FEATURE

恩師ベニテスとペップとの出会い、異国イングランドとドイツでの手合いを糧に。シャビ・アロンソ“監督”への目覚め(インタビュー前編)

2024.07.14

【特集】新時代の名将、シャビ・アロンソ革命#1

かつてレアル・ソシエダ、エイバル、リバプール、レアル・マドリー、バイエルン・ミュンヘン、そしてスペイン代表をピッチ中央から操った司令塔は、タッチライン際でも絶大な影響力を発揮している。いかに古豪レバークーゼンを立て直し、就任2年目にしてブンデスリーガとDFBポカールの2冠、そして欧州史上最長の51戦無敗を達成したのか。新時代の名将、シャビ・アロンソが巻き起こす革命を特集する。

第1~3回では、スペイン誌『The Tactical Room』の2017年5月号に掲載された現役最後のロングインタビューを、前・中・後編に分けてお届け。18ものタイトルに彩られた18年間におよぶプロキャリアに終止符を打った当時、未来の監督は何を語っていたのか?

 何か強調したいたびにガラスのテーブルを叩く。バイエルンの練習場に振り注ぐ厳しい日差しは、芝生の散水機によってのみ緩む。そのしぶきは時どき我われにも飛んでくる。ミュンヘンの暑さにこの軽いシャワーが心地よい。シャビ・アロンソはサッカーを引退する。彼のゆっくりと考えながらしゃべる言葉の一つひとつに重みが感じられる。これは選手としての最後のインタビューの1つである。

 ロッカールームの手前のサロンからは選手たちの使う練習グラウンドが2つ見渡せる。木製の重厚な床の上にあるスペースは3つに区切られている。選手の家族専用スペース、中央にある卓球台。ここで選手たちがよくシャツにサインをしている。3つ目のスペースにはしっかりとした籐の椅子と不透明なガラスのテーブルが置かれ、選手と彼らの関係者用の談話室になっている。

 シャビは細い声でしゃべる。その声はシャワーから出てきた(マヌエル・)ノイアー、(フランク・)リベリー、(ファン・)ベルナトの冗談によってのみ掻き消される。昼の練習場は沈黙の孤島である。シャビは言葉を噛み締め黙考する。まるでこのコーナーに漂う平穏を壊さないかとするように声の調子を選ぶ。少年の頃の話になると目が輝く。プレーと戦術の話になると興奮してくる。彼の答えは良いパスのようだ。

 シャビはここでサッカーに別れを告げる。

インタビュアーの1人、マルティ・ペラルナウが公開した取材時の写真

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――エピソードから始めましょう。あなたの引退の挨拶に使われた白黒のTwitter(現X)の写真ですが、どこで撮られたものですか?

 「サッカーの写真は使いたくなかった。ジョン・ウェインの西部劇と、映画『許されざる者』にヒントを得た。去って行く者、というイメージで(笑)」

――あなたのアイディアですか?

 「もちろん。で、実行に移したのは私の妻だ。つまりこれ以上ないほどお手製だ。Twitterはいつも使っているし。場所はミュンヘンのグルンバルド、家の近くで息子のジョンが練習しているところだ」

――象徴的ですね。

 「そうなんだ。終わりは始まりと同じ場所。プレーし始めた場所でお気に入りのスパイクを持って去る。好きなことをしたかった」

――キャリアを通じて、今引退を発表した後のようなめまいを感じたことはありますか?

 「ないね。ただ、クラブを変える時には難しい状況に直面しなければならなかったことはある。すべてがうまくいっていて、チームの中で重要視されていて、監督ともフィーリングが合う。急いで出て行く必要性を感じたのはそれらが問題ではなく、新しいものの中で自分を試したかったからだ。ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)からリバプールへ行った時、リバプールからレアル・マドリーへ行った時、レアル・マドリーからここミュンヘンに来た時もそうだった。この最後の決断は去年から考えていたことで、最後が近づいていたと感じていた。もし去年、決断していたら、もっとめまいを感じていただろう。それに比べれば今年は正しい決断だったという確信がある。たくさん自問自答してきたから今は落ち着いている」

――正しい時期だという確信はどうやって得たのですか?

 「いつも状態が良いままで、自分が選んだタイミングで引退したいと考えていた。他人に決めてほしくなかった。だから引退を余儀なくされる前に自分で先を取ったというわけだ」

――去年だとなぜよりめまいがする決断だったのでしょう? プレシーズンは大変だったとは聞いていますが。

 「それはあくまで突然の予感、あまり考えなかったものだったから。『もう、その時期なのか』と自問し、引退ができないわけではないと知った。だけど、怖かったし、目が回った。だけど今年は良いタイミングだと感じた」

――フィリップ・ラームの引退と重なったのは偶然だったのですか?

 「偶然だよ。私は私で選び、彼は彼で選んだ。2人ともまだやれるタイミングだったのも同じ。そういえば代表を引退したのも同時だった。まあ彼は優勝後だったけど(笑)」

――ラームの理由はこうでした。練習でも試合でもキャプテンとして模範になり続ける約束があと1年はできない。あなたの場合もモチベーションが保てないのがカギでしたか?

 「メンタルと動機を整え直せば、あと1年は同じレベルを保てたかもしれないと思う。しかし一度決断し、終わりの時期を決め、カウントダウンが始まっている。残り何試合か数えたし、1試合ずつ消していっている。私の頭の中では引き算が始まっている。5月20日の土曜日3時半のフライブルク戦が私の最後の試合になる。楽しい1日となるはずだ。マイスターシャーレ(ブンデスリーガの優勝トロフィー)を渡される日だからね。ビールのシャワーを浴びて祝う日が、私がスパイクを置く日となる」

インタビュー後の2017年5月20日、同じく現役を退くラームとともにマイスターシャーレを掲げたシャビ・アロンソ。2014年夏から3シーズン所属したバイエルンでは117試合9ゴール12アシストで、ブンデスリーガ3連覇とDFBポカール、DFLスーパーカップの各優勝1回に貢献した

――決まりきった質問ですが。さて、これから何をしましょう?……

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イサック・リュック&マルティ・ペラルナウ