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「来てくれてありがとう」。モンテディオ山形の広報がアウェイサポーターに向けて感謝の思いをツイートし続ける理由

2023.06.30

今季のモンテディオ山形は序盤戦で8連敗を喫するなど苦しい立場にあったが、クラブ広報が発するツイートには、勝ち負けや状況に関わらず、常にアウェイのファン・サポーターへの感謝に溢れていた。これらのツイートは今に始まったことではなく、挨拶をするように淡々と重ねられてきたものだ。今回改めて、信念を感じさせるツイートに込められた思いについて、“中の人”から話を聞かせてもらった。

勝ち負けに関わらず発信される“感謝のツイート”

 今年の4月17日、モンテディオ山形広報のアカウントが、あるツイートを発信している。

 「山形までお越しいただきありがとうございました。ゴール裏から赤い闘志を感じさせる力強い応援に感服いたしました。次の再会はリーグ終盤の10月、我々が金沢にお邪魔いたします」

 その前日、山形のホームスタジアム、NDソフトスタジアム山形を訪れたツエーゲン金沢サポーターに向けて発信されたメッセージだった。この試合は0-1でアウェイ・金沢が勝利した。勝った金沢サポーターに向けて、敗れた山形の広報が、スタジアムに来ていただいたことへの感謝を伝え、互いの健闘を称えている構図になる。

 山形はさらに特別な事情を抱えていた。この試合の敗戦でクラブワーストを更新する8連敗。昨シーズンのJ1参入プレーオフ進出を受け、「J2優勝、J1昇格」を掲げたシーズン序盤での躓きだった。すでにピーター・クラモフスキー前チーム内は再建に向け高いモチベーションを維持してはいたが、重い閉塞感は否めなかった。

 ただ、これはけっして特別なツイートではない。山形ではホームかアウェイか、勝ったか負けたか、あるいはその時々のチーム状況に関わらず、来場した山形サポーターと対戦相手のサポーターそれぞれに毎試合ツイートでメッセージを送ってきた。このクラブの取材をしてきた筆者は、それが特別なこととは思ってこなかったが、今回、編集担当の鈴木康浩さんの指摘を受けて、ここまで律儀に毎試合メッセージを発しているクラブが他にはないことに気づかされた。平坦な状況が珍しい長いリーグ戦、欠かさず発信し続けること自体、価値あることのように思われる。

 昨年4月に行われた第8節・ファジアーノ岡山戦では、審判の協議規則運用ミスがあったとして、8月31日に異例の再開試合が行われた。その際、岡山サポーターに送られたメッセージは「前回には無かったみなさんの声も加わり、とても雰囲気のある試合となりました」だった。4月の対戦では制限されていた声出し応援が解禁になったこともさり気なく盛り込まれた。

 2020年、新型コロナの影響でリーグ戦が中断され、約4ヶ月ぶりに再開された第2節は、NDスタで唯一の無観客試合、いわゆるリモートマッチとして行われた。誰もいない試合中のスタンドの写真を添えて、現地まで気持ちを送ってくれたであろう栃木のサポーターに向けてメッセージが発信された。

 「栃木SCの皆様、健康・衛生管理などご苦労もされているなか、山形までおいでいただきありがとうございました。栃木SCサポーターの皆様にも試合を盛り上げて頂きました。心よりお礼申し上げます。
共に日本と愛する地元を元気にしましょう!」

 隣県のライバルであるベガルタ仙台とは、“みちのくダービー”をとおしてこれまでも激しい戦を繰り広げてきた。その仙台サポーターに対しても、その姿勢は変わらない。リーグ戦で7年ぶりにダービーが行われた昨シーズン第5節では、「ゴール裏に張り出されていた『がんばろう宮城・東北』の横断幕。ライバル関係であっても同じ東北を元気にしていく仲間として、今後も切磋琢磨していきましょう!」とエールを送っている。

スカパー!時代にお世話になった大分のJ1昇格に思わず涙

 現在、このメッセージツイートを担当しているのは、3人体制のチーム広報のひとりである、大友春利。昨シーズンは終盤の巻き返しでJ1参入プレーオフに進出、今シーズンの8連敗中もツイートを続けてきた。冒頭の金沢サポーターへ向けたメッセージも大友が担当している。ただし、大友は就任2年目。昨シーズンから引き継いで担当しているが、そもそもこのメッセージツイートを始めた人物は別に存在する。……

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モンテディオ山形

Profile

佐藤 円

1968年、山形県鶴岡市生まれ。山形のタウン情報誌編集部に在籍中の95年、旧JFLのNEC山形を初取材。その後、チームはモンテディオ山形に改称し、法人設立、J2参入、2度のJ1昇格J2降格と歴史を重ねていくが、その様子を一歩引いたり、踏み込んだりしながら取材を続けている。公式戦のスタジアムより練習場のほうが好きかも。現在はエルゴラッソ山形担当。タグマ「Dio-maga(ディオマガ)」、「月刊山形ZERO☆23」等でも執筆中。

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