“ドリ”が湧き上がらせる――有働夢叶、トリニータ再起の起爆点
トリニータ流離譚 第34回
J3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第34回は、10年ぶりの積雪という波乱の幕開けから快進撃を見せる新体制の中で、ひときわ存在感を放つ23歳、有働夢叶にフォーカス。大ケガを乗り越え、ユーティリティ性を進化へと昇華させた“ドリ”が、いかにしてチームを湧き上がらせる存在となったのかを追う。
まさかの10年ぶりの積雪により、第1節のレイラック滋賀戦が試合当日に開催延期となるアクシデントにも見舞われたが、今季発足した四方田修平監督体制の大分トリニータは、開幕ホーム3連戦をすべて2-0で3連勝するという快調なスタートを切った。初のアウェイゲームとなった第4節のロアッソ熊本戦では連戦の疲労なども重なって1-3で敗れたが、むしろ前半はやや優位に試合を進めており、指揮官が試合後に敗因として挙げた「甘さ」を排除していければ、波に乗れるチャンスは再び巡ってくるはずだ。
昨季まで2年連続残留争いを演じて疲弊していたチームにとっては、まずはとにかくパワーを回復してアグレッシブさを取り戻すことが必要だった。トリニータに限らずどのチームも始動時は明るいエネルギーに満ちあふれているものだが、勝敗を繰り返し試合に絡んだり絡まなかったりしていく日々の中で、徐々に萎んだりバランスが崩れたりすることもある。選手個々が伸びやかに振る舞いながら全体としてもまとまっている、そんな空気感を牽引していける人材がチームには必要で、今季のトリニータで際立ってその期待感を抱かせる選手が、有働夢叶だ。

謎の愛称?「ドリ」の由来
夢が叶うと書いて「しゅうと」と読む。サッカー選手としての思いを盛り盛りに託された名前だが、小学校4年生の時に入ったクラブに、現在は東京ヴェルディでプレーする田邉秀斗がいて呼び名がカブったため、漢字表記に由来して「ドリーム」と呼ばれるようになった。
だが、中学時代のある日、コーチが練習中に叫ぶ。
「ドリーム、ドリーム…って長いわ! もう“ム”要らんやろ!」
現在の愛称である「ドリ」爆誕の瞬間だった。
ちなみに、よく誤解されるようだがプレースタイルはドリブラーとはかけ離れている。

「CB以外のフィールドは右も左も全部できる」
トリニータへの2025年シーズンからの新加入内定が発表されたのは、大学3年に進級する直前だった2023年3月31日。6月には2023年シーズンの特別指定選手となり、その年は大学での活動の合間を縫ってトレーニングに帯同するにとどまったが、2024年シーズンも引き続き特別指定選手に認定されると、早々の3月に公式戦デビューを果たした。
「ドリの適性ポジションはどこなのか」
というのが、練習参加中からしばしば議題となっていた。負傷者が多発して駒不足となっていたチームで、有働は紅白戦での“穴埋め要員”として実に多彩なポジションで便利に使われ、躍動していたのだ。どの位置でもいたってナチュラルにプレーしており、得意や苦手の別も見えてこない。本人に聞けば「さあ……一応FWだと思うんですけど」と名乗っていたが、経歴を聞けば主戦場は広大だった。
小4でサッカーを始めた時は点取り屋のFW。中学ではボランチを務め、アンカーとしてもプレー。中学時代終盤にSBの選手が負傷したためSBにコンバートされ、そのまま高校時代もSBとウイングバックで走っていたのだが、大学入学後に徐々にWGやSH、FWへと、再びゴールに近づいていったという。
「CB以外のフィールドは右も左も全部できます。昔からいろんなポジションをやっていたので、次々にポジションが変わっても切り替えることができるんです」
と、こともなげに話した。
1試合で4つのポジションでプレー
トリニータでのデビュー戦では、期せずしてその器用さが全開になる。
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg
