「ブラジル基準」はどこへ消えた――強豪国ドミノの正体
新・戦術リストランテ VOL.124
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第124回は、ラウンド16敗退に終わったブラジルが失ったものを考えたい。ネイマールでも、ビニシウスでも埋められないものがある。かつて「監督の指示など必要としない選手たち」が築いたセレソンの伝統は、なぜ消えたのか。ブラジルの変化は、イタリアやドイツにも共通する「アイデンティティの喪失」を映し出している。
「強豪国ドミノ」の共通項は何か
1930年、第1回W杯の優勝国はウルグアイでした。50年にも2度目の優勝を成し遂げています。しかし、今やウルグアイは強豪と呼ばれることはなくなっています。
第2回と第3回を連覇したのはイタリア。通算で優勝4回の強豪でしたが、ここ3大会は予選敗退。長い低迷期に入ってしまいました。
イタリアの次に優勝したのはドイツです。こちらも優勝4回。本大会には出場を続けていますが、ここ2大会連続のグループステージ敗退の後、今回の北中米大会もラウンド32でパラグアイにPK戦で敗れました。ドイツはまだ優勝を狙える強豪国ではあると思うのですが、それもぎりぎりの感じになっています。
ドイツの次の優勝国はブラジル。通算5回の最多優勝、W杯皆勤賞でもあります。サッカー王国です。ブラジルが強豪国でなくなったとは言いにくいのですが、ドイツが倒れたらブラジルまで行きそうな気配が濃厚になってきた気がします。
ちなみに、その次の優勝国であるイングランド、アルゼンチンは健在。さらに次のスペイン、フランスを加えた4カ国はまだ立派に強豪国しています。
かつては圧倒的だった強豪国がそうでなくなった、あるいはそうでなくなりつつある。その理由は様々だと思いますが、今回はアイデンティティについて考えてみたいと思います。
セレソンを形作った技術、身体操作、相手の操作
アイデンティティは「自己同一性」と訳されますが、簡単にいえば「自分が何者であるか」ということですね。
強豪の座から落ちた、または落ちかかっている国の共通点として、アイデンティティの喪失が挙げられます。
ウルグアイは国のサイズも小さいですし、ある意味アイデンティティは保たれていると思いますが、イタリアとドイツは「自分が何者であるか」を見失った気がします。両国に共通するのは「スペイン化」。一時的には上手くいったのですが、すぐに効力が失われ、もともと持っていた強みも微妙になってしまった。違う者になろうとして自分がわからなくなった感があります。
ブラジルは「スペイン化」していません。ただし、もうかつての「ブラジル」ではなくなっています。その点ではイタリア、ドイツ以上の変貌ぶりなので、余計に危うさを感じてしまいます。
では、ブラジルらしさとは何だったのか。
ここではブラジルサッカーではなくてブラジル代表(セレソン)について話を進めます。クラブチームはそれぞれの立場によって戦術を選択しますし、国土も広いので地方色もあります。なので、ブラジルらしさというよりセレソンらしさですね。
……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
