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乾貴士、エイバルでもう一度。「サッカーの父」と再びタッグ

2019.07.28

エイバルの乾貴士

エイバルなら、プラスからのスタート

 乾貴士のエイバル復帰が決まった。素晴らしいニュースだ。ベティスに居た時のように近くで見ることはできなくなったが、これがベストの選択だったと思う。

 残留の目はなかった。前監督セティエンのサッカーは大好きでベティスは必ず彼のクビを切ったことを後悔すると思っているが、セティエンがなぜ乾を獲ったのか、最後までわからなかった。エイバルで左ウイング、アラベスで右ウイングとして持ち味を発揮した乾だが、セティエンのベティスにはそのポジションが存在しなかった。ポゼッションスタイルのセカンドトップや右インサイドMFでは、持ち味のスピード、ダッシュが生きるスペースも時間もない。狭いスペースでも器用にボールを動かせると踏んだのかもしれないが、乾を適応させるよりも、それに適した選手を獲ってきた方が手っ取り早いのではないか。

 結果として、乾は力を発揮できず居場所を失いファンの関心も失った。ロシアW杯での大活躍で期待が膨らんでいただけに失望も大きかった。監督はセティエンからルビに変わったがプレースタイルは似ているし、マイナスから再チャレンジするよりも新天地でゼロからスタートする方が良い、と誰もが考えていた。それがエイバルならゼロどころかプラスからのスタートとなる。

乾とメンディリバル監督の素敵な関係

再び乾を指導することになったメンディリバル監督

 何よりエイバルには乾が「サッカーの父」と慕うホセ・ルイス・メンディリバル監督がいる。乾にインタビューした時には、分け隔てしない公正さという監督としてはもちろん人間的な価値に魅かれ、監督をやってみたくなった、という意味のことを言っていた。

 メンディリバルの方も乾のことが大好きなのは、インタビューした時に質問すると結構きついことを口にしながらも必ず笑顔で答えてくれることでわかった。

 私も2度行っているし、日本人記者から散々乾のことを繰り返し聞かれただろうけど、嫌な顔は決してしなかったはずだ。メンディリバルと乾のことを話していると、どうしても「日本人とは?」という話になる。利己的ではなくチームを優先するのはゴールゲットにはマイナスなのだろうが、そんな日本人的な部分を彼は嫌いではないのだろう。

 対バルセロナ戦後に乾本人に聞いたらPKでなかったと答えたというエピソードを紹介し、「そういうとこまで正直なんだからなー」と嘆いてみせたシーン。アラベス戦の試合中に「ハンドだろ?」と乾に聞き、乾が「胸だ」と返すと「嘘つくなよ」とでも言うように笑ったシーン。ゴールを決められたその試合後会見で「タカは日本人だが面白い奴だ。彼のユーモアを理解しないといけない。ゴールしておいて謝るのだからな。それならゴールするなよ! 彼とは仲良くやっていたし、これからも仲良くやっていく」――。こういう微笑ましい出来事が乾とメンディリバルの間では起きている。

 キャリアップだけがサッカー人生ではない。気持ちの良い環境で気持ち良くサッカーをするというのもサッカー、いや、人生である。

 外国人の絶賛を国内で待つのではなく、日本人選手と日本人の価値を伝えるために国外で戦っている乾と、そんな彼の理解者メンディリバルをこれからも応援していきたい。


Photos: Getty Images

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エイバル乾貴士戦術

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。