REGULAR

パスの“中間点”を失ったフランス、相手の守備ブロックを間延びさせたアルゼンチンの前進。東大ア式蹴球部テクニカルユニットがデータを基に検証するW杯決勝

2022.12.27

深堀り戦術分析スペシャルレビュー

サッカー史に刻まれる一戦となったカタールW杯決勝。様々な形で分析が行われているが、今回は今大会非常に充実していた試合スタッツを基に、ピッチ上で起こっていた現象をデータ面から検証する。2021-22シーズンにはオーストリア2部インスブルックと提携し試合分析を行うなど、その分析力が高く評価されている東京大学ア式蹴球部テクニカルユニットの現役スタッフの高口英成氏、東太陽氏、坊垣内大紀氏、生田健祐氏に分析を依頼した。

 振り返ると、今回のW杯では今までにない先進的な技術が数多く取り入れられていた。最も試合に影響を与えた例を考えれば、真っ先に挙げられるのは、ボールに加速度センサーを内蔵することによって実現した半自動オフサイドシステムだろう。従来のW杯であれば見逃されていてもおかしくないような際どいプレーが精密にジャッジされることとなった。

 そして、今回のW杯における新たな取り組みは何もレフェリングに関するものだけにとどまらない。FIFAトレーニングセンターが試合後に発表するマッチレポートには、その試合から取得できるありとあらゆるデータが網羅的に記録されている。このマッチレポートの驚くべき点は、その集計に膨大な人員を投入しているところだろう。個人のフィジカルスタッツはおそらく機械にトラッキングをさせたデータを反映しているのだろうが、ボールを受けるための動きやプレスの方向、位置、またLine Breaks(パッキング・レートに似た指標。パスで越えた人数ではなく、パスが相手のラインで区切られたどの部分へ到達したかを集計している)という指標はどれも機械に自動で集計させるには少々複雑なデータであり、途轍もない労力が割かれている事が推察される。……

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Profile

東大ア式蹴球部テクニカルユニット

「社会・サッカー界に責任を負う存在として日本一価値のあるサッカークラブとなる」という存在目的の下、「関東昇格」を目指す東大ア式蹴球部(サッカー部)の頭脳としてサッカーの分析を行いチームをサポートするユニット。2011年に創設され、約20名が分析専門のスタッフとして活動している。近年は先進的なデータ分析やサッカー界への発信に意欲的に取り組んでおり、海外のプロクラブと提携するなど活動の幅を広げている。

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