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あの“ディナー”の真相も。ペップの下で生まれ変わったレジェンド、アグエロ進化の足跡

2021.05.19

重版記念『ペップ・シティ』本文特別公開#4

2020-21シーズン、CLでクラブ史上初となる決勝進出を決め、さらにはプレミアリーグのタイトル奪還も果たしたペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティ。書籍『ペップ・シティ スーパーチームの設計図』 の重版決定記念として、 本書の中から一部エピソードを特別に公開する。2人の敏腕ジャーナリストがグアルディオラへの密着取材で迫った、名将の知られざる一面や仕事術に触れてほしい。

 時は、2017年1月19日。場所は、マンチェスター市内中心部のエクスチェンジ・スクエアにある『サルビズ』。常に賑わうイタリアン・レストランの店内では、ペップ・グアルディオラとセルヒオ・アグエロがテーブルについていた。後者の代理人も同席。翌朝の『ザ・デイリー・メール』紙には、携帯で撮影された写真が掲載された。ピントの甘い1枚の中で、グアルディオラは、身を乗り出すようにしながらも神妙な面持ち。アグエロは部分的にしか確認できないが、椅子にふんぞり返るように座っているようにも見える。マンチェスター・シティの新監督と、チーム最大のスター選手との間には不和が噂されていた。ガブリエル・ジェズスという新ストライカーの加入により、その噂は強まってもいた。一目見る限りは、噂を助長することはあっても、打ち消すことなどあり得ない写真だった。

 アグエロは、グアルディオラがイングランドにやって来た時点で、既にシティ・レジェンドとしての地位を築いていたストライカーだ。当時から、クラブの歴代得点王の座に就くのは時間の問題ともされた。順調に重ねてきた得点の中には、クラブ関係者とファンの記憶に永遠に残り続ける、劇的すぎるほどの逆転ゴールも含まれている。2012年5月、シーズン最終節の後半ロスタイム4分に決めた、44年ぶりのリーグ優勝を意味するゴールだ。彼の名は、ダイハード風なスキンヘッドのサポーターたちの首元にタトゥーとして刻まれ、チームの誰よりも多く、ファンが着るレプリカ・ユニフォームの背中にプリントされている。「クン(アグエロ)よりも市場性の高い選手はいません」と、クラブCEOを務めるフェラン・ソリアーノを補佐する、オマール・ベラダは言う。

今でも語り草となっている、11-12プレミアリーグ最終節QPR戦での“優勝決定弾”

 だが、2016年が終わり2017年が始まる頃には、アグエロの名を体に彫ることを躊躇うサポーターもいたことだろう。エースのあら探しは、グアルディオラの就任前から始まっていた。そして、就任後の数カ月間に否定的な意見がボリュームを増した。怠慢で時間にもルーズ、相手ディフェンダーのプレスに行かない、ハングリー精神を失っている、食生活が不適切(好物の赤肉を取りすぎるアルゼンチン人の典型)といった具合だ。

 新監督は、チームの主砲に対し、これまで以上の貢献を求めてもいた。就任後間もなく、報道陣の前で次のように語っている。

 「アグエロは、もっと貢献できる。チームのサッカー全体に貢献できる。できれば、シュートとパスの選択や、キープ力を改善してもらえるとありがたい。ボックス内でのパフォーマンスについては何も言うことはない。既に傑出したレベルにある。今後も大いに力を発揮してくれるはずだが、より良い選手になれるように力を貸したい」

 レストランで夕食をとりながらのミーティングも、アグエロに自身のサッカー哲学をより良く理解してもらう一助になればと考えてのことだった。じっくりと話をしながら、他のチームメイトの見本になってほしいという、監督としての願いを伝えたかったのだ。グアルディオラは、シティの10番にも前線からのプレッシングを望んでいた。ポゼッションは譲らないとの決意を持ってボールをキープしてもらいたかった。自分のチームでプレーする他の選手たちと同レベルのハードワークが欲しかった。

 「色々な話をしたんだ」と、アグエロが“ビジネス・ディナー”の真相を語る。本人に話を聞いたのは、2018-19シーズンの後半。確執の噂は、とうの昔に消え失せていた。……

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