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「左SB冨安」の効能と後悔。アーセナルはなぜトッテナムに大敗したのか?

2022.05.15

512日にトッテナム・ホットスパー・スタジアムで行われたノースロンドンダービーは、22分(PK)、37分のハリー・ケインの2発と、47分のソン・フンミンのゴールでホームチームが3-0圧勝。これで勝ち点は4位アーセナルが6621312敗)、5位トッテナムが6520511敗)と1ポイント差に縮まり、プレミアリーグ残り2試合、CL出場権をめぐる4位争いの行方はまだまだわからなくなった。6季ぶりのトップ4復帰に向け、3連敗→4連勝→王手をかけた大一番で完敗と、やっぱり一筋縄ではいかないアーセナルの現状とともに、グーナーのグナ島(@gooner1031)さんが大一番の戦術的ポイントを振り返る。

 毎試合が決勝戦。今季のアーセナルにはそんな印象を受ける。生まれ変わった若い力が躍動し、プレミアリーグ第35節を終えて単独4位。勝てば16-17シーズン以来6季ぶりのCL出場が確定する試合が、同じく4位以内を争う宿敵トッテナムとのノースロンドンダービー。スポーツとは筋書きのないドラマだと言われるが、まさにそれを感じるタイミングでの対戦となった。

 トッテナムは勝ち点62で4位アーセナルとの差は4。CL出場のためには是が非でも勝利をつかみ取らなければならない状況だった。もともとこの一戦は今年1月に予定されていたが、アーセナルに負傷者やアフリカ・ネーションズカップへの出場者、新型コロナウイルスの陽性者が出たため、試合を行えるだけの人数要件を満たせないというアーセナル側の要望により延期となった。この決定の是非については言及しないが、少なくともトッテナムサポーターからすればダービーの熱狂に拍車をかける要素であったことは間違いない。

冨安のポジションと戦前の懸念

 アーセナル視点では、この日の布陣がどのようになるのかは非常に注目だった。中でも話題に挙がっていたのが、4月下旬にケガから復帰した冨安健洋をどのポジションで起用するかだ。5月8日の前節リーズ戦(○2-1)では相手のキーマンであるラフィーニャと対峙させるために、アーセナル加入後初となる左SBで先発フル出場。ティアニーが負傷離脱した4月以降、代役を務めたヌーノ・タバレスやジャカがお世辞にも安定しているとは言えなかった中で、リーズ戦での冨安のパフォーマンスは出色の出来だった。

 しかしトッテナムには今季すでに20ゴールを挙げ、リバプールのサラーとリーグ得点王争いを繰り広げるソン・フンミンが左におり、アーセナル側の右サイドのケアをどうすべきかはファンの間でも議論が分かれていた。冨安を右サイドに戻すのか、冨安不在の穴を埋めてきたセドリックを起用するのか。さらには、ここ2試合メンバーから外れていた右CBベン・ホワイトは戻って来られるのか、そもそも4バックを継続するのか、3バックで挑むのか。

 ミケル・アルテタの決断はリーズ戦の踏襲だった。冨安は引き続き左SBに入り、11人の配置もそのまま。アルテタは基本的に勝っている時はメンバーをいじるようなタイプの監督ではないので想像はできたものの、右サイドがどこまで耐えられるのかは両チームのスターティングイレブンを見た上での注目点だった。

 トッテナムでは前節リバプール戦(1-1)で臀部を痛めたロメロが間に合わず、代わりに3カ月ぶりの先発となるダビンソン・サンチェスが3バックの右CBを務めた。それ以外はベストメンバーと言っていいだろう。満員のアウェイスタジアム。先述の延期騒動も相まってか、いつも以上にブーイングの声が大きく聞こえたのは筆者だけだろうか。

立ち上がりの狙いと苦戦の予兆

 アーセナルのプレスは、相手ボランチのベンタンクールとホイビュアを前方に突き出すようにポジショニングしたインサイドMFジャカとウーデゴーで監視し、右WB(ウイングバック)のエメルソンは左WG(ウイング)のマルチネッリが徹底的にマーク。左WBには右SBのセドリックが相対し、CFのエンケティアは中央へのコースを切りながら相手を左右に誘導する。そして左右のCBベン・デイビス、D.サンチェスにボールが渡ると、一気にプレスを強めていた。特に顕著だったのはジャカの立ち位置で、エンケティアに並ぶような高さまでプレスに奔走していた(2分46秒のシーン)。

