サウダージの国からボア・ノイチ 〜芸術フットボールと現実の狭間で〜 #19
創造性豊かで美しいブラジルのフットボールに魅せられ、サンパウロへ渡って30年余り。多くの試合を観戦し、選手、監督にインタビューしてきた沢田啓明が、「王国」の今を伝える。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第19回(通算197回)は、偉大な父親を長年コーチとしてサポートし、その新天地ブラジルに同行して約1カ月後、ついに独り立ちした“アンチェロッティJr.”について。
「僕はカルロのイエスマンじゃない」
今、ブラジルで最も注目されている監督と言っていいだろう。ある意味では、セレソンを率いて来年のW杯に挑む父親以上に――。
ダビデ・アンチェロッティ、36歳。選手時代はMFで、父親が栄光を極めた(注:選手として2度、監督としても2度、欧州の頂点に立った)ACミランのアカデミーに在籍した。しかし、「選手としての才能に限界を感じて」(本人)2009年、20歳にして現役を引退。大学でスポーツ科学を学び、指導者を目指した。
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2012年、父親がパリ・サンジェルマン(フランス)の監督に就任すると、フィジカルコーチを務めた。2013年、父親がレアル・マドリー(スペイン)へ招へいされると、やはりフィジカルコーチに。
2016年に父親がバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)の監督に就任すると、今度はアシスタントコーチとなった。2018年からはナポリ(イタリア)で、2019年末からはエバートン(イングランド)で、そして2021年からは再びレアル・マドリーで、同じく父親を補佐。2023年7月には、優秀な成績でUEFAプロライセンスを取得している。戦術を練り、セットプレーを担当するなど重要な役割を担って、「カルロの秘密兵器」とも言われた。
偉大な父親に引き立ててもらったことで、当然ながら「親の七光り」と揶揄(やゆ)する声が出た。本人は「カルロの息子であることを、心から誇りに思う。ただし、アンチェロッティという苗字を持つことは大きなプレッシャーでもある」と打ち明ける。
その一方で「僕はカルロのイエスマンじゃないし、またそうであってはコーチである意味がない」と明言。「自分の意見やアイディアを、臆することなくカルロに伝える。もちろん、最終的な決断を下すのは監督だけどね」と語る。
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Profile
沢田 啓明
1986年ワールドカップ・メキシコ大会を現地でフル観戦し、人生観が変わる。ブラジルのフットボールに魅せられて1986年末にサンパウロへ渡り、以来、ブラジルと南米のフットボールを見続けている。著書に『マラカナンの悲劇』(新潮社)、『情熱のブラジルサッカー』(平凡社新書)など。
