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ローマに電撃移籍のムヒタリャン。「狡猾なオペレーション」の裏側

2019.09.14

アズーリとの戦いで注目を集めたのは……

 5日に行われたユーロ2020予選アルメニア対イタリアの試合では、イタリア国内からアズーリとは別の対象に注目が集まった。アーセナルからローマに移籍を決めたばかりのアルメニア代表主将、ヘンリク・ムヒタリャンがいたからだ。持ち味とするスピードあふれるドリブルでチームのカウンターを演出し、試合こそ1-3で敗れたが大いにイタリアの守備陣の手を焼かせていた。

 その彼は10日、トリゴリアの練習場で入団会見を行った。「イタリアとボスニア戦の後で、ローマファンからのメッセージをたくさんもらったよ。僕のパフォーマンスに満足してくれていたようだった。全力を尽くし、クラブのために何事も諦めずに取り組むことを約束したい」。ロマニスタからの注目を浴びていたことについて、こうコメントしていた。

 移籍市場がクローズする間際にアーセナルを出ることを決断。「空気を変える時じゃないかと思った。選手にとって大事なのはプレーする喜びを感じることができるかどうかであって、どこでプレーするかは問題じゃない。そしてアーセナルでは、プレーを楽しめなくなった」。そこにローマから話がきて「より試合に出場できる可能性が増えると思った」とオファーを受けることにしたという。

「アーセナルではプレーを楽しめなくなった」として、ムヒタリャンは新天地へ

若手シフトのローマが彼を獲得した背景

 一方で、ローマがどうしてムヒタリャン獲得に踏み切り、成功することができたのかということも注目すべき点である。若手への切り替えを進め、選手の年俸を抑えていた彼らにとって、高年俸のムヒタリャンは獲得対象となる選手ではなかったはずである。「事実、我われは若手の選手に投資を進めており、彼のような選手の獲得は1カ月前なら考えられないことだった」。入団会見に同席していたジャンルカ・ペトラーキSDはこう語った。

 ローマは当初、故障したディエゴ・ペロッティの穴埋め補強を図るため、コリンチャンスの21歳マテウス・ビタウの獲得を望んでいた。ところが交渉の過程で、相手クラブが移籍金を釣り上げてきたために中断。その時、ペトラーキの下にロンドンから情報が届いた。発信源は、ジェームス・パロッタ会長の指南役として知られるフランコ・バルディーニだ。「ムヒタリャンがアーセナルから出る可能性がある」と聞かされた彼らは、代理人のミーノ・ライオラと接触。そしてプレーを優先し大幅に年俸を下げても良いと知らされたため、「今回のような狡猾なオペレーションをするに至った(ペトラーキ)」という。

 地元紙の報道によれば、ムヒタリャンの年俸は300万ユーロで契約はレンタル。ペトラーキSD曰く、クラブの方針そのものを捻じ曲げたわけではない。「投資は若手選手を対象とし、今まであるなら完全獲得に踏み切っていたような(若手ではない)選手でも、レンタル契約で様子を見極めてから考える」というのが今シーズンの方針だ。

 その流れの中で急遽獲得したムヒタリャンを、どこまでチームの中に組み込むことができるのか。次節のサッスオーロ戦では、早速の先発起用も予想されている。

Photos: Getty Images

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ヘンリク・ムヒタリャン

Profile

神尾 光臣

1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。

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