 おそらくこの狙いは、敵陣での即時奪回によるカウンターアタックだったのだろう。トッテナムは自陣からのビルドアップという側面においては特段秀でているわけではない。アーセナルとすれば虚を突いた形とも取れるが、トッテナムからするとプレスを剥がすことができれば自身の強みであるスペースを意識した前へのアタックが可能になる展開でもあった。アーセナルの意識は相手の強みを消すことではなく弱みを突くことであり、それは詰まるところ、アーセナルの弱みを突かれる可能性も許容した上での立ち上がりであった。

 試合開始から5分もしないうちに敵陣深くでのインターセプトが2度あり、この戦法は序盤、少なくとも相手を困惑させたとは言える。しかしトッテナムはこのプレスに徐々に対応していく。ジャカが前に突き出る形のプレスを採用したことで、ピッチ中央には広いスペースができていた。そのエリアをカバーしていたのは、4月上旬のトーマス離脱以降、チームの穴を埋めていたエルネニーだったが、彼にはケインのマークという大きな役割があった。自陣深くの場合は基本的にCBのガブリエウがケインをマンマークしていたものの、ミドルサード付近、特に中央より右側ではエルネニーがケインへの意識を高めていた。

 試合の流れが変わってきたのを象徴するのが8分40秒のシーン。左サイドのセセニョンから前方のソンにボールが渡ると、ソンはワンタッチで中央に向きを変えてホールディングを剥がし、一気に前進。このエリアをカバーしていたエルネニーは中央に走るケインの動きに釣られ、ソンに対して縦へのスペースを空けてしまう。幸いガブリエウが対応したことでシュートまでは至らなかったものの、この一連のプレーでソンと対峙するホールディングは明確に脅威を感じ取ったことだろう。

 そこから1分後の10分のシーン。同じような位置でソンがボールを受けると、ホールディングが猛然とアタック。11分8秒のシーンもそうで、わずか1分の間にホールディングはソンに対して立て続けに同じようなファウルを犯してしまった。これにより、トッテナムの左サイドにおける前進方法がある程度確立される。

プレミア直近11試合で11得点と絶好調のソン・フンミンに翻弄されたホールディング

 だが、アーセナルも黙っていない。リーズ戦で活躍した冨安の位置から、この日もチャンスが生まれる。15分10秒のシーンはまさに狙っていた形だろう。ジャカとのスムーズなポジションチェンジで冨安がトッテナムのライン間に顔を出すと、そこからWBエメルソンの裏へとボールが渡り、序盤から優位に立っていたマルチネッリが一気に抜け出す。アーセナルは前節から引き続き、左サイドでのアタックでトッテナムに勝負を挑んでいた。この場面でもったいなかったのは、エンケティアが冨安と同じ動きをしてしまったこと。あの位置は冨安に任せ、もう少しだけ前方にポジションを取っていたら、その後の折り返しでシュートを狙ったウーデゴーの周辺に有用なスペースができていたかもしれない。

 この試合のキーマンだった冨安が左SBで起用された理由は、保持局面だとこのアタックに集約されているように見えた。右WGでプレーするサカのコンディションが良いとは言えない状況で、深さを取れるマルチネッリは貴重な存在であり、そこに繋げるまでのポイントとして冨安の存在は大きかった。また非保持においては、ジャカのプレスによって空く中央エリアをカバーする役割も多分にあったと思われる。それらを鑑みると、あらためてこのチームにおける冨安の重要性がわかるだろう。

左SBに加え、チームが10人となってからは右SB、右CB、中央CBとしてもハイパフォーマンスを披露した冨安だったが……

重過ぎた先制点…起きてしまった退場劇…

……

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アーセナルトッテナムノースロンドンダービーレビュー

Profile

グナ島

1993年10月31日、生まれも育ちも茨城県。アーセナルについてTwitter(@gooner1031)で発信。いたって平凡な企業戦士サラリーマン。ケツメイシとダイアンをこよなく愛する。