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好調ニューカッスルを牽引する“愛されキャラ”。ミゲル・アルミロンの献身と変身

2023.02.26

24日、ニューカッスルはミゲル・アルミロンとの契約期間を3年半、2026年まで延長したことを発表した。わずか半年前には放出候補にも挙げられていた“ミギー”は、なぜ古豪をプレミアリーグ上位争いに導く中心選手へと序列を上げられたのか。その理由をTwitterでは「Newcastle United Japan」、YouTubeでは「NUFC JAPAN TV」で愛するマグパイズにまつわる情報を発信しているWassy氏と探ってみよう。

 好調を維持するニューカッスルで、攻撃陣を牽引しているのがミゲル・アルミロンだ。加入して4年、昨季までのプレミアリーグ110試合でわずか9得点と物足りない成績に終始していたパラグアイ代表MFは、2021年10月のサウジアラビア政府系コンソーシアムによるクラブ買収完了時には新戦力獲得の噂がヘッドラインを賑わす傍ら、真っ先に放出候補として挙げられるほど序列を下げていた。

 しかし、チームに残留した今季は開幕からスタメンを確保すると突如覚醒。ドリブルでの局面打開や芸術的なコントロールショットでスーパーゴールを連発している。この飛躍の理由を探るために、まずはニューカッスルで指導を受けた3人の指揮官の下での歩みを振り返っていこう。

プレミアリーグ6試合6得点を挙げた2022年10月のゴール集

ラファエル・ベニテス監督時代(2019)

 ニューカッスルは2019年1月、当時のクラブ史上最高額2100万ポンドでアルミロンを獲得した。前所属のアトランタは2017年にMLSへ加盟した新興クラブながら、参入2年目にして年間王者を決めるプレーオフのMLSカップを制覇している。その立役者の一人がアルミロンで、リーグ戦でも32試合12ゴール13アシストの大活躍。MLS年間ベストイレブンにも選出されていた。実績が十分なうえ当時24歳とピークを控えた年齢だったこともあり、彼に興味を持つ欧州クラブが続出。イングランドではアーセナルも関心を寄せていると報じられていたほどだ。

笑顔でMLSカップの優勝メダルを噛む、アトランタ時代のアルミロン

 しかし当時のオーナーであるマイク・アシュリーは自身の商売を優先して、戦力強化に資金を投じないビジネスマン。その2018-19シーズンにニューカッスルとの契約が最終年に突入していたラファエル・ベニテス監督も、以前から選手層の薄さを嘆いて不満を溜め込んでいたところだ。その状況下で強豪からも熱視線を浴びていたアルミロンの獲得が決まったのは、まさに青天の霹靂とも言えるビッグニュース。2005年夏にレアル・マドリーから加入したマイケル・オーウェン以来となるクラブレコード更新ともあって、サポーターも大きな期待を寄せた。

 2月からチームに合流した173cmの小さなレフティは、移籍後初の先発を果たしたプレミアリーグ第27節ハダースフィールド戦でさっそくインパクトを残す。MLSで猛威を振るった裏への抜け出しでペナルティエリアに侵入すると、GKの頭上で弧を描く左足のループシュート。惜しくもポストに嫌われて得点こそ叶わなかったが、確かな俊足と技術を見せつけ新たなスターの誕生を予感させた。[3-4-3]の左ウイングとして攻守に存在感を発揮しつつチーム最多のチャンスクリエイト数を記録してベンチに下がった81分には、本拠セント・ジェームズ・パークに詰めかけた5万人以上のファンがスタンディングオーベーションでホームデビュー戦での健闘を称えていた。

ハダースフィールド戦でサポーターの拍手に応えながらピッチを後にするアルミロン

 シーズン残り半年でゴールこそ奪えなかったものの、サロモン・ロンドン、アヨセ・ペレスと組む3トップですぐさま良好なコンビネーションを構築したアルミロン。左サイドから彼が繰り出すランニングを起点に、相手のDFラインが乱れて空いたスペースに味方が飛び込んでいく形がチームに定着した。得点機会を増やしたニューカッスルは開幕10試合未勝利と最悪のスタートを切っていながらも、後半戦で調子が上向き14位でのフィニッシュを果たす。この時点ではアルミロンへの評価もポジティブなものばかりだった。

スティーブ・ブルース監督時代(2019-2021)

 ベニテスとの契約延長交渉が決裂したニューカッスルは、指揮官不在でプレシーズンに突入。2019-20開幕まで1カ月を切った2019年7月、ようやく新指揮官にスティーブ・ブルースを招へいした。

 ブルースは基本的に[5-2-3]や[5-4-1]を好み、低いDFラインを設定する保守的な監督だ。いざボールを奪えば少ない人数でロングカウンターを仕掛けなければならず、主に右ウイングで起用されたアルミロンと、左の新戦力アラン・サン・マクシマンには数的不利での単独突破や長距離のドリブルが求められた。

 身長が同じ170cm台前半ながらも体幹に優れるサン・マクシマンが足下の超絶技巧を生かして毎試合のようにDFを翻弄する一方、フィジカルに劣るアルミロンはボールロストが目立ってしまう。そもそもスピードを生かした最終ラインとの駆け引きや、ダイアゴナルランで味方にスペースを作るプレーを持ち味とする彼は、自らが単独で運び屋になることはそこまで得意としていない。連携して崩せるチームメイトがいれば話は別だったが、ベニテス政権でトライアングルを形成していたロンドンとペレスは退団。新たに先鋒を務める新戦力ジョエリントンもイングランドサッカーへの適応に苦しんでいたため、まだ相棒にはなり得なかった。

 サン・マクシマンが圧倒的な個の力で蹂躙する逆サイドとは対照的に、すぐ周りにボールを預けてしまうような消極的なプレーに終始するアルミロン。2020年に入る頃にはストライカーやトップ下、ボランチなど毎試合のように異なるポジションで起用され、好不調の波はあれど徐々に本来の輝きは失われていった。

 そんなアトランタ時代のチームメイトの不遇に同情を示したのは、かつてサンダーランドでブルースの指導を受けたことのあるケンワイン・ジョーンズ。「ミゲルにとって相性の良い監督ではなかった。ブルースは少し古臭いスタイルで、それには合わないんだ。だから彼が苦しんでいることにも、驚きはしないよ」と語っていたが、それでも成長がなかったわけではない。全員守備のサッカーで持ち前のハードワークに磨きがかったのだ。……

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ニューカッスルミゲル・アルミロン

Profile

Wassy

1994年生まれ、埼玉県出身。ハテム・ベン・アルファのドリブルに衝撃を受けニューカッスルサポーターに。現在はNewcastle United Japanの中の人として、Twitterを中心に情報発信している。YouTubeチャンネル「NUFC JAPAN TV」には深堀り解説動画も投稿中。

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