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大衆が求めるのは結果?それとも楽しさ?町田の「1-0」サッカーが突き付ける哲学論争

2024.03.06

新・戦術リストランテ VOL.5

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第5回は、西部氏が「いいチームで強い」と評価する町田ゼルビアの「1-0」サッカーを成り立たせるディテールへのこだわり、そして観る側がそもそもサッカーに何を求めているのかを考えてみた。

ロングスローのスロワーがクロッサー

 沖縄キャンプのトレーニングマッチ、町田は川崎に勝利しました。J2優勝の時とプレースタイルは同じながら、即戦力の新加入選手が多くグレードアップ。ただ、プレーぶりよりも印象的だったのがベンチの様子でした。

 めちゃキビキビしている! 全員で戦う姿勢が溢れていました。

 「これは社風なのかな?」

 そう言うと、そばにいた同業者はこう答えました。

 「校風でしょ」

 黒田剛監督が率いていた青森山田高校の雰囲気です。プレースタイルも青森山田的で、ロングスローはその象徴と言えるかもしれません。

 J1第2節、名古屋戦で記念すべきJ1初勝利を挙げましたが、藤尾翔太の決勝ゴールはロングスローがきっかけでした。ロングスローを投げ入れ、クリアされたボールをスロワーが拾っています。そしてすかさず中央へクロスを蹴り込むと、オ・セフンの背後にいた藤尾がゲット。ロングスローから直接の得点ではありませんが、狙い通りではあると思います。

 まず、ロングスローをニアポストの前へ投げています。キックに比べるとロングスローはボールのスピードがありません。従ってヘディングでのクリアも距離が出にくい。反対サイドへ飛ばすことは無理、中央もペナルティエリアのすぐ外まででしょう。町田はペナルティーアーク付近に必ず1人を待機させていて、中央へクリアされた場合の飛距離はそのへんと考えているようです。

 ロングスローの落下点には194cmのオ・セフンもいますから、競りながら大きく弾き返すのはなかなか難しい。CKに逃げるか、サイドへ弾くかになります。なので、ロングスローを投げた選手へ跳ね返ってくる確率がけっこう高い。投げた右SB鈴木準弥はセットプレーのキッカーでもあります。フリーの鈴木は狙いすましてクロスボールを蹴り込み、動き直して中央へ移動していたオ・セフンと藤尾の2トップのところへ届けた。だから偶発的ではあるけれども計算された偶然です。……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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