REGULAR

予定外の試合欠場。涙のプライムステージ進出。魂のPK戦勝利。今季リーグ戦初スタメン。アルビレックス新潟・阿部航斗が味わった怒涛すぎる6月の充実

2024.06.27

大白鳥のロンド 第12回

初夏の空気も漂う6月。アルビレックス新潟の元気印・阿部航斗はなかなか味わえないような、怒涛の1か月を過ごしていた。スタメン起用されるはずだったYBCルヴァンカッププレーオフの一戦は、選手登録ミスにより欠場。その次の試合では先発出場でプライムステージ進出を勝ち獲り、人目もはばからず涙を流した。さらに天皇杯でもPK戦で躍動し、チームに勝利を引き寄せると、リーグ戦初スタメンのアウェイゲームでも好守を連発。勝ち点1の獲得に貢献している。いろいろな意味で阿部が主役の座をさらったこの6月の日々を、野本桂子に振り返ってもらおう。

 この1本を止めたら、勝利が決まる。

 GK阿部航斗はゴールマウスの前で呼吸をととのえ、4人目のキッカーと対峙した。

 PK戦に使用するゴールは、コイントスの結果、アウェイ側。GKはギラヴァンツ北九州サポーターを背負う形だ。必然、視界にはアルビレックス新潟サポーターがオレンジ色に染めたスタンドが広がる。

 そこには、「頼むぞ航斗!」と書かれた白い横断幕があった。

 「この場面に、ちょうどいい言葉だな」。

 阿部は、3日前にも励まされたメッセージに力を得て、集中を高めた。

飛び出したベリンガムのゴールパフォーマンス!PK戦の主役をさらう!

 6月12日、デンカビッグスワンスタジアム。

 天皇杯2回戦は、4−4のまま延長戦でも決着がつかず、PK戦に突入していた。

 先攻の北九州は、3本目を終えて1本成功。後攻の新潟は、3本すべてを成功させていた。

 足はもう、つっていた。だが頭はクリアだった。

 追い込まれているのは相手のほうだ。

 1人目は真ん中に決めた。だが、2人目は真ん中に蹴って止められた。3人目は自分から見て左のポストに当てている。おそらく、次は右に蹴るだろう。

 つっている足の感覚で、飛べるのは右だった。

 響き渡る「航斗」コールの中、右方向へ飛ぶ。

 見事なセーブで、3回戦進出が決まった。

 ゴール前で、両手を大きく広げて天を仰ぐ。自然と出てきたのは、「めっちゃ格好いい」と思っていた、ジュード・ベリンガム(レアル・マドリー)のゴールパフォーマンス。

 仲間たちが、次々と阿部の胸に飛び込んできた。

 「自分が止めて勝つって、多分、他のキーパーに聞いてもなかなかないと思う。本当にキーパーの見せ場というか、キーパーをやっていて一番気持ちいい瞬間じゃないかなと思いますね、あれは」。

 シュートを止めたときに“ドヤる”のがGKの醍醐味――そう話す目立ちたがり屋の阿部にとって、まさに会心の“ドヤり”の瞬間でもあった。

天皇杯2回戦ギラヴァンツ北九州戦で披露した阿部のベリンガムポーズ(2:39)

 6月、8日間で3試合のカップ戦を戦った、その3試合目。阿部は最後の最後に主役となった。

「正直、人生でも一番くらいの怒りとか、悔しさとか、いろんな感情がありました」

 この天皇杯の1週間前に当たる6月5日。阿部は、YBCルヴァンカップ プレーオフ第1戦のV・ファーレン長崎戦に先発する――はずだった。……

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Profile

野本 桂子

新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。24年4月からクラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。

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