“くんちのごたる”が日常になる日。長崎スタジアムシティが書き換えた風景
V・ファーレン長崎、西果ての野望#4
2018年に「長崎スタジアムシティプロジェクト」を立ち上げた時、遠い夢物語に過ぎなかった。それから6年でJリーグの1つのモデルケースになるような大型複合施設は完成し、チームは2度目のJ1昇格を果たした。しかし、まだ夢の途中。長崎という地方都市を舞台に、J1での躍進、そしてその先にあるACL出場を想い描く――番記者・藤原裕久が西の果ての野望を現在進行形で伝える。
第4回は、長崎スタジアムシティとピーススタジアムがもたらした変化を追う。スタジアムは、街の日常を変えられるのか?――長崎で起きている現象は、その問いに対する1つの明確な答えを示している。「くんちのごたる」と表現されてきた“非日常の賑わい”が、今や日常の風景へと変わりつつある。V・ファーレン長崎のJ1昇格と歩調を合わせるように、この街で何が起きているのか。
“くんちのごたる”とは何か——非日常の象徴だった言葉
「くんちのごたる」
標準語で「(まるで)くんちのようだ」という意味のこの長崎弁は、年配の長崎市民が人が多く賑わっている様を見た時によく使う言葉である。ここで言う「くんち」とは、年に1度、3日間で約20万人を集客する長崎最大級の伝統行事「長崎くんち」のこと。くんちの期間中、長崎市には県外から大勢の観光客が訪れ、地元の人出も相まって街は大いに賑わう。その様子を表現した言葉が「くんちのごたる」であり、普段はあり得ない賑わいを指す地元ならではの言葉なのだ。そんな「くんちのごたる」非日常の風景が、長崎で日常のものとなりつつある。
年間485万人が訪れる“日常”はどう生まれたか
その根源となっているのが、2024年秋に開業した「長崎スタジアムシティ」である。開業1年間で延べ485万人が来場し、1日平均約1.3万人、試合・イベント開催日には最大約4.4万人を動員するこの施設は、平日でも約9千〜1万人、試合がない土日祝日でも約2万人前後が訪れる。そして、その長崎スタジアムシティで中核を担う施設が、J1を戦うV・ファーレン長崎のホームスタジアム「PEACE STADIUM Connected by SoftBank」なのだ。
2024年10月、V・ファーレン長崎がホームスタジアムを諫早市のトランスコスモススタジアムから、ピースタへと移転して約1年半。最も大きな変化と言えるのは、やはり集客だろう。

全てのホームゲームをトラスタで開催していた2023年の長崎の1試合平均入場者数は7,300人。翌年は平均入場者数を9,814人まで増加させたのだが、ピースタで開催した3試合を抜いたトラスタでの平均入場者数は8,098人にとどまっていた。対して、ピースタ開催3試合の平均入場者は18,964人であり、完全移転後の2025年は平均入場者15,877人を記録。J1昇格を達成し、百年構想リーグを戦う今季は、現在ホームゲーム5試合を終えて平均入場者数が19,704人と、ほぼ毎試合満員状態を維持しているのである。
当然ながら、満員のスタジアムはプレーヤーにとって大きなモチベーションとなる。しかも、ピースタはピッチから観客席の最前列まで約5m。「日本で一番ピッチとスタンドの距離が近いスタジアム」という売り文句そのままに、選手のプレーや気迫はダイレクトに観客席へ伝わり、観客席の盛り上がりがそのまま選手へと伝わっていく。そこで生み出される臨場感と迫力は多くの選手が「自分たちの力」と感じるところであり、ピースタ最大の魅力ともなっているのだ。
クラブとサポーターが“応援を共創する”という発想
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Profile
藤原 裕久
カテゴリーや年代を問わず、長崎県のサッカーを中心に取材、執筆し、各専門誌へ寄稿中。特に地元クラブのV・ファーレン長崎については、発足時から現在に至るまで全てのシーズンを知る唯一のライターとして、2012年にはJ2昇格記念誌を発行し、2015年にはクラブ創設10周年メモリアルOB戦の企画を務めた。
