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【サッカー小説】カテナチオ炎上 VOL.2「IL MAGO」(魔術師)

2020.12.19

5つのパスポートを持つ男

 「道化師、天才。禁欲者のならず者。模範的な父親、スルタン、忠実な夫、驚くほどの愚者、静かな成功者、巨人狂の健康狂信者。エレーラはこれらすべてに加え、それ以上のものである」

 イタリアのコラムニスト、ジャンニ・ブレラの描いたエレニオ・エレーラ像によれば、とうてい一筋縄ではいかない人物に思える。

 英国『ワールドサッカー』誌の記者、エリック・バッティはこの“怪物”に会うためにキャンプ地の山を登って行った。ちょっとした登山の末にたどりついたホテルのテラスで、エレーラは朝食を摂っていた。

 「父は毎朝、ヨガをするんです。その時いつも自分に言い聞かせていました。『私は強い。私は落ち着いている。私は何も恐れない。私は美しい』とね」

 エレーラの娘、ルナの回想である。ついでに「父の作るパスタはオリーブオイルとパルメザンチーズだけ(笑)」だったそうだ。きっと、この人里離れた山中のホテルの一室でも、気色の悪いヨガをやってから朝食のテーブルについていたに違いない。

 バッティがエレーラを見つけると同時に、エレーラはバッティが何者かすぐに察していた。バッティが挨拶に近づく間もなく、エレーラは指をこする仕草をしてみせた。

<インタビューに金を要求するのか……>

 さらに、金額を指で示しながらエレーラは言った。

 「今日は1日中ここにいるよ」……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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