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ノースロンドンダービー戦術分析。「撤退守備+ウイング誘導」を破ったアーセナルの工夫

2022.10.03

6勝1敗の1位アーセナルと5勝2分の3位トッテナム。プレミアリーグ第9節のノースロンドンダービーは首位を懸けた注目度の高い一戦だった。ボールを支配するアーセナルに対して、ロングカウンターを狙うトッテナム。アルテタ対コンテの緻密な戦術的な駆け引きを徹底分析する。

 片方のチームが首位で、追走する側のチームにも勝てば順位逆転のチャンスがある。首位のアーセナルの本拠地に今季無敗のトッテナムが乗り込むこの一戦の注目度は例年以上に高かったと言っていい。

トッテナムの2つの選択肢

 この試合における1つ目のポイントとなるのはトッテナムのスタンスだ。コンテのトッテナムは前に出ていくスタイルと徹底的に低い位置でブロックを敷くスタイルの2つを使い分けることが特徴である。

 トッテナムがローブロックを組むことを躊躇しない理由はロングカウンターの精度が非常に高いからだ。ケインはボールが収まるし、ソンとリシャルリソンは深い位置からロングスプリントを繰り返すことができる。この試合では出番はなかったが、味方の攻め上がりを促すタメを作れるクルゼフスキもカウンターにおける重要なカードである。

 しかし、ノースロンドンダービーといえば火花の散るような激しい攻守の応酬が名物でもある。高い位置からのハイプレスで捕まえにいくようなアーセナルと組み合う状況をトッテナムがどこまで狙っていくのかが試合の争点になる。

 立ち上がりのワンプレー目はトッテナムがアーセナルを高い位置から捕まえにいくトライをした。しかしながら狭いスペースをトーマス、ジェズス、ウーデゴールを軸にアーセナルがトッテナムのプレスを無効化。敵陣深くまで進んでいく。

中盤から両サイドまで縦横無尽に顔を出し、ボールを収めて起点を作ったブラジル代表FWジェズス

 プレスが効かせられなかったトッテナムは潔くリトリートに移行することになる。先に述べたようにリトリートはトッテナムにとって優先度が低くない選択肢だ。リトリートをしたからと言って白旗ということではない。

 一般的にこの試合のように片方のチームがボールを持つことを放棄した場合、主導権がどちらにあるかはボール保持率と異なる指標で考えなければいけない。最近、筆者が試合を見る時に重視しているのが、ボールを保持している側がどのエリアで攻めるかを決めているのが、どちらのチームであるか?という点である。

 狭いスペースでの攻略に終始させることができれば、ボールを持っていない方が守りやすい状況を作ることができるし、広いスペースで自由自在にどこでも攻めることができれば保持側が優勢と言えるだろう。よって、相手にボールを持つことを許したトッテナムがアーセナルにどこから攻めさせるかを制御できているかが試合を見るポイントとなる。

前に人が立つと横パス――徹底したロングカウンター対策

 トッテナムのブロック守備の特徴はシャドーが低い位置まで降りていくことである。この試合においてはアーセナルのウイングがボールを持った時にトッテナムのウイングバックをフォローして1対2の形を作ることを意識していた。

 トッテナムはアーセナルのウイングから攻めさせることに誘導していると言える。先ほどの主導権を握るにはどこで攻めさせるか?の話に当てはめてみると、トッテナムはアーセナルにウイングから突破する形に追い込みたいということだ。突破力のあるサカとマルティネッリからの攻めに固執する形は確かにこれまでのアーセナルが陥ってきた課題でもある。

 しかし、今季のアーセナルはウイングの突破力だけに依存したチームではない。トッテナムがウイングを守りやすい場所に網を張っているのならば、他の場所からも攻めることができる。

 ここからはわかりやすく具体例を使った図に沿って説明する。アーセナルがとても多く活用したボールの動かし方はまずはサカにボールを入れること。これでソンとペリシッチをここに釘付けにする。……

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アーセナルトッテナムノースロンドンダービー戦術

Profile

せこ

野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。

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