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「いつ見えなくするのか?」――エコロジカル・アプローチ視点の時間的オクルージョン【視覚の制約②】

2024.03.21

トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編#2:視覚の制約②

23年3月の『エコロジカル・アプローチ』出版から約1年、著者の植田文也氏は同年に盟友である古賀康彦氏の下で再スタートを切った岡山県の街クラブ、FCガレオ玉島でエコロジカル・アプローチの実践を続けている。理論から実践へ――。日本サッカー界にこの考え方をさらに広めていくために、同クラブの制約デザイナーコーチである植田氏と、トレーニングメニューを考案しグラウンド上でそれを実践する古賀氏とのリアルタイムでの試行錯誤を隔週連載として共有したい。

第2回は、引き続き「視覚の制約」について。今回は「いつ見えなくするか?」という時間に着目したトレーニング構築について考えてみたい。

植田「ここまでは視界の一部(チンアップゴーグルの場合は下部)が遮蔽されている空間的なオクルージョン(遮蔽)の話だったけど、時間的なオクルージョンでもいい結果が出ているよ。最近ではレンズの開閉が操作できるゴーグルがあるんだよね」

古賀「つまり、あるタイミングでは外界が見えて、あるタイミングは見えなくなるということ?」

植田「そうそう。運動中のある時間帯しか見えないことでそこに向けて注意を向けさせる感じかな。こういう時間的なオクルージョンも論文レベルで検証されているね」

古賀「具体的にどんな風に使うの?」

植田「野球のバッティングを例に取ると、バッティングではピッチャーの投球動作や投じられたボールの飛翔情報を利用して、素早くバッティング動作を行う必要があるよね。それで、この投球イベントの初期(ピッチャーの腕の振り、ボール軌道の初期部分など)を遮蔽するアーリーオクルージョン(図1の上)という方法が有名だよ」

図1 アーリーオクルージョンとレイトオクルージョン(時間的オクルージョン)

古賀「そうすることで投球イベント後期のボールの軌道により注意を向けさせるとか、普段より短時間で素早くバッティング動作を実行させるとか?」

植田「その通り。反対に投球イベントの後期を遮蔽するものをレイトオクルージョン(図1の下)と言って、これで投球イベント初期の情報からより有益な情報を拾い上げることを学習させることができるよ。アーリー、レイト、いずれのオクルージョンにせよ、ピッチングトンネル(※)などのだましテクニックを見破って機能的なスイングができるようになることが目的かな。まとめると、あるタイミングを遮蔽することで他のタイミングを強調して学習させるようなのが時間的オクルージョンの目的だね」

※ピッチングトンネル:ピッチングにおける複数の球種(例えば、ストレートとスライダー)の軌道が、途中まで同じ軌道(トンネル)を通過するように投げること。最終的には2つの球が大きく異なるスポットに到達することで、打者を欺くことができる

古賀「バッティングみたいな飛んできたボールに対するオクルージョンはサッカーでも色々と使えそうだね。こういうリアクティブ(反応的)なスキルではなくて、逆にボールを飛ばす側のスキルにも何かできそうだし」

植田「ボールを飛ばす側の例ならバスケのジャンプシュートの研究¹が面白いし、メニュー開発のヒントになると思うよ」

表1. アーリーオクルージョンの研究(バスケットボールのジャンプシュート)

1. Oudejans, Raôul RD, et al. “The education of attention in aiming at a far target: Training visual control in basketball jump shooting.” International Journal of Sport and Exercise Psychology 3.2 (2005): 197-221.

古賀「なんでアーリーオクルージョンによってバスケのジャンプシュートが上手くなるの?」

植田「この研究者たちの以前の研究では、『①シュート動作のなるべく後半部分でリムを知覚すること』『②350~400ミリ秒程度知覚すること』の2つが熟練者特有の知覚であることがわかったんだ。要はそれさえあれば、フルビジョンの条件下と同じようにシュートが打てるようだよ」

古賀「なるほど。だからシュート直前しか見えないようゴーグルをリモコンでコントロールすると。ちなみに、こういう時間的なオクルージョンはサッカーでのトレーニングに当てはめるとどんなものになるの?」

植田「アーリーオクルージョンならプレーの最後で意思決定する技術に活用できるよ。例えばPKとか。蹴る直前しか見えない。だから遠藤保仁さんのコロコロPKみたいな最後までキーパーを見続けるタイプのPKが開発できると思う」

古賀「あの蹴り方は助走の序盤より蹴る直前の情報に同調していることが重要だからね。じゃあ、同じ理屈でセットプレーのキックにも活用できるね。助走に入った瞬間からボールしか見ない選手が多いけど、本来なら蹴る直前まで合わせる選手の状況を見ていたいよね」……

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Profile

植田 文也/古賀 康彦

【植田文也】1985年生まれ。札幌市出身。サッカーコーチ/ガレオ玉島アドバイザー/パーソナルトレーナー。証券会社勤務時代にインストラクターにツメられ過ぎてコーチングに興味を持つ。ポルトガル留学中にエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、ディファレンシャル・ラーニングなどのスキル習得理論に出会い、帰国後は日本に広めるための活動を展開中。footballistaにて『トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編』を連載中。著書に『エコロジカル・アプローチ』(ソル・メディア)がある。スポーツ科学博士(早稲田大学)。【古賀康彦】1986年、兵庫県西宮市生まれ。先天性心疾患のためプレーヤーができず、16歳で指導者の道へ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科でコーチングの研究を行う。都立高校での指導やバルセロナ、シドニーへの指導者留学を経て、FC今治に入団。その後、東京ヴェルディ、ヴィッセル神戸、鹿児島ユナイテッドなど複数のJリーグクラブでアカデミーコーチやIDP担当を務め、現在は倉敷市玉島にあるFCガレオ玉島で「エコロジカル・アプローチ」を主軸に指導している。@koga_yasuhiko(古賀康彦)、@Galeo_Tamashima(FCガレオ玉島)。

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