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個人トレーニングの専門家集団IFTが来日。ニーズ拡大の理由と日本の子どもの課題とは?

2024.01.05

フットボリスタ本誌84号で取り上げたポルトガルを拠点とする個人トレーニングの専門家集団「Individual Football Training(IFT)」が来日し、日本の小学生から高校生を対象にクリニックを開催した。講師を務めたイゴール・コエーリョ氏に、IFTが創設10年でブルーノ・フェルナンデスやジオゴ・ダロト(ともにマンチェスター・ユナイテッド)を顧客に抱え、30人の専門家を擁する組織にまで急拡大した理由、そして日本の子どもたちを指導して感じたことについて聞いた。

 Jリーグは短いオフシーズンに突入した。選手たちのSNSには、束の間の休暇を楽しむ様子などシーズン中とは一味違った写真や動画が次々にアップされている。

 そうした投稿の中で、個人でトレーニングしている様子を写したものを見たことはないだろうか?

 ジムで体を動かしていたりグラウンドでボールを蹴っていたり。選手によって形は様々だが、日本人か外国人か問わずJリーガーたちはまもなく始まる2024シーズンに向けた準備に抜かりがない。

 彼らのオフシーズンのトレーニングは、選手たち自身が契約しているジムやコーチ、トレーナーなどの指導のもとで行われていることが多い。所属クラブとは関係のない活動として、個人指導を受ける選手はここ数年で格段に増えたように思う。シーズン中に個人分析官を雇っている選手も珍しくなくなった。

 コーチや分析官のみならず栄養士やトレーナー、シェフなどと個人で契約している選手は多い。例えばブライトンで活躍する日本代表の三笘薫が、「チームみとま」と呼ばれる専属のトレーナーや栄養士たちにコンディショニングサポートを受けているのは有名な話だ。

 こうした「個人」でのパフォーマンス向上を目指した取り組みは、日本だけでなく世界中でも当たり前になりつつある。むしろ欧州やアメリカなどの方が日本のはるか先を行っていると言っていいだろう。

コロナ禍で拡大した個人トレーニングの需要

 「Individual Football Training(IFT)」は、ポルトガルを拠点とする個人トレーニングの専門家集団だ。マンチェスター・ユナイテッドに所属するポルトガル代表のブルーノ・フェルナンデスをはじめ、チームメイトのジオゴ・ダロトやコロンビア代表のハメス・ロドリゲスなどを顧客に持ち、彼らを技術、戦術、メンタル、栄養など様々な側面からサポートしている。

マンチェスター・ユナイテッドのブルーノ・フェルナンデス(Photo: Getty Images)

 そして2023年12月、彼らは日本に初上陸を果たした。IFTからイゴール・コエーリョ氏が来日し、小学生から高校生までの子どもたちを対象にクリニックを行ったのだ。

 急成長を遂げるIFTは欧州サッカーの最前線で培ってきた個人トレーニングのメソッドを世界中に広めるべく、シンガポールにアジア拠点を設立。同国の強豪ライオンシティ・セイラーズFCと提携して現地に指導者を派遣する他、マレーシアやUAEなどでも活動の幅を広げている。

 「我々にとって世界進出の大きな転機となったのは、実はコロナ禍なんです」

 来日したコエーリョ氏は、インタビュー中に意外なきっかけを明かしてくれた。

 「コロナ禍が始まって、サッカー界は歩みを止めなければなりませんでした。ロックダウンによって外出できず、どのカテゴリの選手たちもグラウンドに出てボールを蹴ることができなくなったわけです。

 ただ、これは我々にとって大きなチャンスになりました。そもそも我々はチームでの活動に依存しておらず、個人トレーニングがメインです。なので、ロックダウン中でもオンライントレーニングを提供することが可能でした。すると、ポルトガル国内のみならず、アメリカやアジアからも大きな需要があることがわかりました。

 ロックダウンが明けても、しばらくはチームトレーニングが許可されませんでした。でも、スペースを区切っての個人でのトレーニングなら可能でした。そこで我々の出番です。多くの選手から問い合わせが殺到して、私も1カ月で100セッションくらい担当しましたね。コロナ禍は多くの人々にとってこれまでに経験したことのない逆境でしたが、我々にとっては個人トレーニングの必要性や重要性を知ってもらうための絶好の機会になったのです」

 ポルトガルではA代表クラスのトップ選手から世代別代表に選ばれている有望な若手選手、さらには将来プロサッカー選手になることを目指す子どもたちにまで幅広くトレーニング環境を提供している。

 2013年にたった3人で始まったIFTは、10年の時を経て30人以上の各分野の専門家を抱える集団になった。メンバーにはハイパフォーマンストレーニングやスポーツ科学の修士号を持つ指導者や、アナリスト、メンタルトレーニング専門のコーチ、栄養士、フィジカルトレーナーなど様々な強みを持つ経験豊富な人材が揃っている。

 今回来日したコエーリョ氏も元セミプロ選手でありながら、ハイパフォーマンストレーニングの学位やUEFA Bライセンスを保有する個人育成コーチとして活動している。ブルーノ・フェルナンデスやダロトとの指導にも携わってきた。

Photo: Wataru Funaki

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Profile

舩木 渉

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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