真夏に加わった太陽王の救世主。犬飼智也が柏レイソルにもたらした圧倒的な好影響
太陽黄焔章 第6回
第33節を終えて、J1残留に大きく近づいた柏レイソル。監督交代も経た前半戦はとにかく守備面での課題が目立ったが、そんな状況の劇的な改善を担ったのが、7月に浦和レッズから期限付き移籍で加わった犬飼智也だ。経験豊富な30歳はすぐさまリーダーシップを発揮し、最終ラインに君臨。後半戦におけるレイソルの守備の安定は、数字でも明確に証明されている。今回は“ワンちゃん”や“ワンくん”と呼ばれる救世主がチームにもたらした好影響を、おなじみの鈴木潤が過不足なく綴る。
「現在と夏前の柏では決定的な違いがある。それが犬飼智也の存在だ」
J1第33節、柏レイソルの今季のホーム最終戦の相手はサガン鳥栖。柏はこの試合に勝てば、横浜FCと湘南ベルマーレの直接対決の結果次第で残留が決まる。その重要な一戦において、柏は前半4分に鳥栖に先制点を奪われ、出鼻を挫かれる形になった。
柏が立ち上がりの時間帯に失点を許したのは、第21節のガンバ大阪戦以来12試合ぶり。そして柏はG大阪に1−3で敗れた。その他にも、同じく立ち上がりに失点した第16節の北海道コンサドーレ札幌戦と第17節の横浜F・マリノス戦でも柏は敗れているため、鳥栖戦での開始早々の失点は、見ている側としては一抹の不安が募った。
だが、現在と夏前の柏では決定的な違いがある。それが犬飼智也の存在だ。
「立ち上がりの失点はサッカーではよくあること。バタバタする方が良くないから、落ち着かせようと思っていた」
失点の直後、犬飼は「まだ時間はあるから、落ち着いていこう」と動揺する周囲の選手に声をかけ、チームを落ち着かせた。自らのファンブルで失点に絡んだGKの松本健太は「メンタル的にガックリとくるものがあったけど、うまく切り替えることができた」と振り返った。
立ち上がりの失点にも崩れず、前半のうちにペースを引き戻した柏は、マテウス・サヴィオと細谷真大の得点で逆転に成功した。後半、鳥栖にクロスボールを仕留められ、試合は2−2の引き分けに終わった。勝点1だけの上積みに留まったものの、極度の不振に喘いでいた前半戦の柏であったなら、立ち上がりの失点にチーム全体が浮き足立ち、冷静さを欠いて勝点1の獲得すら難しい試合になっていたかもしれない。
累積による出場停止で、鳥栖戦をスタンドから見ていたキャプテンの古賀太陽は、失点直後の犬飼の声かけやコーチングについて、次のように話している。
「ここ数試合は入りが良くて、あの時間帯に失点したのが久々だったので、見ていて心配しましたけど、やることを変えずに落ち着いてゲームを進めていたと思います。失点直後の、ワンくん(犬飼)のような経験のある選手の言葉は、みんなもスッと入ってくると思いますし、プレーもそうですけど、コミュニケーションでもチームを落ち着かせることができるのは、すごい能力だと思います」
新たなディフェンスリーダーがもたらした守備の安定
浦和レッズでプレーしていた犬飼が、期限付き移籍で柏に加入したのは、Jリーグ中断期間中の7月24日。その2日後の26日、柏での練習初日を迎えた犬飼は、新天地での意気込みを口にした。
「自分のやれることをやりきるつもりです。試合を勝ちにいきますし、早めに残留争いから抜けて、強いチームにしていくことですね。勝つ、それだけですね」……
Profile
鈴木 潤
2002年のフリーライター転身後、03年から柏レイソルと国内育成年代の取材を開始。サッカー専門誌を中心に寄稿する傍ら、現在は柏レイソルのオフィシャル刊行物の執筆も手がける。14年には自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信中。酒井宏樹選手の著書『リセットする力』(KADOKAWA)編集協力。