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「パスして寄る」と「3人目の動き」で密度を作る――バイエルンの革命=アンチ構造主義とは?

2026.02.25

新・戦術リストランテ VOL.106

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第106回は、コンパニ監督率いるバイエルンの革命=アンチ構造主義について掘り下げてみたい。1974年オランダ代表以上の「流動性」を見せる特殊なチームの背景にある思想とは何なのか?

1974年オランダを凌駕する「流動性」

 コンパニ監督はあまり自らの戦術については語りません。監督の中には興が乗ってくると実現していることも、そうでないことも全部話してしまう勢いの人もいますが、コンパニは余計なことはしゃべらないと決めているようですね。

 ただ、「選手の自主性を尊重する」ということは何度か言っています。これはプレーを見ればその通り。また、それ以上に話すべきこともないのかもしれません。

 バイエルンについては今季の開幕時点で取り上げました。その時はまだ1試合でしたが今季の決定版になるという予感はすでにあり、実際にそうなっています。さらに、悪い言い方をすると現代サッカーに蔓延っている「構造主義」への強烈なアンチテーゼになっていると思います。

 コンパニはグアルディオラ監督のマンチェスター・シティでプレーしていたので、構造主義の利点と弊害をよく理解しているのでしょう。CBでしたから、構造ができ上がっている時の強さだけでなく、それが壊れた時の恐さをよく知っている。ある意味、最初に地獄を見るポジションだったわけで。

 コンパニ監督のバイエルンの構造は緩めです。ペップが構造を作った上で選手の判断を尊重しているとするなら、コンパニは選手の判断を優先していますね。つまり、選手を戦術実現のためのコマとして扱っていない。

 構造主義の監督たちもそれぞれ選手の判断は尊重しています。しかしコンパニはその度合いが違っていて。むしろ、それなしに構造自体が作れない仕組みになっているといっていいかと思います。ですから、多くを語るのが難しいという側面があるのかもしれません。

 自由と秩序のバランスが独特のバイエルンは極めて攻撃力に優れ、攻守における流動性については、伝説的な1974年オランダを凌駕するチームです。今回は流動性のトリガーになっているのは何か、構造主義との違いは何か。この2点について掘り下げていきます。

選手の自主性で「構造」を作る

 バイエルンの分析の前に、構造主義とは何かについて簡単に説明します。

 構造主義の始まりはファン・ハール監督が率いた90年代のアヤックスだと思います。「マイティ・アヤックス」と呼ばれた非常に攻撃的なチームでした。

 この時のアヤックスの特徴は攻撃面でのオートマティズムにあります。守備に関してはすでにACミランがゾーナル・プレッシングというオートマティズムを確立していましたが、アヤックスは攻撃でも判断の自動化を行ったという点でたぶん初のケースでしょう。

 1タッチ、2タッチで素早くボールを動かしていきます。そしてボールをサイドの深いところまで運びます。違う言い方をするとボールを失ってもいい場所を決めていた。ペナルティエリアの中、あるいは最悪サイドの深い場所。それ以外は極力失ってはいけないし、失うリスクも冒してはいけない。

 そのためにパスワークを自動化し、サイドに強力なウイングを配した。サイドとボックスなら失ってもいいのは、プレッシングで回収できるからです。敵陣で攻守を循環、なるべく完結させる。攻めても守ってもゴールを狙える。ずっと「勝ちに近い」状態のままゲームを進める、勝利の構造を作ってしまうという考え方です。

 現代サッカーの強豪はほとんどこれです。

……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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