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パス&コン、ボールマスタリー…単調な反復ドリルを「エコロジカル化」させる方法

2024.06.24

トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編#7

23年3月の『エコロジカル・アプローチ』出版から約1年、著者の植田文也氏は同年に盟友である古賀康彦氏の下で再スタートを切った岡山県の街クラブ、FCガレオ玉島でエコロジカル・アプローチの実践を続けている。理論から実践へ――。日本サッカー界にこの考え方をさらに広めていくために、同クラブの制約デザイナーコーチである植田氏と、トレーニングメニューを考案しグラウンド上でそれを実践する古賀氏とのリアルタイムでの試行錯誤を隔週連載として共有したい。

第7回は、サッカーの現場で多く取り入れられているパス&コントロールやボールマスタリーなどの反復ドリルを「エコロジカル化」する方法についてアイディアを出し合った。

「反復トレーニング+制約操作」の具体例

植田「第7回は、アスリートの優れたパフォーマンスは、同じ動作が繰り返せる『再現性』に由来するのか、それとも異なる動作を使い分けるような『バリアビリティ(=動作バリエーション)』に由来するのかについて考えてみよう」

古賀「バリエーション問題ね。『厳密な繰り返しトレーニング』がいいのか? それともちょっと違う動作を反復するような『繰り返しのない繰り返し』がいいのか?」

植田「答えから先に言えば、繰り返しのない繰り返し状態が理想。だけど、現状では単調な反復のボールマスタリー、ドリブルドリル、パスドリル、シュートドリル、GKトレーニングがまだまだ主流だよね。だから、そうした単調な反復にバリエーションを加えるためにはどのような制約が考えられるかを最初に紹介したい。まずは日本でもよく行われているボールマスタリーを題材に、そこにバリエーションを加えるためのボールの制約操作から」

ボールマスタリー+ボールの制約操作

植田「もう少し違った方法として、第1回で紹介した視覚の制約をボールマスタリーに加える方法としては次のようなものが一例」

ボールマスタリー+視覚の制約

古賀「これは第1回で触れたような視覚に対する制約の一種。一生懸命『ルックアップしろ』と言語的なコーチングをするのではなく、そもそも足下が見えないという制約を与えることで、より強力にルックアップという技術を学習させるという練習意図だね」

植田「知覚のある情報を遮って、今まで着目したことのない別の情報に同調させるのが知覚の制約の基本コンセプトだね。この場合は、目からの情報ではなく、運動した時の感覚(身体の動きや位置)に着目して、それにボールマスタリーという運動を関連づけているということ。

 次の動画は、同じくボールマスタリーの実行において身体制約(腕組みなど運動しにくい姿勢や動作で乱れを生む)をつけるという方法。自分自身で乱れを生むような制約をつくりながらプレーすることで同様の効果が得られるとされているよ」

ボールマスタリー+身体制約

古賀「動画の冒頭のようなL字ターン一つとっても、身体制約によって動作やボールの軌道が毎回ずれてくれる。だから、実践して感じることは従来のやり方より身体の細やかなバリエーションが多いイメージだね」

植田「このやり方はディファレンシャル・ラーニングといって厳密にはエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ(EDA)ではないけど、ともに共通しているプリンシプルがあって、それはこうしたノイズを主軸に運動学習を進めるべきだということ。こうした身体制約は高価な用具も必要ないし、ほとんどすべてのトレーニングに応用できると思うよ」

古賀「こうして見てみると、従来のボールマスタリー動作は残しつつ、そこに動作や知覚のバリエーションが増えるような仕掛け(制約)が入っている感じだね」

植田「従来型のトレーニングで頻繁に使われるものは、それなりにいいから使われている面もあると思う。効果がある程度あったり、選手が理解しやすかったり、コーチが運用しやすかったり。だからこうしたものを活かしつつ、ボールの制約操作、視覚の制約、身体制約などの制約で、これまで経験したことのない知覚や運動を経験させている。これが杓子定規なボールマスタリーにバリアビリティを加えている一例だね」

同じ演技構成のハーフパイプでも「反復では足りない」

古賀「なるほど。ただ、こうした制約でなぜバリエーションが増えるのか、そもそもバリエーションってなぜ大切なのかの理解に困る指導者が多いと思う」

植田「そうだね。だから今回は動作バリエーションの重要性から解説して、また最後になぜこのようなボールマスタリーがベターなのかを解説したい。まず初めにハーフパイプの平野歩選手が北京オリンピック決勝でみせた2つの滑りをみてみよう」……

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Profile

植田 文也/古賀 康彦

【植田文也】1985年生まれ。札幌市出身。サッカーコーチ/ガレオ玉島アドバイザー/パーソナルトレーナー。証券会社勤務時代にインストラクターにツメられ過ぎてコーチングに興味を持つ。ポルトガル留学中にエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、ディファレンシャル・ラーニングなどのスキル習得理論に出会い、帰国後は日本に広めるための活動を展開中。footballistaにて『トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編』を連載中。著書に『エコロジカル・アプローチ』(ソル・メディア)がある。スポーツ科学博士(早稲田大学)。【古賀康彦】1986年、兵庫県西宮市生まれ。先天性心疾患のためプレーヤーができず、16歳で指導者の道へ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科でコーチングの研究を行う。都立高校での指導やバルセロナ、シドニーへの指導者留学を経て、FC今治に入団。その後、東京ヴェルディ、ヴィッセル神戸、鹿児島ユナイテッドなど複数のJリーグクラブでアカデミーコーチやIDP担当を務め、現在は倉敷市玉島にあるFCガレオ玉島で「エコロジカル・アプローチ」を主軸に指導している。@koga_yasuhiko(古賀康彦)、@Galeo_Tamashima(FCガレオ玉島)。

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