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フランスのeスポーツを追う(4)「ゲーム=遊び」ではない奥深さ

2019.05.20

フランスの「eSports」事情についてお伝えするミニ連載。人気ゲームソフト『FIFA』の大会をレポートした第1回、そこで活躍するeスポーツ選手のインタビューをお送りした第2回、PSGのCGO(チーフ・ゲーミング・オフィサー)に話を聞いた第3回に続いて、最終回となる第4回はフランス全体の現在のeスポーツ事情をまとめた。

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プロ選手の現役寿命は24〜27歳

 現在、フランスにいるプロのeスポーツ選手はおよそ400人。年齢層は17〜24歳が中心で、24〜27歳あたりでキャリアを終える選手が多いという。

 プロになると、大会でプレーする以外にも、日々のトレーニングや、他の人のゲームを見たり、対戦相手の分析といったトーナメントの準備等、1日に12、13時間をゲームに費やす選手も多く、集中力だけでなく、肉体的にもかなり要求が厳しいため、そのくらいの年齢で限界を迎えてしまうのだ。また手首を痛める、視力が低下する、というのはよくある職業病だそうだ。

 PSGのように、現役生活が終わったあとも、コーチなど選手のサポート役としてチームに残れる人材を最初からリクルートするプロクラブもあるが、1年契約で成績に応じて更新、という実力主義のクラブもある。しかし多くのプロ選手は、現役引退後もコメンテーターや指導者として、ゲーム関連の職に残る道を模索している。

 日本ではまだ、eスポーツプレーヤーは、それほど広く職業として認知されていない。フランスでも以前は、「ゲーム=遊び」と捉えられていたそうだが、いまでは職業アスリートとして認知されるようになった。

eスポーツ選手もアスリートである

 個人的には、アスリートの定義とは、肉体の鍛錬を極めることにあると思っているが、前回で話を聞いたPSGのCGOヤシン・ジャーダ氏は「eスポーツプレーヤーもアスリートである」と断言していた。

「最高峰の競技者の一角として競技に参加し、最高レベルの選手と対戦する、というのがアスリートの定義なら、まさにあてはまっていますからね。またそこに向けてトレーニングするという点でもアスリートです。肉体を鍛えるわけではないですが、脳も肉体と同じくらい重要だと思いますから、十分にアスリートと言えると思います」

 フランスのeスポーツプレーヤーの平均的な収入は、『FIFA』のトッププレーヤーで月給が5000ユーロ(約62万円)ほど。加えて賞金や、ストリーミングから得られる収入がある。一番収入が高いのは、『Dota 2』や『リーグ・オブ・レジェンド』だ。

 PSGチームは、昨年の『Dota 2』世界大会で初参戦にして決勝に進出し、ファイナリストとして400万ドル(約4億3800万円)の賞金を獲得した(優勝者は欧州選抜チームで獲得賞金はなんと1100万ドル!)。

 ちなみにPSGのような団体に所属しているプロ選手の場合、賞金はクラブ、コーチ、選手で分配する。

 ビジネスモデルもより発展してきていて、ゲームメーカーが専用のアリーナを建てて、チケットセールスやグッズ販売などからも収益をあげるというスタイルなどは、まさにスポーツと同じだ(なんのグッズ? と突っ込みたいところだが、人気プレーヤーのネーム入りTシャツなどは飛ぶように売れるのだそうだ)。

 そうしたイベントでは、チケット入手も非常に困難で、3月に行われた『Dota 2』のスウェーデン大会では、3000席のアリーナが、わずか6時間で完売したそうだ。

 アジアでは、道を歩けばあっという間に囲まれてしまう人気プレーヤーもいる。ネイマールやムバッペがパリの街を歩くような感じだが、実際、フットボール選手よりも多くのファンがいるeスポーツ選手も大勢いるという。

 PSGの『Dota』チームが上海でサイン会をやったときも、400人ほどの来場を見込んで2時間を予定していたら、10倍近い3000人も集まって大変なことになったらしい。中でもスーパースターの『FY』というプレーヤーは、彼がゲーム中に良いムーブをすると、会場から「FY ゴッド!」というお決まりコールが巻き起こるそうだ。

これぞ“eモノ”の醍醐味

 いまやeスポーツは世界現象になりつつある。

 今回、選手や関係者に話を聞いたり、実際に大会を観戦して、eスポーツの魅力として一番に感じたのは、eスポーツでは、ファンも同じゲームをプレーするプレーヤーであるという点だ。

 そこからのし上がったチャンピオンには、憧れもより身近になる。

 そしてeスポーツでは、その憧れのチャンピオンと、まったく同じ競技、同じ土俵に自分も参加することができて、運がよければ対戦だってできてしまう。

 同じ「サッカー」という競技をやっていたサッカー経験者でも、リオネル・メッシとピッチ上で対戦したり、親しく交流するチャンスはそうそうない。けれど、eスポーツのトッププレーヤーたちは、普段、練習や楽しむためにプレーするときは、自分のプレー画面をシェアしたり、気軽にチャットしたり、秘伝のテクニックを伝授してくれたりする。それをまた何千、何万人もが視聴するから、世界がどんどん広がっていく。

 これぞ、”eモノ”の醍醐味だ。

 ”e”の世界なら、現実社会ではそうそう会えない自分のレジェンドとも身近に交流できてしまう。ファンにとってはたまらないだろう。

 もはや「私はゲーム音痴なので」なんて言ってる場合じゃないと思った。eスポーツには、これからもアンテナを張っておかねば……。

Photo: Getty Images

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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