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可変システムのさらに「先」。スキャニング促進の制約で臨機応変なチーム戦術を学べる【視覚の制約③】

2024.04.04

トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編
#3:視覚の制約③

23年3月の『エコロジカル・アプローチ』出版から約1年、著者の植田文也氏は同年に盟友である古賀康彦氏の下で再スタートを切った岡山県の街クラブ、FCガレオ玉島でエコロジカル・アプローチの実践を続けている。理論から実践へ――。日本サッカー界にこの考え方をさらに広めていくために、同クラブの制約デザイナーコーチである植田氏と、トレーニングメニューを考案しグラウンド上でそれを実践する古賀氏とのリアルタイムでの試行錯誤を隔週連載として共有したい。

第3回は、「視覚の制約」の応用について。「KFDゴールキーパーアカデミー」の福留健吾氏をゲストに招いて、ストロボゴーグルを使ったGKトレーニングの実例を紹介。加えて、視覚の遮断によって代替的な情報源を意識させることや、スキャニングを促進させる制約で臨機応変なチーム戦術を学べるトレーニングについて議論していこう。

ストロボゴーグルを使ったGKトレーニングの実例

植田「ここまでは視覚の制約に対するディファレンシャル・ラーニング(以下DL)的なアプローチとしてピンホールメガネ(空間的オクルージョン)、ストロボゴーグル(時間的オクルージョン)を簡単に紹介させてもらったけど、ここでGKトレーニングにストロボゴーグルを用いている福留さんに登場してもらいます」

福留「KFDゴールキーパーアカデミーでコーチをしています福留です。よろしくお願いします」

植田「福留さんとは鳥取で行われたエコロジカル・アプローチをテーマにしたリフレッシュ講習会で初めてお会いさせていただきました。その後何度か連絡を取らせていただきましたが、視界に対する制約を積極的に取り入れた素晴らしいトレーニング映像を見せていただく機会がありました。なので、ぜひこの場で紹介させていただきたいと考えてご登場してもらいました。ちなみに、福留さんが使用されているゴーグルはどういったものなんですか?」

福留「レンズの液晶が開閉することで見えるタイミングと見えないタイミングが交互に繰り返されるようなストロボゴーグル(ビジョナップⓇ Visionup Athlete VA11-AF-CB)です」

植田「オクルージョントレーニング自体、比較的珍しいトレーニングだと思うんですが、どういった効果を期待して取り入れられているんですか?」

福留「狙いとしては様々な制約の中でハンドリング、動作全体の安定性と変動性を身につけることです。そして、その制約として『視界の制約』を設けることがすごく効果的だと感じています。ストロボゴーグルで視界を乱すことで、『型』にはめるのではなく、色々な動作を身につけること、試合で生じるあらゆるタイミング、角度、ブラインドなどの状況でもボールをセーブできることを狙っています。

表1 ストロボゴーグル+ハンド・アイ、フット・アイコーディネーション

 例えば、このトレーニングではシンプルなハンド・アイ、フット・アイというコーディネーショントレーニングにストロボゴーグルを加えることで難易度を上げています。ポイントは手、足をボールの正面に持ってくることですが、そのように意識させすぎることはしません。その代わりに、ストロボゴーグルを着用して小さいボール(テニスボール)をセーブするといった制約を与えることで、自然とボールの正面により敏感になり、しかもいろんな体勢・動作を習得することができると思います」

植田「素晴らしいトレーニングだと思います。GKはタスク分解的なトレーニングにならざる得ない側面があると思いますが、こういう工夫があれば、不安定で不確実な試合中のシーンにも対応できる(スキルを転移させる)可能性が増えると思います。選手たちの変化はどうですか?」

福留「このトレーニングによって、選手たちのハンドリングや近距離シュートに対するセービングが向上していると感じています。というのは、動作の安定性だけではなく、イレギュラーに対する変動性も向上していて、ゲームの中の1v1や近距離の状況でセーブできるシーンが増えているからです。

 同じようなハンドアイコーディネーションのトレーニングに色々な制約の変化をつけることもできます。例えば次のようにサーブされるボールの距離や角度を変化させることでトレーニングにバリエーションを出すようなイメージです。TR1(動画の前半部分)では膝立ちにすることでやや難易度を落としていますが、その分、正面からのボールだけをテニスボールに変えることで難易度を調節しています。TR2(動画の後半部分)ではサッカーボールだけを使う代わりに、立位で行わせること、サーブされるボールスピードに変化をつけることで知覚や動作にバリエーションを与えています。さらに、動画ではわかりにくいかもしれませんが、反転動作を加えることでセットポジションに乱れを加えて、悪い姿勢から目的を果たすような狙いもあります」

表2 ストロボゴーグル+ボールハンドリング

……

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Profile

植田 文也/古賀 康彦

【植田文也】1985年生まれ。札幌市出身。サッカーコーチ/ガレオ玉島アドバイザー/パーソナルトレーナー。証券会社勤務時代にインストラクターにツメられ過ぎてコーチングに興味を持つ。ポルトガル留学中にエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、ディファレンシャル・ラーニングなどのスキル習得理論に出会い、帰国後は日本に広めるための活動を展開中。footballistaにて『トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編』を連載中。著書に『エコロジカル・アプローチ』(ソル・メディア)がある。スポーツ科学博士(早稲田大学)。【古賀康彦】1986年、兵庫県西宮市生まれ。先天性心疾患のためプレーヤーができず、16歳で指導者の道へ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科でコーチングの研究を行う。都立高校での指導やバルセロナ、シドニーへの指導者留学を経て、FC今治に入団。その後、東京ヴェルディ、ヴィッセル神戸、鹿児島ユナイテッドなど複数のJリーグクラブでアカデミーコーチやIDP担当を務め、現在は倉敷市玉島にあるFCガレオ玉島で「エコロジカル・アプローチ」を主軸に指導している。@koga_yasuhiko(古賀康彦)、@Galeo_Tamashima(FCガレオ玉島)。

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