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「強いからかっこいいのか、かっこいいから強いのか」――“5年前の問い”を探す旅

2024.02.21

強いからかっこいいのか、かっこいいから強いのか
――サッカークラブ・ブランディング探求
#01

鎌倉インターナショナルFCの監督とCBO(ブランディング責任者)を兼任し、2024シーズンからはテクニカル・ダイレクターおよびCBOを務める河内一馬は、2018年7月に“あるnote記事”がバズり、一躍サッカー界における「ブランディングの論客」という地位を確立した。競技側の人間でありながらブランディングを語る意味は、サッカー本大賞を受賞したデビュー作『競争闘争理論』の問題意識にも通じている。あれから5年が経ち、サッカークラブの現場でまさにそれを仕事にしている今、あらためて考えてみたい。強いからかっこいいのか、かっこいいから強いのか――その答えを探す旅。

記念すべき第1回は、連載のプロローグとして5年前の問いを振り返ることから始めたい。

 『強いからかっこいいのか、かっこいいから強いのか——。”弱い”と”ダサい”の因果関係』というタイトルでnoteを書いてから、早いもので5年半の月日が経った。記事の日付を見ると、2018年7月18日とある。異国アルゼンチンで暮らし始めてから、まだ数カ月。今振り返ってみると、その後の自分の人生をある種方向付けた文章と言えるのかもしれない。5年半後の今、あらためてそれについて書くことに照れ臭さを感じつつ、本連載幕開けの合図とすることにしたい。

原点となった「5年前の問い」の背景

 これからの連載について話をする前に、連載のタイトルにもなっている「強いからかっこいいのか、かっこいいから強いのか」という、5年半が経った今でも追いかけ続けている「問い」について、前述したnote記事を振り返りながら書いていきたいと思う。

 私は帰国後、鎌倉インターナショナルFCという新しいサッカークラブで監督とCBO(ブランディング責任者)を兼任するアクロバティックなキャリアを経て、現在は同クラブでテクニカル・ダイレクターおよびCBOを務めながら、スポーツのブランディング/コンサルティング/デザインファームを設立したり、文章を書いたり、相変わらずマルチタスクしかできない病を発症し続けている。

 気づけば年齢も31を数え、(サッカー)人生が次の段階に入ったのだということをひしひしと感じる毎日である。このnote記事の大枠のテーマは「サッカーにおけるブランディング」であったが、そこでの一連の考察を経て、現在私は「競技(勝負)としてのサッカー」と同じくらいの熱量をもってこの課題に取り組んでいる。というより、この2つは私にとって切っても切れない関係にあるものだが、それについてはこの連載を通して紐解いていければと考えている。

 当時私は「サッカー監督」という「立場(職業)」に強いこだわりを持っていて、そのために20代をピッチに捧げ、アルゼンチンの監督養成学校に3年間在学し、監督ライセンスも最上位を取得したわけだが、では、なぜそんな私が突然「ブランディング」という素人領域について書こうと思ったのだろうか。

 これについて振り返ることは、この連載について、あるいは「強いからかっこいいのか、かっこいいから強いのか」という問いを考えるにあたって重要な意味を持つだろう。

 先の記事は、現在のアクセス数を見てみると15万とあるから、少なくとも「多くの人の目に触れた」とは言えるはずである。サッカー界やスポーツ界のみならず、ブランディングやクリエイティブ、広告業界の方々からも多くの反響があった。この記事を私が書くまで「サッカー(スポーツ)」の横に、「クール(ネス)」や「ブランディング」「クリエイティブ」「ブランド」「デザイン」などの視点が添えられることはほとんどなかったと認識をしているが、今ではそれに関する話題は後を絶たない。

 この5年の間にJクラブがこぞってエンブレムの変更を行なったことや、海外のカルチャーが遅れて日本にも入ってくるようになったことがその一つの要因であると言えるが、コンサドーレ札幌のクリエイティブ・ディレクターをファッション・デザイナーの相澤陽介氏を務めるなど、これまでにはなかったような動きも見受けられようになった。大袈裟に言うと、このテーマを日本において「机に出した」のは私だと思っている。「まだ誰も言っていない」から私はこのテーマについて深く書けば話題を作れると思っていたし、私のようなサッカーの「競技側」の人間が名前を外に出すには、“サッカーのこと”を書いてはいけないと思っていた。

今季から新たなエンブレムを使用するFC東京

サッカー監督の仕事=ブランディング

……

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Profile

河内 一馬

1992年生まれ、東京都出身。18歳で選手としてのキャリアを終えたのち指導者の道へ。国内でのコーチ経験を経て、23歳の時にアジアとヨーロッパ約15カ国を回りサッカーを視察。その後25歳でアルゼンチンに渡り、現地の監督養成学校に3年間在学、CONMEBOL PRO(南米サッカー連盟最高位)ライセンスを取得。帰国後は鎌倉インターナショナルFCの監督に就任し、同クラブではブランディング責任者も務めている。その他、執筆やNPO法人 love.fútbol Japanで理事を務めるなど、サッカーを軸に多岐にわたる活動を行っている。著書に『競争闘争理論 サッカーは「競う」べきか「闘う」べきか』。鍼灸師国家資格保持。

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