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一歩ずつ踏みしめてきたステップアップへの階段。湘南ベルマーレ・平岡大陽のいままでとこれから

2023.04.01

そのアグレッシブなプレーは、チームの中でも際立っている。高卒で加入した湘南ベルマーレで、プロ3年目を迎える平岡大陽のことだ。ルーキーイヤーはJリーグのピッチで活躍するイメージなどまったく持てなかった若武者は、それでも地道に重ねた努力の蕾をいよいよ花開かせようとしている。そんな20歳が抱えてきた心の機微を、おなじみの隈元大吾が過不足なく綴る。

「この舞台でこんなに堂々とプレーするのは、俺には無理やな」

 攻守に駆ける躍動がたくましい。ハイプレスを仕掛けて組織的なボール奪取の端緒となれば、誰より早くセカンドボールに反応し、自ら球際を制して守から攻への素早い切り替えを牽引する。観る者の目を奪う、その途切れぬプレーに加え、代表ウィーク前のアビスパ福岡戦では小野瀬康介の先制ゴールをアシストした。角度のないなかでニア上を射抜いた小野瀬のそれがゴラッソなら、裏への動き出しにぴたりと合わせたラストパスもまたパーフェクトだった。プロ3年目の今季、開幕から5試合で2得点1アシストと目に見える結果を残している事実も含めて、平岡大陽は着実に存在感を高めている。

 思えば、履正社高校を卒業し、湘南ベルマーレに加入した2021年は、J1のピッチは遠かった。ルヴァンカップこそ途中からスタメンに名を連ね、5月の同横浜FC戦ではプロ初得点もマークしたが、「ゴール以外はなにもできなかった。課題だらけ」と、むしろ肩を落としたものだった。

2021シーズンのルヴァンカップGS第2節、横浜FC戦での平岡(Photo: Takahiro Fujii)

 プロ入りまもない当時の胸中について、平岡はのちに振り返っている。

 「周りとの差もありましたし、なにもできないという感覚でした。とくに1年目のキャンプは怯えるぐらい緊張していた。開幕してルヴァンカップには出場しましたけど、初めて出たリーグ戦(第17節・徳島ヴォルティス戦)は全然ダメで前半で代わり、その後の天皇杯も全然ダメで、リーグ戦なんか一生出られないと思っていました」

 ホームゲームの際、レモンガススタジアム平塚のスタンドからチームメイトの戦いを観ているときはいつも、「この舞台でこんなに堂々とプレーするのは、俺には無理やな」と思っていたという。

 「ベンチ外の選手って、チームが勝ったり、同じポジションの選手が活躍したりしたら、悔しいと感じるものだと思うんですよね。でも当時の僕は、チーム内の争いの舞台に立てているとは思っていなかったから、勝てば素直にうれしいし、チームメイトが活躍したらすごいなって思うだけだった。それがなによりも当時の自分の心境を表していると思います」

 ただそれでも、「気を抜いたことは一度もないし、先が見えないなかでも練習にはしっかり取り組んでいた」と語るように、努力は人知れず粛々と続けていた。全体練習後には、当時コーチだった山口智監督をはじめ、スタッフの協力を仰ぎながら自主練にも精を出した。曰く、「いまの自分に足りないものを考えて、僕なりにやり続ければこの先に繋がるんじゃないかなと、神様が見ているというような話はしたくないですけど、思っていました」。

プロ1年目に訪れた変化の萌し

 そう考えるひとつの拠りどころとなったのは、高校時代の経験だろう。プロになれるわけがないと思いながら、それでも日々自分の限界を出そうと心に決め、手を抜きたくなるようなタフなフィジカルメニューも全力で取り組んだ。不器用に、しかし弛まず上を目指し続けた3年間の地道な積み重ねの先に、プロとなったいまがある。

 自信や手応えが見えないプロ1年目の日々のなかで、変化の萌しは山口監督が就任した9月以降に辿れよう。きっかけは、とある練習試合にあった。……

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