REGULAR

父はトラックドライバー、息子はマネージャー。ベガルタ仙台を支える“親子鷲”の物語

2023.07.19

ベガルタ・ピッチサイドリポート第3回

親子鷹、ならぬ“親子鷲”でベガルタ仙台を支えている父と子がいる。父はチームトラックのドライバーを務める三浦幸喜さん。子は今シーズンからチームの副務に就任した三浦悠太郎さん。2人ともクラブにとって欠かせない、重要な役割を担うスタッフだ。では、三浦親子はどのような経緯でベガルタへと深く関わっていくようになったのか。彼らの声を村林いづみに届けてもらおう。

裏方スタッフの写真撮影は至難の業?黒子に徹する父・幸喜さん

 30周年を迎えたJリーグ。解説者の水沼貴史さんと水沼宏太選手のように親子二代のJリーガーも存在する。全国各地のスタジアムでは親子二代、いや三代で応援に駆け付けるサポーターもいるだろう。ベガルタ仙台には、今シーズンからピッチサイドで共にクラブを支える親子がいる。父はチームトラックのドライバー、三浦幸喜さん。日本全国どこにでもベガルタ仙台の大切な荷物を確実に届ける。息子は副務の三浦悠太郎さん。今季チームに加入した26歳の新人マネージャーだ。

 「いやー、撮れてはいると思うんですけど……」。ベガルタ仙台のオフィシャルカメラマンである松橋隆樹さんが珍しく口ごもった。試合前の父・三浦幸喜さんの仕事の様子を狙ってもらった時のこと。「三浦さんにカメラを向けると、選手を撮っていると思って、絶妙にハケるんです。自分は写っちゃいけないって、徹底しているんですね」。

 サッカー選手の一瞬の動きを逃さない名カメラマンをして、その表情を正面から撮らせないとは、相当の察知能力だ。そんなトラックドライバーの三浦さんにベガルタ仙台と歩んできた道のりを伺った。

――三浦さんはいつからベガルタ仙台の仕事を始めたのですか?

 「僕がベガルタのドライバーを始めたのは2003年だと思います。以前勤めていた会社がベガルタの荷物を運んでいました。僕が別の会社を立ち上げることになり、そのまま仕事を続けさせてもらい、今年で20年になります」

ピッチサイドからチームを見守る父・三浦幸喜さん(Photo: Vegalta Sendai)

――ドライバーとして担っている仕事内容はどういったことですか?

 「ベガルタのホーム、アウェーすべてのゲームで荷物を運搬することと、ロッカールームを調える手伝いですね。準備、片付けもしています。アウェーでは、試合前日に早めにホテルに入って、選手個人の荷物をそれぞれの部屋に入れておくということもしています」

――アウェーに向かう時はどのようなスケジュールで動いているのですか?

 「距離にもよりますが、試合が日曜だとして、関東地方なら前日の土曜日にはホテルに入らないといけない。金曜日に荷物を積んで土曜日の朝に出発し、午後にはホテルに着くというペースです。中部・関西ではもう半日~1日多く、九州方面は丸2日かけて向かう感じですね」

――全てお一人で運んでいるんですか?

 「はい、そうですね」

――仙台から最も遠い届け先はどこですか?

 「キャンプ地の沖縄ですね。陸路で鹿児島まで行って、そこからはフェリーです。25時間かかるんですよ。それが一番遠いですね」

――20年間続けてきた中で大変だったことやハプニングは?

 「大きいところだと、2012年セレッソ大阪戦の当時のキンチョウスタジアム(現・ヨドコウ桜スタジアム)で試合後の片づけをしていた時にけがをしました。試合中継機材の配線の上に、コンパネと言って一畳分くらいのべニア板を引いて、運搬時に台車が引っかからないようにしていたのですが、その板が突然強風で煽られて飛んできて、僕の後頭部に直撃しました。救急車で運ばれて、頭部を7針縫いました。荷物はクラブスタッフさんが全て積んでくれていて、マネージャーさんが助手席に座ってくれて仙台へ帰ることができました。ノエビアスタジアムでじん帯損傷のけがを負ったこともありました。ギプスをして仕事復帰はしましたが、大きなハプニングはそれくらい。他は小さいことです」

――道路の状況や気象条件などで荷物が届けられないというようなハプニングはないのですね。

 「それは、すごく気をつけています。交通情報や先の道に通行止めはないかとか。高速道路の掲示板を見てチェックしています。去年、アウェーの(第27節)いわてグルージャ盛岡との試合。仙台―盛岡間は当日出発すれば十分間に合う距離ですが、その日はものすごい大雨でした。高速道路が通行止めになって、一般道で向かったのでギリギリ試合3時間前に到着するということがありました。大渋滞でしたね。一度ホテルに寄って、氷を積んでから会場に向かいたかったんですが、そんな時間はなく直行でした。準備はスタッフの皆さんも協力してくれました」

選手たちにドライバーだとは思われていない!?幸喜さんが担う役割

――三浦さんは試合前のウォーミングアップもピッチサイドで見守っていますよね。

 「これは他のドライバーさんはやっていないことだと思います。変な話かもしれないですが、選手たちは僕のことをドライバーだと思っていないんじゃないかと。ピッチサイドにいないと、コーチやスタッフの皆さんが『今、何が欲しいか』すぐにはわからない。練習しながら急に必要になる用具もあるので。そういうこともあって、ピッチ脇で見るようにはしています。ほぼ片付けが専門ですが」

Photo: Vegalta Sendai

――試合の選手入場直前に、選手にドリンクを手渡しています。選手によっては三浦さんとタッチし、何か言葉を交わす時もありますね。

 「選手が集中する時間だし、一番テンションが上がる大事な時間なので、僕から話しかけることはないです。水が飲みたいと声をかけられれば、ボトルを手渡しするくらいです。話しかけられれば、『暑いですね』なんて会話をすることもあります」……

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Profile

村林 いづみ

フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。

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