藤本佳希が備えていた“二人を困らせる”稀有な感覚【山形・渡邉晋監督 2023シーズン総括インタビュー2/4】
今季の山形はシーズン序盤に8連敗を喫するなど苦しんだが、途中から渡邉晋監督に率いられたチームは見事に復活を遂げた。5連勝を3回飾るなど怒涛の追い込みを見せながら最後はJ1昇格プレーオフ圏内に滑り込むに至った。
今回、渡邉監督には激動となった2023シーズンのピッチ上の現象について、『ポジショナルフットボール』な視点を切り口にしながら細かく振り返ってもらった。
なお、インタビューは合計4本あるが、そのうち第1回と第2回は8月に収録しながら諸般の事情でこのタイミングでの公開となった。残りの第3回と第4回はシーズン終了直後に収録している。
まず守備の優先順位やメンタリティを整理
――山形はカウンターのときも、組織的カウンターというか、素早く連動して人がわき出すようにスペースを突く場面をよく見るのですが、その辺りもトレーニングの積み重ね故ですか?
「カウンターのところで言うと、守備を整理したからでしょうね。プレッシングにどうやって行くとか、そのときの配置をどうするとか、どこに誘導してどこでボールを取りたいとか、そういうことは映像もトレーニングも含めて時間も回数も増やしました。おそらく、それによってボールの奪い方が良くなったから、その勢いでカウンターに出ようと思えば、右のウイング、左のウイング、それぞれどこへ走るかは自分たちがボールを持った瞬間に明確になっているので、そこへエネルギーを注げていると思います」
――そのプレッシングや守備の部分は、渡邉さんが監督になってから割と早いタイミングで変化を感じた部分ですが、監督を引き受けた時点で、そこが肝というか、注力しようと考えていたんですか?
「そうですね。もちろん理想は相手のゴールに近いところでボールを取りたいし、それができなければ、次にミドルサードで構えてとか、あるいは熊本戦のように本望ではないけど、ゲームのコントロールを考えたら、相手にゴールを割らせなければいい、という守り方も時には必要だね、と。そういう守備の優先順位とか、メンタリティも含めて整理をしなければいけないというのは、いの一番に考えていました」
――著書では、守備4-4-2の安定を得てからの可変はいくらでも作っていけるとのことでしたが、山形でも守備4-4-2は、状況が悪いときでも立ち返るベースになっている気がします。まずはしっかり安定させようと。著書の出版から3年が経っても、ここは変わらない部分ですか?
「そうですね。たぶんそれは外さないと思います。原理原則を王道として落とし込みやすいし、選手も理解しやすい。守備における距離感を一番つかみやすいと思っています」
――[4-4-2]はシンプルな形ですよね。お互いの位置関係が。
「そこは出発点だと思うので、やりやすさは我々もそうだし、選手もあると思います。ただ、それ以外にこういうこともやれそうだなとか、面白いなと思うものは常にアイディアとしてありますが、それはキャンプで時間をかけてやるべきだと思うので、今季はシーズン途中の就任だったし、まずはそれまでの形を尊重しつつ、磨き上げて行きたいというのは守備のところでは大きかったと思います」
南がボールを奪い取る回数が増えた
――8月は5連勝もあって、結構ピンチも多かったのですが、失点がすごく少なかったです。これは耐える守備のほうも改善させてきたのですか? 序盤に比べるとチャレンジ&カバーとかシュートブロックとか、すごく安定を感じますが。
「そうですね。理屈抜きで守らなきゃいけないよ、という練習はめちゃくちゃ増やしました(笑)。安い失点がすごく多かったので。僕が監督に就任して、いきなり3連戦があり、その3つも結果的に落としてしまったけど、一つ一つ失点を振り返ると本当に勿体無いものが多かった。その3連戦が始まるところから、そういう練習をやり始めてはいたけど、もちろん一朝一夕にいくようなことではないので、結果的にそのタイミングでは修正し切れなかったと思います。ゲームに追われてしまったので。ただ、ずっとトレーニングを繰り返している中で、選手も対峙する相手との距離とか、味方がボールをハントに行っているときに自分はどこでカバーしなければいけないとか、頭の中では理解していたかもしれないけど、実際にフィールドでの距離感がつかめてきたと思うんですね。シュートブロックも技術だと思うので、この距離感とタイミングだったら身体を投げ出しても大丈夫だなとか、スライディングタックルは本当に最終手段だから、行くなら絶対にボールを取らなければいけない。そういう感覚に、DFと特にボランチが、判断を含めて良くなってきたと思います。たぶん、(南)秀仁がボールを取る回数はすごく増えたと思います。彼はもともと賢いし、技術があるので、スライディングでボールを取るシーンもすごく増えたんですよ。サッカーがうまいやつは、こういうのもうまいんだよなって、僕も試合を見ながら思います(笑)。そういう危険な状況に顔を出して、実際にプレーで抑え切っている事実と回数。これはもうトレーニングの賜物だなと思います。
もちろん、理想的ではないですよ?(苦笑)。もっと相手陣でプレーをしたい。でも、うちの攻撃は手数をかけないときが一番良いと思っているので、変にボールを持って相手陣に押し込んでも、人もボールも動かない、要は相手に怖さを与えられていない時間を過ごすよりは、1本2本のパスで裏を取って、仮にそれがシュートで終わらなかったとしても、相手のゴール前を通り抜けてGKがヒヤッとするようなクロスを上げることは我々にとって価値のあること。公式記録のシュート数にはカウントされないけど、我々にとってはチャンスだから、必ずしも押し込めていなくても、そんなに悲観はしないですね。もちろん、スコアを動かしているのであれば、相手陣でやり過ごしてゲームをコントロールしていくことも、たぶんこれから必要になってくるけど、それはこれから身につけていける部分かなと思います」
――その辺りのゲーム展開は対戦相手によるところもあると思うのですが、順位も上がってきたことで、大分とか藤枝とか、山形に対して色々な対策をするチームが増えたんじゃないかと思います。渡邉さんも感じますか?……
Profile
清水 英斗
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。