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AIはプレー原則をどう評価する?サガン鳥栖が発見した新しいサッカーの捉え方

2020.10.26

サガン鳥栖が描く「AI×育成」の未来像#3】

サガン鳥栖アカデミー・白井裕之ヘッドオブコーチングインタビュー後編

近年様々なシステムやサービスとして社会に普及しつつあるAI(人工知能)は、将棋やチェスでも活用が進んでおり、その波はスポーツの世界にも押し寄せている。サッカー界でもマンチェスター・シティを筆頭に世界中のクラブがこぞって導入を試みているが、いち早く育成現場での運用を発表したのは日本のサガン鳥栖だった。

すでにユース年代で好成績を収めており、トップチームにも松岡大起らアカデミー出身者を多数輩出している鳥栖は、「育成型クラブ」への転換期にある。その歩みを加速させるべく、2018年1月から提携しているアヤックスに続き、今年5月にAI企業のLIGHTzとパートナー契約を締結した。名門のノウハウと最先端のテクノロジーの融合は、どのような化学反応を起こすのか。新プロジェクトを主導する3人へのインタビューを通じて、鳥栖が描く「AI×育成」の未来像に迫っていく。

後編では、アヤックスでアナリストやスカウトを歴任した白井裕之ヘッドオブコーチングに、AIによる新たなサッカーの分析方法を聞いた。

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AI分析のカギは「プレー原則の定量化」

――「サガン鳥栖モデル」についてご説明いただきましたが、それに基づいた評価をAIでどのように下していくのでしょうか?

 「LIGHTzさんと共同開発しているシステムは『ORGENIUS ATHLETE』と呼ばれていて、熟達者の知見に基づいて開発されたブレインモデルを基にAIが解析をします。もともとLIGHTzさんは熟達者の技能知識・経験をAIによって継承するシステムを開発していて、職人が有田焼を作っている時の頭の中を言語化するなど、思考の汎知化を手掛けられていました。だから、私たちもまずはブレインモデルを作成するために、サガン鳥栖モデルを言語化していきました。そうして完成したブレインモデルに基づいて、AIが試合映像から自動的に評価してくれます」

――例えば、ゲームモデルの習熟度も判定できたりするんですか?

 「もしペップ・グアルディオラのチームのように『5秒以内の攻守の切り替え』というプレー原則があるとしたら、選手がボールを奪われた後の5秒間に記録した走行距離や進行方向を調べれば習熟度がわかりますよね。そうやってプレー原則を検索キーワードとして、AIが自動的に選手個々のゲームモデルの達成度を評価してくれます。ここで重要なのは、プレー原則が『早く』『激しく』という形容詞ではなく、数値化できる指標として定義されていることです。僕も指導する時、形容詞・副詞はほとんど使いません。どのくらい速いか、どのくらい激しいかという程度は人によって違いますからね」

――僕も仕事が終わらない時、帰りの時間を誤魔化すために「あと少しで帰る」と妻に言っていますからね(笑)。そんないい加減なことはせずに、「5秒以内」「10m」など、明確に数値化されたプレー原則に則って、選手が評価されていくということですね。

 「当初はゲームモデルの評価をするためにプレー原則の習熟度やゲームプランの達成度を、リアルタイムで端末に表示できるシステムの開発を進めていました。やっぱり現場のスタッフは試合中だと感情的になって主観的にゲームを見てしまうので、客観的な数値を出すのが狙いだったんです。でも開発を進めていくうちに、それだけでは不十分なことに気がつきましたね」

――何が不十分だったんですか?……

サガン鳥栖が描く「AI×育成」の未来像

Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。