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「何度も失敗してきたから凹んだとしてももう心までやられることはない」… 家本政明は引退後、何をやるのか

2021.12.25

レフェリーとして、幸せな結末を迎えることとなった家本氏。現役時代から、書籍の執筆や、キャリアの後半にはSNSでの情報発信をはじめるなど、外向きに自身の言葉を届けることに、積極的な性格だった。

あまり表に出る機会が多い立場ではなかったが、常日頃から、理路整然と、説得力のある言葉で話す姿は関係者の間では評判だ。レフェリーという立場を離れた彼は、今後どのようなキャリアを思い描いているのだろうか。

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 僕が普段付き合っている方は、審判以外の方がめちゃくちゃ多いんですよ。仲良くしてくれているいろいろな諸先輩方からは「お前は人の懐に入るのがうまいよな」とよく言われます。僕自身がそれを狙ってやってるわけじゃないんでわかんないんですけど、「人たらし」だよな、と。

 レフェリーとしての自分を見つめ直す上で、心理学であったり、行動経済学であったり、どうすれば人を理解することができるのだろう、人といい関係性が持てるのだろうかと思って勉強をしてきて学んだことは、今後にいろいろな形で活用できると思っています。

 僕は2014年から4年ほど、プロレフェリーを続けながらビジネススクールに通っていました。そこでいろいろな経営者の方やマネジメント層の方と接して、体系的にビジネスを学んだのですが、経営者の役割って、レフェリーとすごく近いと思うところが結構あったんですね。例えば、断片的な情報を自分の中にインプットして、何が正解かどうかもわからない中で、意思決定をしなきゃいけないところとか、問題を解決するとは別に、大元となるそもそもの問題を発見したり特定したり、課題を設定したりするところなどです。

 昔とは違って、VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)といわれる今の時代はいろんなことが本当に難しいじゃないですか。常に状況は変化していて、正解もどんどん変わっていく。栄枯盛衰のサイクルやトレンドの移り変わりもめちゃくちゃ早いですよね。そんなすごく難しい状況の中で意思決定をするために、事前にどんな、どれくらいの情報を取りに行くのか、あるいは何を信じるのか。もしかしたら失敗するかもしれないということを前提として、何かが起きた時には対策やフォローのことも念頭に置きながら意思決定して進んでいく。成功すればそのまま進んでいく一方で、なぜそれが成功したのかも同時に解明していく。そのサイクルってすごく大事だと思うんですけど、僕らレフェリーも近いところがあります。

 例えばサッカーの審判が試合に臨むにあたり、競技の精神が根底にあって、次に試合の前提となる情報をインプットしていくんですね。それが開幕戦なのか天王山なのか、リーグ戦なのかカップ戦なのか、晴れているのか、雨が降っているのか、夏なのか冬なのか、デイゲームなのかナイトゲームなのか、ホームなのかアウェイなのか、中心選手がいるのかいないのか、いろいろな条件があるわけです。

 それらを事前情報として頭に入れながら試合に入ります。当然試合の中で状況は瞬時に変化していって、得点によっても時間帯によっても試合の温度や流れ、選手やチームの状態は変化していくんです。ずっと攻めていた方が何かのきっかけで急に失点して、途端に押していた方がバタバタし始めちゃったり。審判としてまずいのは、目の前で起きている変化と向き合わずに事前情報に引っ張られたり、自分の思い込みに囚われてたりしてしまうとパニックになって冷静さを欠いたり、柔軟な対応ができなくなることです。だから常に今何が起きていて、それをどう解決し、望ましい方向に選手と試合を導いていくのか状況を見極めながら瞬時に判断して、柔軟に対応していくことが求められますし、みながより楽しめて心から喜べて、よりフットボールに魅了されるように、少ない情報の中で自分を信じて意思決定をすることも審判には欠かせない能力です。

 実際、試合の中では同時多発的にいろいろなことが起きているので、そのすべてを正確に把握することは不可能なんです。でも、限られた情報の中で、瞬時に覚悟を持って判断して、決断を下さないといけない。経営者の方というのは、そうした「ヒリヒリした決断」を迫られる機会がよくあると聞くんですけど、そういう部分はすごく似ているなと思います。……

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Jリーグ家本政明審判

Profile

岡田 康宏

編集者・ライター。得意分野はサッカーとアイドル。著書・共著に「アイドルのいる暮らし」「サッカー馬鹿につける薬」「タレコミW杯」「グループアイドル進化論」など。2010年に発表された家本政明氏の著書「主審告白」の構成を担当している。