REGULAR

「収益装置としての新スタジアム」が高めるイタリア勢の経営的ポテンシャル

2025.01.24

CALCIOおもてうら#35

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、公開された2025年版の「デロイト・フットボール・マネーリーグ」から見えた「収益装置としての新スタジアム」の重要性、そしてインフラ投資に積極的な外資系オーナーが増えたイタリア勢の「伸びしろ」について考察してみたい。

 欧州サッカーの現在と未来をクラブ経営、そしてビジネスという観点から見る上で1つのベンチマークとなっている定点観測レポート「デロイト・フットボール・マネーリーグ」(DFML)の2025年版が1月23日に公開された。

「10億ユーロの壁」を突破したレアル・マドリー

 このDFMLは、日本のサッカー界でも「Jリーグマネジメントカップ」などでお馴染みとなった世界最大の会計事務所デロイトが1999年から毎年発表している、欧州サッカークラブの売上高ランキングを柱とするビジネスレポート。2022年版までは各クラブの簡単な経営分析も記載されていたが、23年版以降は売上の内訳や人件費の推移を示すインフォグラフィックだけに簡略化されてしまったのが残念だ。とはいえ今もなお、ビジネスという観点から欧州サッカーの現況を俯瞰する上で貴重な資料の1つであることに変わりはない。

 昨シーズン(23-24)を対象とするこの2025年版の大きなトピックは、ランキングトップのレアル・マドリーが、ついに売上高10億ユーロの壁を突破したこと。22-23の8億3100万ユーロから1億450万ユーロへと一気に26%もの増収を記録したのは、足かけ5年に渡って進められていた大規模改修が終了してフル稼働に入ったエスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウが、マッチデー収入、コマーシャル収入の双方を大幅に押し上げたから。もちろん、リーガとCLの「ダブル」というピッチ上の成功がそれを後押ししたことも大きい。

 2位以下のクラブが軒並み一桁台前半の伸び率に留まった(唯一の例外はアーセナル)中で、レアル・マドリーだけが「新スタジアム効果」によってこれだけ大きな増収を果たした事実は、「収益装置としてのスタジアム」がどれだけ大きなポテンシャルを持っているか、そしてそのポテンシャルを最大化することがクラブのビジネス面での成長にとってどれだけ重要かを、端的に示している。……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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