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スポークスマンとしてもサプライズに。久保建英の話術がスペインでウケる理由

2023.06.26

22-23シーズン、加入初年度ながらリーガで35試合に出場して攻撃の中心を担い、10年ぶりのCL出場権獲得へとソシエダを牽引した久保建英。10歳から13歳までの幼少期をバルセロナのカンテラで過ごした日本代表FWは、スペイン語も自由自在に操れるバイリンガルで、キャリアハイの9ゴール7アシストを記録したプレーだけでなく、トークスキルも光った1年だった。その巧みな話術を現地スペイン在住の木村浩嗣氏と探ってみよう。

 久保建英の発言がメディア関係者の間で話題になっている。例えば、これ。

――素晴らしいアシストでしたね。

 「えっ、アシスト付いたの?ありがとう」

――アシストが付かないことなんてないでしょう?

 「先週は1つ消えたんだよ。良かった!」

 そこから試合とプレーの分析に入って、聞き手が黙ってしまうと、途中で「このマイク、点いているよね?」とかまして笑わす。(1月8日/アルメリア戦後インタビュー)

 次に、これ。

――こんにちは。どう、元気ですか?

 「元気だけど、良い日ってわけじゃないよ。こっちは雨だからね」

 趣味の話になり、弾ける楽器はあるのか、と聞かれて。

 「家にピアノがあるからチャレンジしたけど、器用なのは足だけ。手は糞みたいなもんだよ」(4月13日/『DAZN』のインタビュー)

コメント不毛の地で歓迎される攻めの姿勢

 久保は面白い。必ず何かギャグを入れて笑わせてくれる。サービス精神旺盛ということもあるが、おしゃべりが好きだからでもある。趣味はおしゃべり。サッカーの次にすることだという。「寡黙だと思われるが、実際は違う」とソシエダの公式WEB(昨年10月)でそう明かした後に延々と話を続けるが、早回しで全部カットされるというイジリをされていた。

 日本人らしくない、とチームメイトに驚かれるそうだ。日本人=寡黙、というレッテルには説明が必要だろう。確かに、スペイン人に比べると日本人は控え目だし、遠慮を知っている。だが、黙っているのはスペイン語がうまくしゃべれないからで、性格や気質の問題というわけでは必ずしもない。

 久保は野卑な表現の使い方もうまい。下品になるから乱発はせず、決めどころで「糞みたいなもんだ」とズバッとくる。こういう語学学校で習わないが日常生活では普通に使われている表現を外国人がすることに、スペイン人は親しみを感じるのである。

 久保のしゃべりは面白い。というか、そもそも日本人のアスリートはスペイン人のそれに比べて話が面白い。五輪のメダル候補くらいになれば、ギャグをかましてボケもツッコミも交えて笑わすことくらいは軽くやってくる。日本ではこれが標準装備。飽きるほど露出しているお笑い芸人のお陰だろうと思う。

 スペイン人は愉快でおしゃべり好きだが、アスリートの発言はまったく面白くない。内輪では下品なギャグ連発で面白いのだが、公の場ではやたらかしこまる。ホアキンのような天才コメディアンは例外で、普通は選手時代のラウール・ゴンザレスのように優等生発言に終始する。どんな格下相手にも「頑張ります」ばかりで「軽くひねってやりますよ」とは言わない。で、「サッカーでは小さい敵はいない」なんてお題目で締める。

スペイン代表でのラウール・ゴンザレスとホアキン。写真はEURO2004グループステージ第2節のギリシャ戦

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レアル・ソシエダ久保建英

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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