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シティ完封は偶然ではなく必然。アーセナルの「ハイプレス↔ローブロック」を仕上げた冨安の役割と可能性

2024.04.03

せこの「アーセナル・レビュー」第11回

ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち”グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。

今回は0-0の痛み分けに終わったプレミアリーグ第30節、マンチェスター・シティとの上位対決をレビュー。昨季王者相手に「何も起こさせなかった」守備戦術と、そこから浮かび上がった終盤戦のキーマンを分析する。

 一足先にプレミアリーグ第30節を終えたリバプールはブライトンに勝利して勝ち点67の暫定首位に浮上。マンチェスター・シティ(勝ち点63)とアーセナル(勝ち点64)の両者にとって、この直接対決で3ポイントを積み上げなければ置いて行かれてしまうというプレッシャーがかかる一戦となった。

 シティのスタメンは[4-2-3-1]。より純粋なウイングとして振る舞えそうなグリーリッシュ、ドク、ボブは全員ベンチに置き、両翼は右にベルナルド、左にフォーデンがスタメン。中盤は軸となるロドリに加えてセントラルハーフ色の強いコヴァチッチを置き、トップ下にデ・ブライネを配置する構図に。代表戦でケガを負ったウォーカーとベンチにはいたが同じく実質起用不可だったであろうストーンズが不在のDFラインは、右からアカンジ、ディアス、アケ、グバルディオルとCBタイプを4枚並べた。

 今季のシティのボール保持における特徴はロドリのそばに誰かしら相棒を置くこと。最近のシティではCBからストーンズかアカンジが列を上げて務めることが多いが前者はピッチにおらず、後者は右SB起用。というわけで初期配置に素直にコヴァチッチがその位置に入るか、GKオルテガに押し上げられる形でアケが列を上げることが多かった。サイドハーフ役のベルナルドとフォーデンはインサイド寄りに立つのが基本。大外はSBが活用することが多く、グバルディオルとアカンジをベースに組み立てられる。

ハイプレス回避を目指したフォーデンの左起用

 そんなシティの対戦相手にとってポイントになるのは中央の各セクションをバランスよく守ることである。例えばロドリを潰したい気持ちが前に出過ぎてしまうと、後方のデ・ブライネが縦パスを受けることができるスペースを作り出してしまうことになる。デ・ブライネにDFラインから飛び出すことで前にズレると、今度はハーランド相手に1対1で対応しなければいけなくなってしまう。要はロドリのブロック、デ・ブライネのブロック、ハーランドのブロックの3つをバランスよく守らないといけない。

 中央に階層的に縦パスのルートの奥行きを作る形はブライトンの方式に少し似ている。基本的にシティはそのマークが甘いルートを使えばいい。だけども、彼らにも事情はある。彼らにとって重要度が一段高いのは、中盤中央で左右にボールを循環させるロドリを解放すること。この日のメンバーもそうなのだが、今季のシティは2列目のワイドに外に張って剥がせる選手を置かないケースが多い。

 そして大外に立つのはアカンジ、グバルディオルといった本職CB。正対した時にできることの少なさという点ではウォーカーも同列においていいだろうが、そうした選手を大外に使うのであれば、例えばインサイドに絞ったSHについてきた相手のSBが空けたスペースを突くようにボールを受ける前に相手を構造的に出し抜く必要がある。

 というわけで大外を使うならば、動き出しに対して正しい精度と速度でボールを届ける司令塔の存在がセットになる。スキル的には十分1人でも立ち回れるロドリに必ず相棒を置く理由の1つはここにあるのではないだろうか。

 対するアーセナルのプレスの形はいつもと同じ。[4-4-2]で基本陣形を組み、ハヴァーツとウーデゴールが組む2トップの誘導でライスがボールを刈り取る。中盤から飛び出す役はピッチの左右に関わらず、この左ボランチが担当するというのは押さえておきたいポイントだ。……

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Profile

せこ

野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。

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