REGULAR

オランダ方式への挑戦。グスタフソンは「浦和レッズのブスケッツ」になれるか?

2024.02.28

新・戦術リストランテ VOL.4

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第4回は、先週末に開幕したJリーグの中からペア・マティアス・ヘグモ新監督が就任した浦和レッズに注目。広島戦から見えた「オランダサッカーの香り」について考えてみた。

オフト再び?「オランダ」風味が強くなった浦和

 Jリーグが開幕しました。「スカンジナビア化」で注目の浦和レッズはアウェイでサンフレッチェ広島と対戦。新スタジアムの広島に0-2と完敗を喫しています。

 キャンプで見た時の印象は「オランダなのかな?」でした。

 システムは[4-3-3]で、しかもほぼ可変もしていないと取材した記者たちの間でも評判になっていました。キャンプの最初の頃は選手たちにも少し戸惑いがあったようです。実はこの感じ、Jリーグでも過去に何回かありました。

 たぶん最初はハンス・オフト監督だと思います。JFL時代にヤマハ、マツダを率い、その後は日本代表監督、Jではジュビロ磐田、浦和レッズなどを指揮したお馴染みの人物です。オランダ人あるいはオランダ方式の指導者はその後もたびたび来日しました。特徴は理詰めだということ。外形的にはポジショニングがはっきりしていて、固定的な[4-3-3]が典型です。オフト監督はよく「自由ではない」と選手たちに釘を刺していました。その手腕を“オフト・マジック”と称賛されても「マジックではなくロジック」と反論していましたね。

 ただ、オランダ方式が日本で成功した例があまり思い浮かびません。

 オフトは成功例でしたが、そもそもの相性があまり良くない気がします。

 オランダ式導入で大きな障壁となっていたのは距離感です。日本人は距離感を縮めて連係したがるのですが、オランダはそれに比べると距離がだいぶ遠い。日本選手の感覚だと孤立に近いです。根底にあったのはキックの違い。離れた味方に正確で速いパスをビシッとつなぐ能力の差ですね。

そして、それに起因するサッカー観の違い。オフト監督が「自由ではない」と言っていたのは、自由にさせると距離を縮めてゴチャゴチャしてカオスになるからでした。カオスの良さもあるのですが、ロジックとは対極ですからね。

 もちろんオランダ方式が悪いわけではない。世界各国に大きな影響を与えていて、特にスペインはバルセロナ経由で浸透し、今ではむしろスペインのサッカーになっています。回り回って日本への直接・間接の影響もあるのですが、純粋なオランダ式はあまり根づかなかった印象ではあります。

「6番」=アンカーの独特な役割

 ペア・マティアス・ヘグモ監督はノルウェー人です。マリウス・ホイブラーテン、オラ・ソルバッケンもノルウェー。ブライアン・リンセンはオランダですが、監督の愛弟子であるサミュエル・グスタフソンはスウェーデン、アレクサンダー・ショルツがデンマーク人と、オランダというよりスカンジナビア化です。

 北欧は英国スタイルの影響が強く、定規で引いたような律儀なライン設定は本家以上、その様式美からも合理性がうかがえます。その点でオランダとは戦術性向的に地続きと言えるかもしれません。……

残り:1,498文字/全文:2,853文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

RANKING