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「負けないカルチョ」の終焉か?コモ躍進とミラン崩壊が示したセリエAの地殻変動

2026.05.29

CALCIOおもてうら#70

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。 

今回は、先週末に閉幕した25-26セリエA総括。CL出場権争いではコモとローマが歓喜し、ミランとユベントスが失意に沈んだ。しかし今季を振り返ると、そこには単なる順位争いを超えた大きな変化の兆しが見えてくる。守備的で受動的なサッカーが支配してきたカルチョの世界で、インテルやコモが示した「勝つためのサッカー」が新たな潮流となりつつあるのだ。

CL争いの明暗――歓喜のコモ、失意のミラン

 先週末で全日程を終了したセリエA。スクデットは1カ月近く前からすでにインテルの手中に収まっており、最終節はCL出場権を巡る4位争いが最大の焦点だった。

 2位の座がほぼ確定していたナポリに続く残り2枠を、勝ち点70のミランとローマ、勝ち点68のユベントスとコモの計4チームが争うこの「椅子取りゲーム」は、序盤でリードしながらカリアリに逆転を許したミラン、そしてトリノダービーで引き分けに終わったユベントス(前節フィオレンティーナに敗れたことで事実上の終戦を迎えていた)が脱落し、順当に勝利を挙げたローマとコモが3位と4位の座に収まるという、意外と言えば意外な結末となった。

 クラブとしての格や規模、そしてCL出場権を必要とする度合いから見れば、コモのCL出場権獲得は文字通り歴史的な偉業であり、18-19以来7年ぶりの復帰となるローマにとっても、悲願達成と言うにふさわしい成果だ。それに対して、CL出場権があらゆる意味で「義務」だったミランとユベントスにとっては、大惨事というべき事態である。しかし、結果論を承知で言うならば、ミランにもユベントスにもこうなって然るべき理由はあった。別の言い方をすれば、CL出場権確保の成否にかかわらず、決してポジティブには評価できないシーズンだったということだ。

得点減少が示すセリエAの停滞

 そのあたりは後であらためて掘り下げるとして、全体を振り返ってみると、今シーズンのセリエAは一言で言って、守備的かつ受動的なサッカーが支配的なスペクタクルに欠けるリーグだった、と言わざるを得ない。5大リーグの1試合平均得点を比較すると、ブンデスリーガが3.24と突出している一方で、リーグ1:2.83、プレミア:2.75、リーガ:2.69と、他の3リーグは2.7前後に収まっている。ところがセリエAだけは2.43とそこからさらに一段下がっている。歴史的に見ても、これは93-94シーズン以来33年間で最も少ない数字だ。

 この数字を「得点」ではなく「失点」と捉えるならば、セリエAは5大リーグの中で最も失点が少なく守備の堅いリーグだ、ということにもなる。5大リーグの全96チーム中、得点数でトップ10に入っているイタリア勢はインテル(3位=2.24)のみだが、失点が少ないトップ10にはコモ(2位=0.76)を筆頭に何と6チームも入っているのだ。しかしこういう言い方をしたところで、それが単に慰め以上の意味を持たないことは誰の目にも明らかだ。得点が少ない膠着した展開が多い、スペクタクルに欠けるリーグだとする方がずっとフェアな言い方だろう。

14クラブが3バック、広がる受動的カルチョ

 守備的かつ受動的なサッカーが支配的だという傾向は、20チーム中なんと14チームが3バックのシステムを採用しているという事実に、象徴的に表れている。もちろん、3バックだから受動的で守備的だというわけではない。リーグでダントツの85得点を叩き出したインテルは明確な例外だし、ローマ、ナポリ、アタランタも、ボール支配率とフィールドティルト(アタッキングサード限定の支配率)の双方で55%以上と、ボールと地域の双方で明確な優位を保って戦っていた。

 しかし、今挙げた以外のチームのほとんどは、ボール支配を放棄し攻撃はカウンターとロングボールとセットプレーが頼り、というサッカーに終始していた。重心の低い3バックで、得点することよりも失点しないことに軸足を置いて戦っているチームが大半を占めているのが、セリエAの現実だ。[4-2-3-1]、[4-3-3]の能動的なスタイルが主流になっている5大リーグでは、セリエAだけが別世界と言ってもいい。

 4バックを採用していたチームも含めて、上位陣以外で少しでも能動的かつアグレッシブな振る舞いを見せていたのは、ダイレクトアタックとハイプレスを組み合わせた独自のスタイルを貫くイタリアーノ監督のボローニャ、最終ラインを高く保ちアグレッシブなハイプレスとゲーゲンプレッシングを続けたデ・ロッシ監督のジェノアくらいだろう。

インテルが証明した「結果と内容の両立」

 しかし、である。未来に向けて希望を抱かせてくれる材料がないわけではない。それは、イタリアサッカーにおいて何よりも重視される「目先の結果」という観点から見て、今シーズン明らかな成功を収めたのが、インテル、ローマ、そしてとりわけコモと、いずれも能動的かつ攻撃的なサッカーで、負けないためではなく勝つために戦ったチームだったことだ。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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