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ヘルタ・ベルリンの地の利を生かした選手成長サイクル。育成部長が語る理想の指導者像とは?

2023.04.30

ロシアW杯に続きカタールW杯でもGS敗退に終わったドイツ代表。日韓W杯からブラジルW杯までは4大会連続で3位以上の好成績を残していただけに今一度、育成からやり方を見直す必要がある。そこで注目されているのがヘルタ・ベルリンだ。下部組織に力を入れているクラブは現在、年代別代表に招集されている選手数で国内トップを誇る。

そのアカデミーを統括するパブロ・ティアム氏に、ドイツ在住の中野吉之伴さんがインタビューを実施。後編では理想の指導者像、ヘルタの下部組織が成功を収めている理由、育成年代の指導方針ついてお届けする。

理想は豊富な知識×プレー経験のミックス

――僕が暮らすフライブルクでは確かに若い指導者が戦術的なアプローチばかりをしたがる傾向がありますし、そうした指導者を良しとして受け入れようとするクラブも少なくありません。でも育成指導においては、やはり指導者サイドに適切なミックスが求められると思います。戦術的な知識や方向性の提示、年代別の指導経験、コミュニケーション能力。そう考えると、例えば若い世代の指導者と経験豊富なベテラン指導者との組み合わせの需要は高そうですね。

 「その通りです。プレー経験しかない指導者だけではダメ。でも理論的なアプローチばかりで現場のことを知らない指導者だけでもダメなんです。指導者間でお互いがお互いから学べるような組み合わせを探すことがとても大切ですね。そこで足りない部分を補うようなミックスができれば、それは理想的な指導者像といえるかもしれませんね。

 プレー経験があるというのは必ずしもプロ選手としての経験がなければならないということではなく、4部や5部リーグくらいのプレー経験であれば、それはとても価値のあるものです。育成時の経験よりも、シニアでの経験が必要です」

――育成とシニアの違いは?

 「サッカーというゲームを感覚として正しく知っていることがとても大切だからです。研究肌の人は何でも理論的な説明をしようとする。どんなことでも見ようによっては足らないところはどこかにあるんですよ。どんなことでもケチをつけることは可能です。サッカーは思い通りにいくスポーツではありませんから。

 ブンデスリーガでプレーしていたらよい指導者になれるなんてこともないです。指導者として様々な専門知識やコミュニケーション能力、チームビルディング能力など幅広いスキルが必要なのは言うまでもないことですからね。指導者には指導者として必要な最低限度の条件がある。それがあったうえで、自身の選手時代の経験を踏まえて、プレーの仕方を伝えることができるのであれば、それは素晴らしいことだと思います。

 1人ですべて網羅する必要もないんです。コーチと監督がセットでそれぞれの要素をうまくカバーし合えればいい話。若い指導者と経験豊富な指導者のセットはそうした意味でとても有効だし、どちらかに選手時代の確かな経験があればなおさら。指導者というのはピッチ上で指導だけをしていればいいわけじゃない。チームの空気感を把握し、チームとしての方向性を確かなものにし、ピッチ上での景色を知っているからこそ経験をもとにしたアドバイスで選手をサポートすることができる。選手と頻繁にコミュニケーションを取って、信頼関係を築いて、それでいて厳しいことも口にする。それが指導者として望ましい姿なのです」

好循環を生み出す「正しい場所」を作れるか

――ヘルタの育成アカデミーからは現在、数多くの選手が世代別代表に招集されています。その数はドイツトップとされていますよね。どこにその要因があるとお考えですか?

 「まず素晴らしい資質を持った選手がいるということ。ベルリンは人口350万人のビックシティです。資質を持った選手がどこかで生まれる確率は他の町より高い。そんな彼らが成長するために必要な環境を整えることができているので、年代別代表に招集される選手が増えてきています。そういった高いレベルを知る選手が多くなれば、トレーニングのクオリティが上がり、他選手にもよい影響を与えることができる。そうして選手のさらなる成長へと繋がるいいサイクルが生まれています。

 私たちは選手がどのように成長するかを大事にしています。資質を持った選手がプロ選手になるためには様々なハードルを乗り越えなければならない。そのためにはまず健康であることが何よりも大事。普通の人生でもそうですが、健康であることが生活の基盤になります。ということは、健康を維持できるための環境、ケガをしたり、病気にならないように負荷設定や日常生活の過ごし方をサポートすることは必須要項になります。……

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ヘルタ・ベルリン

Profile

中野 吉之伴

1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。

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