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明白だった「6年分」の差。戦術的完成度で圧倒したリバプール、納得のユナイテッド戦「4-0」

2022.04.23

オールドトラッフォードの「0-5」から6カ月、4月19日にアンフィールドで行われた今季リーグ戦の第2ラウンドもクロップ陣営の完勝に終わった。勝ち点76(23勝7分2敗・83得点22失点)として首位マンチェスター・シティと1差で優勝を争うリバプールに対し、同54(15勝9分9敗・52得点48失点)の6位でCL出場権すら遠のいたマンチェスター・ユナイテッド。どうしてここまで両者の間に差がついたのか。『リバプールFCラボ』で戦術班を担うトリコレッズさんが、この90分間とここに至る背景を振り返る。

 この試合を見た方に聞きたい。この日のマンチェスター・ユナイテッドについて、最も印象に残っているのは何だろうか。

 私にとって、それは「巨大なドレッドヘア」だった。84分の出場からものの数分で2度のラフなタックルを見舞い、イエローカードを頂戴し、マネになだめられていた若者、つまりアンニバル・メジブリだった。そして彼が最も強い印象を残すほどに、この日のユナイテッドに見どころを探すのは難しかった。

 4-0。先のオールドトラッフォードでの試合(○0-5/昨年10月24日)も合わせれば、なんと2戦合計9-0になる。私はリバプールサポーターなのでもちろん文句はないのだが、それにしても巨大な差だ。この差に関しては、敗将ラルフ・ラングニックが述べた「リバプールは我われの6年先を行っている」という台詞がすべてだろう。

 6年前、すなわち2015-16シーズンとは、ユルゲン・クロップがリバプールの監督に就任した年だ。それからリバプールは、戦術に合う選手を(ごくゆっくりとではあるが)獲得し、チーム全体としての戦術理解度を高め、数多の敗北や屈辱を踏み越えながらここまで進化してきた。一方のユナイテッドは、その6年間で暫定含め5人の監督(ルイ・ファン・ハール、ジョゼ・モウリーニョ、オーレ・グンナー・スールシャール、マイケル・キャリック、ラルフ・ラングニック)に率いられ、なかなかアイデンティティの定まらない日々を過ごしてきた。

 ラングニックが指摘したユナイテッドの「遅れ」とはつまり、この点に起因するチーム全体としての戦術理解度の差、そして戦術に適合した選手を集めているという意味での選手層の差だ。この日のユナイテッドには欠場者も多かったが、欠場選手たちがいたらユナイテッドが劇的に変わっていたかと言えば、私はそうとは言えないと思う。

 では、その6年分の差を、具体的に見ていこう。

昨年12月から暫定監督を務めるラングニック。リバプール戦から2日後の4月21日、ユナイテッドは来季からの正監督として現在アヤックスを率いるエリック・テン・ハーフが就任することを発表した

盤面上の問題だけではない。定まらなかったユナイテッドの守備

 この日の両チームの一番大きな差は、「守備時の意思統一の有無」だったのではないだろうか。もう少し具体的に言うと、チームとしてボールをどこに誘導し、どう奪い、そこからどう攻めるのか。そのチームとしての統一感が、この試合での両チームの違いだったように思える。特にユナイテッドは、どこをどう守りたいのかさっぱり見えてこなかったのだ。

 各所で指摘されているように、フォーメーションの噛み合わせ(リバプールの[4-3-3]に対しユナイテッドは[5-4-1])によって、ユナイテッドはリバプールのSBを捕まえにくかった。ただしそれだけなら、思い切って引いて守る、あるいはリスク承知でより全体を押し出し、前に人数をかけるなど、それはそれなりに戦い方もある。盤面上での有利不利というのは、あくまでも絶対的なものではないのだ。だが、実際にはこの日のユナイテッドは、そのどちらとも取れない中途半端な守備を繰り返してしまった。

 それが具体的に表れたのがリバプールの先制シーンだ。このシーンはリバプールのゴールキック、そこから始まるビルドアップを端緒としている。リバプールはバックラインを広く使ってパスを回しながらユナイテッドの前線3枚(ラッシュフォード、ブルーノ・フェルナンデス、エランガ)の距離を少しずつ広げ(途中GKのアリソンにB.フェルナンデスが強く寄せたことでやや危ない場面もあったが)、ボールを右SBのアーノルドに渡した。この時点で、前述したフォーメーションの噛み合わせの影響により、エランガの対応はやや遅れ気味だ。

 その後サイドでのパス交換を経て、ボールは降りてきたCF、マネに渡る。ここが、ユナイテッドの守備が2つの意味で中途半端だった場面だ。まず1つはチームとして、前線からプレスをかけているにもかかわらずバックラインの押し上げが足りず、中盤に大きなスペースを残してしまっている。この前線と最終ラインの意思の乖離(かいり)が、ユナイテッドの守備意識の不統一が表れた場面だ。

 さらにもう一つは個人レベルの中途半端。この時マネに対処しに行ったマグワイアは、マネとの距離を詰めるでも詰めないでもなく、マネをフリーにしてしまっている。その結果、マネは悠々とターンし、人が出払ったユナイテッド左サイドにはリバプールの選手が2人も駆け上がってきていた。その後のゴールは、アーノルドやルイス・ディアスほどの質を持った選手たちにとっては、もはやイージーだったとも言えよう。奪いどころを明確に設定できなかったユナイテッドと、相手の隙を見て一気呵成に攻め込んだリバプール。残酷なまでの対比が表れたのは、まだ試合開始から5分と経たないタイミングだった。

5分、サラーのアシストからディアスが決めた先制点のゴール動画

 右サイドでのビルドアップがやや狭くなった局面をうまく打開したリバプールの展開が見事だったのは事実だが、ユナイテッドがチームとしての狙いとコンパクトさを失っていたのもまた事実。前半開始直後はやや積極的に入り、奪って裏を速く攻めるという狙いを形にしようとしていたユナイテッドにとっては、痛恨の失点だったことだろう。

 なお、ユナイテッドは後半開始からフォーメーションを[4-3-3]に変更し、サイドの高い位置に人を置くことによってプレスの改善を試みていた。実際、後半開始直後は積極的なプレッシングから高い位置でボールを奪い、チャンスを作りかけたシーンもあった(46分3秒頃)が、5分ほどすると下火に。おそらく、CFのラッシュフォードがあまり守備に積極的でなかったこともあり、逆に今度は中央へのパスを通されるシーンが出始めたのを嫌がったのだろう。

猛威を振るう「偽9番マネ」

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マンチェスター・ユナイテッドリバプール

Profile

トリコレッズ

LFCラボライター・戦術班所属。2005年、「イスタンブールの奇跡」でリバプールファンに。少年サッカー時代にCBだったこともあり、CBの選手を偏愛している。Jリーグでは横浜F・マリノスのサポーター。

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