絶対に出てほしい。アズーリ、がんばれ! 僕らは絶対にロシアへ行くぞ!」

Fabio CANNAVARO
ファビオ・カンナバーロ

1973.9.13(44歳)ITALY

イタリアが生んだ世界最高のCBは、故郷のナポリで93年にセリエA初出場。95年からパルマの黄金期を支え、97年に代表デビュー、98年と02年のW杯で活躍した。02年インテル、04年ユベントスに移籍し、06年W杯ではキャプテンとして優勝に貢献。同年、バロンドールとFIFA最優秀選手賞の2冠に輝く。W杯後から3季Rマドリーに在籍し、09-10はユベントスに復帰、10年W杯でも主将を務めた。UAEでプレー後、11年に現役引退。その古巣アルアハリで指導者業を始め、14年11月に広州恒大の監督に就任する。アルナスルを経て16年6月から当時2部の天津権健を率い、リーグ優勝で昇格を実現。ウィツェル、パト、モデストを獲得した2017年シーズンは1部で上位に進出した。11月9日、フェリペ・スコラーリに代わって再び広州恒大を率いることが発表された。

COACHING CAREER
2014-15 Guangzhou Evergrande (CHN)
2015-16 Al Nassr (KSA)
2016-17 Tianjin Quanjian (CHN)
2017-  Guangzhou Evergrande (CHN)

EAFF E-1 サッカー選手権 2017 決勝大会

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その他詳細はこちらの大会公式ページでご確認ください。

Photos: Getty Images

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